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当院では健康長寿を目指すために、運動療法と栄養療法を積極的に取り入れております。

栄養療法は生活習慣病の予防、治療に関して最も重要です。

食事の偏りや栄養バランスを整えることを伝える場面が多いですが、今回は時間栄養学について紹介したいと思います。

あまり聞いたことがないかもしれませんが、時間栄養学は食事のタイミングが健康や体重管理にどのように影響するかを研究する分野であり、体内時計が食事の消化や栄養の吸収、代謝に深く関与していることに基づいています。

例えば夜遅くに食事をすると太りやすいと聞いたことがあるかもしれません。これも時間栄養学で説明ができます。

その他にも血糖値を安定させるたり肥満を改善する食べ方、タイミングなどもあります。

サルコペニアを予防し筋肉量を維持するためには朝食、昼食、夕食どのタイミングで何を食べれば一番効果的であるかなど、健康長寿に欠かせない分野です。


時間栄養学をみていく際に重要な物が『体内時計』です。
海外旅行などで時差ぼけなどと言ったりしますが、これも体内時計のずれが生じています。

人の体内時計の中枢は視交叉上核という部分です。

この部分で睡眠や覚醒、体温リズムなどを調整しています。

その他にも各臓器にも体内時計があることがわかり、それらを末梢時計と呼ばれています。

体内時計を見る上でわかりやすいものに朝型と夜型があります。

ご自身がどちらであるかはなんとなくお分かりだと思いますが、これらにも体内時計や時間栄養学が関係しています。

一般的に夜型の方が肥満になりやすいというデータがありますが、そこには夜遅くに食事をしたりお酒を飲むケースが多く、逆に朝ごはんを抜くという習慣の方が多いためではないかと考えられます。

つまり食べるものとそのタイミングが体内時計や病気、体調に関わっている可能性があるということです。


一般的に仕事や学校などの社会生活は朝型です。

つまり社会生活をする上では朝型の方が都合がいいことになります。
しかり現代人、特に若い世代は夜型が多いため、社会生活に支障をきたしている方が多くみられます。

早寝早起き体質にして朝型にするためにお勧めな食事が朝にタンパク質を多く摂取することです。

タンパク質の内必須アミノ酸のトリプトファンはセロトニンの合成に重要な働きをします。セロトニン自体が体内時計の調整を行う上、セロトニンから合成されるメラトニンが多くなることも重要です。

メラトニンは夜に睡眠を引き起こす作用があるため、早寝を実現することができます。

その他にも青魚に含まれるヒスチジンや食物繊維なども体内時計を整えるために重要な働きをしています。

食物繊維ではイヌリンという栄養素が効果的です。
特に朝、タンパク質とイヌリンなどの食物繊維を多く摂取することで、便秘の改善や生活習慣病の改善、肥満の改善、血糖値の安定化などの効果があります。

和食は体によいイメージがありますが、朝食に卵や魚を食べる理由はそこにもありそうです。


またよく注意される間食なども摂取の仕方によってはプラスに働く場合もあります。

例えば、昼食から夕食まで8時間あるとします。
昼食から4時間後に間食を摂る群と摂らない群で夕食時の血糖値の変動をみた研究があります。

すると間食にクッキーなどを摂取した群の方が、間食をしなかった群と比較して夕食時の血糖値の上昇が抑えられたそうです。

つまり適切に間食することで血糖値の変動を小さくできる可能性があるということです。

だからといってお菓子やケーキなどを大量に食べてしまっては意味がありません。

間食を摂取する場合は、糖質のできるだけ少ないもので、食物繊維などを多く含むものがいいとされています。

上記のお菓子などは理想的なバランスかもしれません。


次に各栄養素についてみていきます。

まず脂質です。

食事と血中の中性脂肪を測定した研究によると、昼間と夜中にそれぞれ高脂肪食を摂取した場合、夜に食べた場合の方が5~6時間程、持続的に高い中性脂肪が観察されたそうです。

つまり活動時間の前に摂取した方が、骨格筋などへの吸収が高まるため血中の中性脂肪の値が低くなったと考えられます。

やはり夜の脂肪摂取は控えめにするようがいいようです。


次に糖質です。
糖は朝に吸収が高まります。夜は食事量が多くなりがちであり、かつ活動時間帯であることが少ないため筋肉への取り込み量が減少してしまいます。
そのため夜は高血糖になりがちです。
食事量や先ほどお伝えした、間食などをうまく利用して、血糖値の変動を抑えたいところです。


最後にタンパク質です。
タンパク質は筋肉や皮膚など体を構成する物質の原料でもあります。
そして高齢になると問題になるのが、筋肉量の減少を来すサルコペニアです。

サルコペニアを予防するためにタンパク質の摂取が推奨されていますが、時間栄養学的なタンパク質のゴールデンタイムは朝です。

人を対象にした研究では、フレイルではない群、フレイル予備軍、フレイル群に分け、タンパク質の摂取量を調査したところ、フレイル群では朝のタンパク質摂取が少ないことがわかりました。

朝はパンとコーヒーという食事よりも、ご飯と味噌汁、納豆、卵焼き、魚などのメニューの方がフレイルやサルコペニアを予防できるかもしれません。

別の研究では、朝からしっかりタンパク質を摂取している人は、1日の平均的な歩数が多い傾向にあったとのことです。

現代人の食事はどうしても朝は簡単に、夜はがっつりという傾向があるようですので、少しずつ是正していく必要があるかもしれません。



いかがでしょうか。

今回は栄養学の中でも時間栄養学を紹介しました。
血糖値や脂質代謝など生活習慣病に関わる内容が多かったと思います。

何を食べるか、何を減らすかという指導はよくされるかと思いますが、いつ食べるかなども大切であることが少し理解できたかと思います。

我々も栄養指導や食事指導を行う際に、そのような点も意識していきたいと思います。