見出し画像

大学から卒業をなくす、という提案

日本の大学はほとんどが在籍年数に制限があり、たいてい8年で卒業できないと「除籍」というかたちで放り出されてしまいます。

しかしこの制度、私たちの人生の選択肢を大幅に縮める要因になっていないでしょうか。
大学を卒業しないと就職できず、就職しないと結婚できず、結婚しないと出産できず…というわけで、この順番をひとつでも狂わせた人は、激しく人生が試練になります。

そこで提案したいのが「大学から卒業をなくす」ことです。
これは単に際限なく留年していい、というだけではなく、所定の単位をきっちり取っても「学士号取得」になるだけで、誰も卒業にはならない、という制度です。
最終学歴としては「○○大学を卒業」ではなく「○○大学の△△学部で△△学士号を取得」になるわけです。
もちろんその時点で就職してもいいのですが、退学手続をしないかぎり、大学に籍は残ります。その後は年間少額の在籍費を払えば授業料はかからず、必要に応じて1単位いくらで授業を履修することができます。図書館や体育館などの施設利用も予約・年会費制にして使う人だけ払うことにします。

この制度のメリット

1. 生涯学び続ける、という意識を高める

そもそも大学は最高学府であり、ファウスト博士のごとくすべての学問を究めつくしたという人でもない限り、卒業などできないとも言えます。
私自身も、たとえば「こんなに洋書を扱う仕事になるとわかっていたら、もっと学生時代に語学をやったのに」みたいな後悔があります。
大学に在籍していれば、その時点で語学科目を履修すれば済みます。社会人入試で大学に入り直したり、民間の語学学校に通うよりお手軽で安上がりです。だいたい18歳から22歳までのあいだに将来必要になる知識を正確に予測するなどできるはずがないですし、必要に迫られて勉強するほうがモチベーションも高まるはずです。

2. 柔軟なライフプランが描ける

たとえば大学に入ってから18歳で出産して、育児と並行して学業を続け、第2子が小学校に入った28歳で学士号を取得して就職、ということもありえます。
あるいは親が失業して学費が払えなくなった、という場合、とりあえず就職して学費の貯まり具合に合わせて少しずつ残りの単位を取るとか。
法学部で法学士→看護学部で看護学士とか、経済学部で経済学士→芸術学部で芸術学士とか、方向性の変更にも対応できます。

3. よりどころとしての大学

現状では大学を卒業して就職できなかったら、何者でもなくなってしまいます。身分を証明するものもなく、社会から孤立しかねません。
卒業しなければ、無職でも失業しても定年退職しても大学生です。学生証が使えますし、大学に行けば同級生や先生や職員に相談もできます。
コミュニティやネットワークとしての大学という機能は無視できないと思います。

4. 大学経営の安定化

人口が右肩上がりの時代では、後がつかえているのでどんどん進級させて卒業させて追い出す必要があったのでしょうが、今後18歳人口は減り続けます。一方で人間の学びたいという意欲は年齢制限などありません。そこをつなぎとめられるかどうかは、けっこう大学の浮沈にかかわってくるのではないでしょうか。

大学図書館に期待すること

私も図書館員として、大学図書館が社会のなかで果たす役割がもっと大きくなればいいのに、と思うことがあります。
どこの研究機関にも所属していない在野の研究者や研究費のつかない非常勤講師、その他自腹での資料収集が難しいけれど学ぶ意欲のある人にとっては図書館が頼りですが、専門書については公共図書館だけでは限界があります。
卒業しない在学生として多くの人が少しずつ費用を負担し、そのぶん必要な人が恩恵を受けられるようになればいいと思っています。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?