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ナッシュビル旅行記 -やっぱりギターが好き-

ナッシュビルの旅は続く。前回はどうでもいいことを書いているうちに長くなってしまったので、印象的だった諸々について続きを書いていくことにしよう。

Country Music Hall of Fame and Museum (カントリー・ミュージック・ホール・オブ・フェイム・アンド・ミュージアム)

旅行をしているときってどうしてか博物館や美術館に行きたくなるものだ。普段はそんなに行かないという人だって旅行中となると律儀に足を運んでしまう人も多いはず。

ナッシュビルを訪れた際にこのカントリー・ミュージックの博物館を訪れることは実に優れた選択肢だと思う。カントリー・ミュージックが好きとか、ギターが好きといったことも関係なく楽しめるところだ。

エントランスがめちゃめちゃカッコいい

この博物館ではカントリー・ミュージックの歴史的な資料が展示されている。その主役はなんと言ってもギターだ。

カントリー・ミュージック史に残るミュージシャンとその相棒のギターたちがずらっと並ぶ。その数に思わず息を呑むことだろう。

年季の入ったビンテージギターを眺めていると苦楽を共にしたであろうミュージシャンとの深く濃い時間が想起される。きっとなにもかもがハマってキラキラとした夜もあったことだろう。スターダムへの階段を一緒に登った輝かしい時間なんかは何にも代えられないもだったに違いない。はたまた、なにもかもが食い違ってパッとしないパフォーマンスをした夜もあったんじゃないか。拍手もまばら、もしくは誰も演奏を聴いていない夜なんてのもあったかもしれない。その一部始終を見守ってきたであろうギターを見ているとなんだかグッと来るところがある。

ギターはもちろんマンドリンなんかも
MARTINの王道ギター D-28
ビンテージすぎるGIBSONのL-5

この博物館を訪れるとナッシュビルという街が音楽を、そしてギターというものをどれだけ愛しているかということが手に取るように分かる。

ギターというものがカントリー・ミュージックの音を作る要であると同時に、人と時代を映す鏡という風にも見えてくる。アコースティックギターのサウンドホール (真ん中の黒い空洞部分)を覗き込めば、その時代の人々の音楽、談笑、たわいもない話、などなどが聴こえてくるようだ。元々ギターが好きな人であれば、ギターというものに惚れ直すこと間違いなし。

テイラースウィフトの展示

カントリー・ミュージック出身で今の人といえば、やはりテイラー・スウィフトをあげないわけにはいかないだろう。アメリカ人の若い人はやっぱり気になるようで彼女の展示を食い入るように見つめている様子が「なるほどやはり」と思わずにいられなかった。通な人は「あんなのカントリー・ミュージックじゃない」と言って退けるだろうけれど、この博物館でテイラー・スウィフトがどのようにカントリー・ミュージックと関わり、そしてどのようにそこから発展を遂げたかを知ることはとても意味のあることのように思えた。テイラー・スウィフトの音楽の道程を俯瞰することは、現代のポップソングの成り立ち方やあり方を理解する一助になるようでいて興味深い。

Carter Vintage Guitars (カーター・ヴィンテージ・ギターズ)

ナッシュビルを旅行していて、一つのハイライトになったのがこのお店を訪れたことだ。ナッシュビル随一のビンテージギター屋、Carter Vintage Guitars (カーター・ヴィンテージ・ギターズ) だ。

街の中心地から20分ほど歩いたところで、大きな道路の脇にポツンと現れる。もう見てくれからしてヒッピーである。

カーター・ヴィンテージ・ギターズの外観

お店の中に一歩入ればそのディープな空気感に一発でやられる。まずこの入り口のどでかいアコースティックギターがなんとも印象的。くたびれきっている。その様は味がありすぎて言葉を失くす。

もうこの時点でただものじゃないことが分かる

ギターが置かれているフロアに入る前にはこの巨大な絵が待ち受ける。ベッドに横たわって死にゆく黒人とそれを見守る天使と悪魔。絵の下部には"the death of Robert Johnson"と記されている。ロバート・ジョンソンといえば知る人ぞ知る伝説のブルース・ミュージシャンだ。そのあまりのギターの巧さから「悪魔に魂を売り渡して、その引き換えにテクニックを身につけた」という伝説が残っている人だ。ブルースが好きな人でもそうでない人も、この絵でガツンと来る人は少なくないだろう。

ロバート・ジョンソンの絵

メインのフロアに足を踏み入れるとずらっと並べられたギターが目に入ってくる。カジュアルな雰囲気だがパリッとした緊張感が感じられなくもない。写真からは店員も客も同じような格好をしていて区別がつかない様子が伝わるだろう (笑)。

カーター・ヴィンテージ・ギターズの内観

まずびっくりしたことがある。

お客さんが「このギター弾きたいな」と思ったらふらっと手に取ってその辺の椅子に座ってポロポロと弾き始める。客は「試奏したいです」とも言わないし店員もそれに対して気にも止めない。「どうぞ、ご勝手に」といった様子なのだ。

ここに並べられているのはただのギターではない。安くて20-30万円のものから始まり、高いものだと文字通り桁違いの金額のギターたちだ。歴史的な価値からいっても、いずれ博物館のショーケースに飾られるようなものもラインナップに含まれているに違いない。

そんなことはお構いなしに客は「次はこっち弾いてみるか」といった具合にギターを弾き比べていく。ギターを手に取るときに、他のギターにコツンとぶつけている輩までいる。おいおい、マジかよ‥。

勝手にギターを持ってきて試奏する人々

歴史あるビンテージギター屋なのに、まるで軽音楽部の部室のようにも見えてくる。「え、最近ギター買ったん?ちょっと触らせてーな」「えーで」とか言いながらギターを交換しあっている部員のような具合なのだ。

シアトルに移住する前、日本にいたときからビンテージギター屋は足繁く通ってきた (そんなこともこの記事でちょっと書いた)。その経験を踏まえると、このお店で目撃したものは目を疑うものだった。日本では店員に声をかけて許可を取って試奏することがルールだったし、あまりに高価なものはまず試奏もさせてもらえなかった。大事なギターの価値を傷つけないためにも、それは十分に真っ当なことだと今でも思う。

ただ、このナッシュビルの歴史あるビンテージギター屋はそれとは大きく異なるものだった。だから驚いた。

でもこの肩肘張っていないところがなんとも心地良くて、お店を後にするときには「これはこれでいいかも」と思うに違いない。ギターを丹念にメンテナンスし、お客さんとのコミュニケーションを大事にする日本のお店は最高だ。ただこれはこれの良さがある。

そんなことを思いながらぼくもしれっとアコースティックギターを手に取りポロポロと弾いてみた。値札はあえて見ないことにしたけど。

カッコいいビンテージギターたちは見ているだけで楽しい

Broadway (ブロードウェイ)

ナッシュビルで生のライブ演奏を観ようと思ったらBroadway (ブロードウェイ)に足を運ぶのが王道だろう。ということで余った時間はただひたすらこの道のライブハウスをはしごした。

ネオンの灯りがともる、独特な街並み

訪れたのは9月2日-4日という三連休だったこともあって人で溢れかえっていた。20代ぐらいの人が多くて「へー」っと思った。そういう人はみんなEDMやヒップホップを聴いているのだと思ったけれど、ロックやブルースを聴きに来る人もたくさんいるのだなと感心した。ただお酒を飲みながら踊り狂いたいという人も中にはいるだろうが。

渋谷のセンター街をもう少しアダルトにした感じとでも言おうか
新宿や池袋のおとなエリアはきっとこんな感じ?行ったことないけれど

このブロードウェイという大通りにはライブハウスが横一列に所狭しと並ぶ。ライブハウスの中では、ロックやブルースが演奏されているステージを眺めながら人々はお酒を飲んだり談笑したりしている。小さい子供を連れた親が「ほら、踊ってごらん」とステージ前に放り出しているいるところが面白かった。子供もその期待に答えて思い思いに体をくねくねさせている。この子達はきっとロックな子供になっていくのだろう。

ブギウギな音楽に体をくねらす子供たち

どのライブハウスでも必ずステージがあり、必ずなにかが演奏されている。ロックやブルースを日頃から聴いているお客さんばかりではないことはなんとなく演奏を聴いている様子から分かる。ただそんなことはどうでもよく「いい音楽を聴きながら楽しく時間を過ごそうじゃないか」という静かな意気込みが伝わってくる。実にいい週末の過ごし方だなと思った。そう、それでいいのだ。

Amy Winehouse (エイミー・ワインハウス)のValerieを演奏していた。とても良かったな
客をじっくり聴かせる説得力のある演奏

ギターの街 - ナッシュビル - 

こうして旅の写真を振り返ってみると、どこもかしこもギターが写っていることが分かる。それは決して意図したものではなく、常に自然とそこにあるのだった。

旅の始めに「ナッシュビルといえばギターであり、ギターといえばナッシュビルなのだ」と触れた (前回の記事)。それは仮説に過ぎなかったわけだけど、この旅を通してゆっくりと、されど確実に検証されたように思う。

そしてもうひとつ分かったことは、やっぱりぼくはギターが好きだ、ということだ。旅は世界を知ることであり、そして自分を知ることでもあるのだなと思う。そう思うと旅はやめられない。

いやーそれにしてもとてもいい旅だった。テーマを持った旅というのは視点が定まってクリアに物事を観察できる面がいいなと学んだ。また音楽をテーマにした旅をきっとしたい。

ナッシュビルのブロードウェイの近くで

今日はそんなところです。

それではどうも。お疲れたまねぎでした!


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