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小説「Neon」

秋が運んでくるのは哀愁の風だけではない。

受験生の葛藤と、それぞれの進路だ。

高校三年生の夏葉は、登校しながらその坊主頭を悩ませていた。

夏葉という名前ではあるが、男である。

秋らしい晴天の中、夏葉はとぼとぼと歩く。

(志望理由書…なんて書こうか…)

高校では真面目に授業を受け、成績もそこそこにとっていた夏葉は、この時期「推薦入試」を受けることになったのだった。

夏葉が目指しているのは都会のZ大学。
一個上にいたあこがれの先輩の春樹先輩が進学した有名大学だ。

まさか自分が推薦入試を受けられるとは思っていなかったが、嬉しさ反面不安が押し寄せる夏葉であった。

そこで学びたいことは何なのか?
具体的な指針は?目標は?
今までやってきたこと…
俺は何をしてきたのだろうか?

そんなことを考えているうちに、1日が終わろうとしていた。

最後のチャイムがなる。

今日は水曜日。

志望理由書の提出は今週の金曜が締切だ。

どうしようか…。

部活も引退した夏葉は、帰り道をとぼとぼと歩き始めた。

友達がセブンイレブンのおでんを激押ししていたことを思い出した。

そうだ、おでんでも食べていこう。

期待通り、セブンのおでんは今まで食べた他のコンビニのおでんよりも美味しかった。

一息ついた夏葉は、また悩み始める。

しかし、心に余裕が出来たのか、
春樹先輩に連絡してみようという手段を思いついたのだった。

(電話して、アドバイスをもらおう、なんでもいい。なんでもいいんだ…。)

電話をかけると、春樹先輩はすぐに電話に応じた。。

――――――――――――――――

「もしもし?」

「おっ、もしもし?夏葉か?」

「そうです!お久しぶりです!実は相談があってお電話を…

先輩はZ大学にどうやって入りましたか?」

「どうって…(笑)
普通に、一般入試だけど?」

春樹はなんだか居場所のない情けなさを感じた。

「実は…僕もZ大学を受けようと思っていて…。推薦ですけど。」

「おお!そうなのか!!
ほいじゃ、がんばれよ!!!」

「いや…、すいません。。
それで、少し、アドバイスをもらいたく…。」

「え?(笑)アドバイス?
俺、受けたことねぇけど(笑)」

なんだか夏葉は失敗しているパラレルワールドにいるような気分になった。

「すいません…。でも少し、Z大学についての情報とか、もらいたいなぁ…と思って。。」

だんだんか細くなっていく夏葉の声。

それを察したのか、先輩の春樹は少し考える。

「…。そうか。じゃあアドバイスしてやるよ。まず、今何に困ってる?
よく聞いててやるからよ。」

「え、っと…。志望理由書に書く内容が思いつかなくて、どうすればいいのかなって…。」

「そうか…。それならまず、具体的なテーマを決めるんだ。大学入って、学んで、それを活かして将来やりたいこと。
それに一貫してるテーマを見つけるんだ。」

夏葉は、ふと、昔老人ホームでボランティアをやっていた時のことを思い出した。
あの時、おじいちゃんおばあちゃんは、自分の一挙一動に感謝してくれて、笑ってくれた。それが夏葉にとっては忘れられない体験だった。

「そうですね…。高齢者の支援と、その為に福祉のことを学んで、若者と高齢者の距離を縮めていける企画をどんどん考えていきたいです。
それで、おじいちゃんおばあちゃんが元気になればなぁ…って。」

「いいじゃん!!!それ!!!お前の目指す学部に合ってるし!!!じゃあそれの具体的な目標を設定しなきゃな。」

「具体的な目標…というと?」

「高齢化社会の中で、自分の働きで地域の高齢者をどれだけ、どんな方法で楽しませられるか、支援できるかを、なんか…こう…方法として示すんだよ!」

先輩からアドバイスされればされるほど、なんだか自分が言っていることが大きいことのように思えてきた。

本当に自分はできるのか。

「いやぁ…思いつかないです…汗」

夏葉は、またボランティアのことを思い出した。おじいちゃんおばあちゃんの為のお祭りで、俳句や盆栽などの文化的発表が主な祭りだった。

そこにいたおじいちゃん、おばあちゃんはなんだか輝いて見えた。

「生きがい」ってこういうことなんだろうな、と夏葉が思った瞬間だった。

でも、その時、祭りを運営していたのは、地域でも有名な仕切り屋のおじさん。

テキパキと祭りを運営して、進行していたあの姿が自分に務まるとはどうしても思えなかった。

夏葉は

「う〜ん…。」

と、具体的な案を思いついたのにも関わらず、自信がなくて言えない。

春樹は、部活の先輩だ。
夏葉のことは、一年生の時からよく見てきた。
面倒見がよい春樹と、アドバイスにも「はい!」と従順に従う夏葉は、
まさに先輩と後輩を絵にしたような関係だった。

そんな夏葉の様子を、春樹は自然と察したのだった。

「夏葉…。なんだか悩んでいるようだけど、ひとつ言わせてもらうぞ。」

「はい。…なんでしょうか?」

「お前がな、如何に悩んでいようとも、俺は味方だ。口に出してみろ!」

春樹は銘々とした口調でそう告げた。

夏葉は、先輩に世話を見てもらっていた今までのことを思い出す。

先輩は、ぶっきらぼうで、大雑把なところもあるけれど、アイデアや、アドバイスはいつも的確だった。

夏葉は、改めて春樹を信頼して、言う。

「はい。実は、アイデアがあって。……えっと。。おじいちゃんおばあちゃんの為のお祭りを開くんです。文化的発表を主にした。それを仕切って、高齢者の生きがいのある場所を作っていきたいんです!!

しかし夏葉は依然として不安げだ。


…春樹は決まっていたセリフを吐き出すかのように告げる。

「心配すんな!!!」

「…!!」

「出来るか出来ないかじゃねぇ!

とにかく志望理由書に書いてみろ!

今は嘘めいたことなのかもしれねぇが、

その思いがいつか芽生えて形になる日がきっとくる!だから心配するな!

最初は嘘かも知んねぇが、いつか本当になることだって、よくあるんだぜ。

とにかくそれを書くか、書かないか、だ。

出来るか出来ないかの問題じゃねぇ。

書くべきだ。いや書け!」

頭をガーンと打ち付けられたような衝撃が夏葉を貫いた。

これ以上ないアドバイスだった。

夏葉の思いは、春樹のアドバイスによってガチガチに塗り固められた。

もう、夏葉に迷いはない。

そして、不安も吹き飛んでいた。

「はい!先輩!!!!
やってみます!!先輩のおかげで志望理由書が書けそうです!!!明後日までだったんで、本当に危なかったです…(笑)」

「え??(笑)危な!!!(笑)

そりゃ良かったわ。頑張れよ!」

ガチャ。ツー、ツー、ツー、ツー。

――――――――――――――――

なんだか切る時はあっさりした人だなぁ。
夏葉は思った。

しかし、いつまでも頼れる先輩だなぁ、とつくづく感心した。

セブンを通り過ぎて、駅に向かう。

目の前の大きなビルの「カラオケ」の文字がネオン色に輝いていた。

光り輝くネオンはうっすらと光を弱めていった。

時計を見たら、電車の発車時刻まで、もう、あまり時間が無い。

夕暮れに染まる街並みに、夏葉は勢いよく駆け出していった。

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