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敗戦後30年ジャングルでスパイ活動 映画『ONODA 一万夜を越えて』

ONODA 一万夜を越えて(2021年製作の映画)ONODA
上映日:2021年10月08日製作国:フランス日本ドイツベルギーイタリア上映時間:174分
監督 アルチュール・アラリ
出演者 遠藤雄弥 津田寛治 仲野太賀(太賀) 松浦祐也 千葉哲也 カトウシンスケ 井之脇海 足立智充


「そういう人を賛美するような映画だったら僕は参加したくないな」by松浦祐也さん

小野田寛郎に関してそんなに詳しいわけではないですが、NHKのドキュメンタリー「ハイビジョン特集 生き抜く 小野田寛郎」をちょうど昨年観ていました。

同じく残留日本兵で終戦から28年グアムに潜伏していた横井庄一とごっちゃになってたレベルで、

横井庄一は終戦を知らなかった(?)けど、
小野田寛郎は終戦を知っていたけど次の戦争に向けて潜伏しながらスパイ活動を続けていた人だったり、
帰国後は戦後日本の極右勢力の英雄として扱われていた人だったと知りました。

この映画『ONODA 一万夜を越えて』が、戦争や日本軍を礼賛する系の映画だったらヤだなと思って敬遠していました。

しかし、↓コチラの動画で
出演されている松浦祐也さんが「オーディションに声をかけられていたけど、(中略)そういう人を賛美するような映画だったら僕は参加したくないな」とおっしゃっていて、
森直人さんも「ヒロイックな小野田像になっていたら辛いな、と」ともおっしゃっていまして、

↑この箇所を見て「じゃあ僕もきっとこの映画大丈夫そうだ」と思いましたし、とにかく絶賛されていたので、上映時間179分ってのは怖かったですが、、観に行きましたよ!

今年ベスト10級なのは間違いナシッ!

原作はフランス人ジャーナリストのベルナール・サンドロンによる『ONODA 30 ans seul en guerre(小野田――その孤独な30年戦争)』

監督もフランスのアルチュール・アラリ。
フランス、ドイツ、 ベルギー、イタリア、日本の合作映画です。

制作が日本やフィリピンではなくヨーロッパ諸国であることで、すごく客観的な視点になっていてそれがとても良かったです。

史実をそのまま描けばストレートに反戦のメッセージになる ってことがわかっている映画の作りでした。

上映時間3時間ずっと根底には反戦のメッセージが貫かれているんだけど
史実に基づく過酷で皮肉な展開で3時間ホントに飽きなかったです。

人物描写もとても豊かで、ユーモアもあるし、
4人が残ってからは2対2のバディ対決みたいにもなってきて、
かな〜りBLチックな艶かしい描写も入ってきたりして、、
特にこの4人のことが観客は好きになっていくだろうし、
そうすると一人一人減っていくのが辛く寂しくなる。。

30年間の潜伏期間とさらに陸軍中野学校での学習期間の回想シーンもあるので、3時間でも目一杯情報は詰め込まれています。

サクサクと展開して飽きてる暇はないです。


ダーティな部分も

潜伏期間中にフィリピン人を殺害した事件もちゃんと描かれています。

しかもその描写がすごく丁寧でした。
人を殺すということ、人が死ぬということをすごく時間を使って描いていて、
それ故に恐怖が増すし、命に重みが増すし、
それは「反戦」のメッセージへとつながっていく。

人間や生死をちゃんと描けばそれは反戦になる。


感情が揺さぶられる

陸軍中野学校は秘密戦と呼ばれるスパイを育成する学校で、小野田寛郎はそこの卒業生。
他の日本兵と違って「絶対に死ぬことは許されない」と教わっていた。

とにかく上官からの指令を守って30年も孤独の中で任務を遂行し続けていた男に対して、正直ちょっと尊敬の念も感じ始めてくるんです。。

簡単に「なんて愚かなんだろう」と切り捨てられなくなってきます。

ラスト、小野田寛郎ひとりになったところで、空気の読めない感じの仲野太賀が現れた時に
「小塚や島田、赤津が繋いできたこの世界を壊さないでほしい」と思ってしまいました。

自分がちょっと小野田寛郎側の気分になっちゃってることに動揺しました。


ラストシーンでも「反戦」や「戦争の愚かさ」は声高には語られません。

ただただ淡々と史実に基づくにシーンを重ねていって、俳優の表情を映し、キャラクターの目に映るものをカメラが追っていくだけです。

上官役のイッセー尾形が陸軍中野学校時代にはキリッとビシッとしていたのに、30年後に再会した時はシャツをボタンもちゃんと閉じられていない状態で変わり果てた姿で小野田寛郎の前に現れる、という残酷でとても皮肉なシーン。

自分が信じていたものが今やこんな感じになっちゃってんのかよ!と知る残酷なシーン。
でも小野田はそのリアクションができない。
それを認められない。
おそらくこの上官なんかよりもっと上の崇高な国体思想(?)に仕えている自分をイメージしたのではないかな、と思いました。


人間というものは

戦争というものは人間をこんな風にしてしまうし
人間ってのはこんな風になってしまうものである。

それは史実が証明している。

ならばどうしたら2度と繰り返さずに済むか。

その一つが「忘れない」ってことなのでしょう。

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俳優全員最高

最後に、俳優全員最高。

青年期の小野田を演じた遠藤雄弥の、自分の中に揺らぎがあることを外に出してはいけない!という1秒も緩まない緊張感ある演技。

その遠藤雄弥の演技をサラッと引き続きさらに月日の積み重ねも感じさせた津田寛治
思い返してみるとほとんどセリフなかったはず。
でも観客は顔を見ただけで自動的に想像し始めてしまう、この男の感情を。

助演の皆さんも全員素晴らしかったですが、筆頭は松浦祐也
リーダー小野田に支える犬のような視線でありつつ、常にちょっとふざけてるように見える軽さ。その全てがとても人間らしくて愛らしかった。
助演賞獲って欲しいんだけどなぁ!

一応この映画フランス映画ってことになるんよね。国内の賞は厳しいかぁ。。

そしてこの映画の中で一番異質な存在仲野太賀
2018年11月から2019年3月までカンボジアで撮影されていたとのことなので、ドラマ「今日から俺は!!」の撮影の後にカンボジアに行ってるんですね。
小野田をはじめとする4人が作り上げてきたジャングルの中の世界観を壊しにくるという難役。
しかも「なんなのこいつ!」っていう空気読まないキャラ。
それを持ち前の人懐っこさと真実味で演じてました。

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「自分が外国人だから実現できた、ということはあるかもしれない」

アラリ監督も「自分が外国人だから実現できた、ということはあるかもしれない」と言っているとのこと。

確かに日本ではこの題材を映画化できる文化的な土壌がないと思いますし、結果的にフランス人監督が撮ったことで客観性が生まれて、普遍的で複雑な反戦映画になったと思います。


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