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消された(or超薄められた)同性愛要素 映画『フライド・グリーン・トマト』ネタバレあり

14〜15歳くらいのときに観たのかなぁ。


ビデオ借りて。

いい映画だったと言う記憶はあるけど、まっったく話を覚えていない。。

たしか同性愛的なニュアンスがあったような…くらい。

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漫画『違国日記』にこの映画がちょっと出てくるらしくて
その流れで数十年ぶりに観ましたよ。

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ほんとに全然覚えてなくて、、観始めても全然話を思い出さないから、8回くらいびっくりしながら観ましたよ。

終盤は「えええええ(笑)」みたいに笑いと共にびっくり。。

こんな衝撃、、なんで忘れてたんだろ。。
たぶん子供過ぎてよくわかってなかったんだろうな。。

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なんかアメリカの田舎の昔話を描いた映画って、素敵なんですよね。
素敵に見えちゃう。

美しい自然があって
機関車が走ってて、
まだ馬車もあって
女性たちの服もおしゃれで華やかで
当然映画スターたちはみんなグッドルッキングで、って。

子供の頃にスルーっと観た記憶のおかげで
素敵な印象しか残ってない。

『リバー・ランズ・スルー・イット』もかなり話はキツめだったはずなのに美しい自然しか記憶にない。。

『フライドグリーントマト』も美しい記憶だけはあったけど、実際観てみると、、まぁなかなかに過酷な話でした。。

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大人になった今、

「舞台は1920年代のアラバマ」

って言われると
こりゃすげえ話が始まるぜ、と覚悟をします。

1920年から1950年くらいまでを描くので、

ジム・クロウ法が絶賛施行中だし
KKKがノリノリで活動中だし
世界恐慌だし
アラバマってことはモンゴメリー・バス・ボイコット事件だし
ってことでやることたくさんあります。

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この映画では
上記のような社会的事件は直接的には描かれないけど

こういう社会のインパクトが波紋となって

地方の、
名もなき町の、
駅前の集落にまで影響して、
有色人種や女性や障害者などの弱者が苦しめられる様子が描かれます。

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裁判の陪審員が全員白人男性で
黒人の被告を裁くシーンとか、
KKKとか
1980年パートの夫とか、

一貫して白人男性を敵として描いてますね。


牧師(ルースの父)や
グレイディ(イジーを好きな保安官)でさえも、味方の時もあれば全然そうでない時もある。
確固たる自分がない人。


クリス・オドネル演じるバディもいずれはこんな男になったんでしょうか。


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当然のように黒人はお手伝いさん

として存在してます。
ものすごく礼儀正しく2歩も3歩も引いた感じで、白人に対して正しく存在しています。

たぶん子供の頃に見たときは、なんとも思わずにスルーしちゃってたんでしょうね。

今見るとほんとに恐ろしいなと思うんですが、
彼らは本当に無害な存在で、
要所要所でボディーガードのような使われ方をします。

で、
黒人の言うことは信用できないっつって首吊られそうになったりするんだけど、それでも一貫して「大人しい」


支えてる白人家族(イジー)には心を開いているように見えて、実は違う。

恐怖ですよ。
このイジーたちにさえも逆らったらこの人たちは生活ができない。

いい相談役になったり、たまに優しく諭してくれたりはするけど
人間が持つ自然な苛立ちや怒りや苦しみを表現するシーンはないし
それを受け止めてくれる白人もいない。

(『ROMA/ローマ』と同じですよ。家族だと思ってるのは白人の方だけ。。。)

この時代でも黒人は便利に使われていたし、
この映画でも黒人は便利に使われていました。


「善き黒人」

ならいてもいいよ、という考え方がナチュラルに存在してる。

チョー怖いけど、子供の頃に見たときは何にも感じなかった。
「黒人ってのは白人の家に仕えるもの」だと刷り込まれただけ。

おっそろし。。

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現代(と言っても1990年)パートと昔パートが交互に来ます。

高齢者施設にいる老女(スレッドグッドの後家だと言ってましたね)のニニーが、イジーという素敵な女性を回想するという話を、
専業主婦のキャシーが聞く、というシステム。

ニニーとイジーは親戚、みたい設定で話しているんでしょうね。
オチに関係してくるわけですが。

ニニーを演じたジェシカ・タンディはこの演技でアカデミー助演女優賞候補になってるだけあって、素晴らしい。ただただ座って喋ってるだけなんですけどね。

あとキャシー・ベイツも素晴らしい。
「私はもうホラー映画の怖い女じゃない!」ってセリフがあるんですが、『ミザリー』は今作の前年の作品だから、台本にこのセリフ入ってるのはおかしいので、日本語版だけのオモシロ翻訳なのかな。

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キャシー・ベイツはイジーという女性の話を聞いて
こんなにも自由にいきた女性がいたのか!と感化されて
「いい奥さん」やらなきゃいけないと思っていた(でもできなかった)自分から解放されます。

彼女の夫は悪人ではないんですが、妻が見えていない人。
家政婦としか思っていない人。


キャシー・ベイツは最初はフリフリのピンクの服を着ています。
ゴージャスなパーマも当てています。いい奥さん風。

それが後半からは髪はストレートに、そしてラフなブルーのシャツになります。

顔つきも全然違うし、
駐車場で若い娘の車に激突させるシーンとか、
その前からもう顔が面白い。。

表情が本当に素晴らしい。

ラストである真実を明かされる、っていうか明かされないんですけど、、それを聞いた彼女の表情で「あ、、、そういうことか。。」とわかる。

素晴らしい女優たちの演技大会。


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原作にはガッツリあったらしい同性愛要素はほっっっとんど消えてます。

「彼女を愛しています」と言われても
なんかアメリカ映画で、しかも女性同士ってことになると、、友情かなとか人間愛かな、、って感じもしてしまう。

イジーがかなり型にハマったボイビアンだし、恋人もいないし、結婚とかあり得なさそうなので、そういう話なのかな、という匂いはガンガンするんですけど、やはり決定的な一打からは逃げている。

同性愛まで入れると要素が多すぎると判断されたんでしょうね。
映画『母さんが僕をどんなに嫌いでも』現象ですね。


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この映画、途中で殺人事件も起こりまして、
犯人は誰?というヒキも加わります。
ミステリーではないので犯人を予想しても面白くはないんですが

そもそもこの事件には根深い女性差別があり
犯人がわかると今度は根深い人種差別も見えてくるので

この映画の中ではとても重要なファクター。


***


ネタバレは以下に。









イジーとルース同性愛の関係にあったということですね。
原作だとどれほど深い関係があったのでしょうね。

映画では「ちょっと深めの親友」って扱いだと思います。
1991年なんだから流石にもうちょっと踏み込んで欲しかったです。


***

フランクを殺したのはシプシー(イジーの家のお手伝いさんの女性)。
演じたシシリー・タイソンは黒人女優の草分け的存在の偉大な偉大な女優さん。


フランクはルースとの子供を誘拐しようとして家に侵入。

果敢にも前に立ちはだかったシプシーはフランクに殴り飛ばされ、失神。

密かにルースに心を寄せていたアル中のスモーキーもフランクと戦うのあっさり倒される。
(フランキーは元軍人ですかね。PTSDで酒に溺れるようになっちゃった?)

で、シプシーがフランクの背後からフライパンで殴る。
するとフランク死んじゃう。

「大変なことになった」と思ったビッグジョージがイジーを呼びに行く。

で、相談。
イジー「シプシーは正当防衛よ」
ジョージ「黒人の言うことなんて誰も聞かない」

で、イジー思いつく「ジョージ、バーベキューを焼いて!」

黒人のお手伝いさんはバーベキューを焼く係だったんですね。
昔のバーベキューは今のと違って、堅くて美味しくもなんともない肉を数時間かけて丁寧に焼くことで食べられるようにする調理法。

だから、真夜中から肉を焼き始めるってのは不自然な話ではない。

何が不自然かって言うと、今回はその肉が人肉であると言うこと。。
フランクは解体されて、焼かれましたね。

で、この事件を追う警察はイジーの店に来るたびそれを食べてましたね。

「秘伝のソース」って言ってたので、ソースに混ぜたのかな。
じゃあほかのお客さんも食べたのかな。
ダメだよね。


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フランク殺害の容疑をかけられたイジーとジョージは裁判に。

でも死体も見つからないし、
ルースの父の牧師の嘘の証言によって
2人は無罪に。

(フランクは事故って車で橋から転落したということになる)

ルースは事件の真実は知らないし
自分の父が嘘の証言をしたことによって2人が無罪になったことを知っているので
もしかしたらフランク殺しの犯人はイジーかも、と最後まで思っていた。


****

ルースは病死。
列車も廃線になり、店も閉店。小さな町も消えてしまった。

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エヴリン(キャシー・ベイツ)はニニーを引き取って一緒に暮らすことに。

どうやらエヴリンは子供亡くしているらしいですね。
一切子供の話出てこないもんね。
「あの子たちは全然顔も見せやしない!」的なセリフもないから。
いないんでしょうね。
でも子供部屋はあったから、いたんでしょうね。亡くなったんでしょうね。

その辛さから、2人はめちゃくちゃ食べるように。
夫は家にいるのが辛くてスポーツばっかり、なのかも。家庭から目を逸らしたかったのかも。


ちなみに後半エヴリンは仕事を始める。映画では何の仕事かわかんないけど原作では「黒人教会」らしいです。


****

エヴリンがニニーを迎えに行くとニニーは退所していた。

自分の家に帰ったが、老朽化のために壊されていた。
ニニーには知らされていなかった。
行政ひどくない???
今日からどこで寝るのさ。

そこにエヴリン登場。
「一緒に暮らしましょ」
「あなたの旦那さんは?」
「感謝するわ」

***


ルースの墓に花と手紙が手向けられている。
手紙の差出人には「イジー」と。

エヴリン「イジーは生きてるの??」
てっきり死んでるかと思ってたけど。

ニニー「そうね」
エヴリン「今日会えるかしら」
ニニー「きっとね」

ニヤリ、とエヴリン。

ニニー=イジーでした。

終わり。


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