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この世界、あの世界─『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』

広島県呉に嫁いだすずは、夫・周作とその家族に囲まれて、新たな生活を始める。昭和19年、日本が戦争のただ中にあった頃だ。戦況が悪化し、生活は困難を極めるが、すずは工夫を重ね日々の暮らしを紡いでいく。
ある日、迷い込んだ遊郭でリンと出会う。境遇は異なるが呉で初めて出会った同世代の女性に心通わせていくすず。しかしその中で、夫・周作とリンとのつながりに気づいてしまう。だがすずは、それをそっと胸にしまい込む……。
昭和20年3月、軍港のあった呉は大規模な空襲に見舞われる。その日から空襲はたび重なり、すずも大切なものを失ってしまう。 そして、昭和20年の夏がやってくる――。

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『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』を観ました。
2016年に公開された『この世界の片隅に』、クラウドファンディングによる制作、数少ない上映館からじわじわと広がり、多くの人の心に残ったすごい作品です。自分も鑑賞当時に感想を書いています。上映終了後に拍手が起こるなんてはじめての体験だったのをよく覚えています。

徹底的な考証や人物の豊かな動きが緻密に表現されているこの作品のすばらしさを知るにはこちらで触れている本を読まれるといいでしょう。


さて、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』は『この世界の片隅に』と何が違うのか。
原作組であれば印象に残っているであろう白木リンさんのエピソード。

『この世界の片隅に』では登場はするもののそこまで深くは触れられていませんでした。本作では、その白木リンさんとのエピソードを中心に新しくカットが追加されています。その結果、映画の尺は168分に。アニメーション映画としてはなかなかお目にかからない長尺の映画となっています。

この追加によって何がもたらされたかというと(前回の『この世界の片隅に』を観たのがずいぶん前の話だとしても)、自分の記憶にあった『この世界の片隅に』とはまったく異なる映画と思えるほどの変貌を遂げているのです。つまり、新たに追加されたカットにより明らかに物語の軸が違うものにスライドしているのです。それどころか、物語内に散らばれていたあらゆる事象が追加カットによってより深みを増してさえいます。
たとえば、本作においては、新しく大雪の日と台風のシーンが追加されています。このシーンは下記記事によれば歴史上の事実に基づいたものらしいです。

原作から存在しているシーンではあるが、片渕須直監督によると「昭和20年2月25日に日本全国で大雪が降った」という事実も反映しているのだそうだ。

このことによりこの作品にはより深く「すずさんが生きた時代の体験」という要素が感じられるようになっています。わたしたちはすずさんが過ごした四季の移ろいを一緒に体験するのです。


ある物事が別の出来事によってまったく別の物事へと変貌していく。
この作品に追加された新規カットによって物語の印象が大きく変わる。そのことは、すずさんの夫・周作がつぶやく

「過ぎた事 選ばんかった道 みな覚めた夢と変わりゃせんな」

がある意味ではふたつの映画が「違う世界」を描いていることを示唆しているセリフのように思えました。

映画を観た余韻で衝動的に書いていますが、どの部分が追加された部分でどう変化していたのか2016年の『この世界の片隅に』を観返してよーく考えてみようと思います。

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