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ナッシュビル旅行記 -車のドアは壊すべからず-

ニューオリンズの旅は紛れもなく"ジャズの旅"だった。本場のディキシーランドジャズを思う存分堪能することが旅を楽しむ手段であり、それ自体が目的だった。その目的は十分に果たすことが出来たと胸を張って言える。

そんなニューオリンズの旅を終えてすぐに思い浮かんだことがあった。それは「また音楽をテーマにした旅がしたい」ということだった。その旅先として真っ先に頭に浮かんだのがナッシュビルだ。

ナッシュビルに行ってカントリーミュージックをじっくり聴く。そんな有意義な時間があってもいいじゃないか。きっとカウボーイハットを被った渋いおじさんがじゃかじゃかとアコギ (アコースティックギター)を軽快にかき鳴らしていることだろう。

そんなわけで。

行ってきました、ナッシュビル。訪れたのは2023年の9月2日 (土)〜4日 (月)。9月4日はLabor Day (労働者の日)という祝日だったので3連休を使って旅行をした。

夏の終わりの短い旅の思い出。写真をざざっと見つつ「そういえばこんな感じだったなぁ」と振り返る。そして印象に残ったことをつらつらと書いていきます。

こんにちわ、ギターさん

ぼくが住んでいるシアトルからナッシュビルまでは飛行機で4時間ほど。ナッシュビルの空港に降り立ち、ホテルのあるダウンタウンに行くためにUberを呼ぶ。空港を出ようとしたところでまず目に止まったのがこちら。

Gibson GARAGEの展示

ショーケースに飾られたギターがぐるぐると回っている。ギターが好きな人ならご存知、Gibsoon (ギブソン)というギターメーカーの展示のようだ。

ぼくはこれを見ただけで思わずニヤッとしてしまう。もうこの時点でナッシュビル過ぎるではないか。

そう、ナッシュビルといえばギターであり、ギターといえばナッシュビルなのだ。そういうイメージは元々持っていたけれどこの時点で想像通りだった。そしてその印象はこの旅を通して更に深まっていくわけだけど。

ギターをぼけっと眺めているうちにUberの車が到着したようだ。いざ、ナッシュビルの中心街へ。

The Grand Ole Opry House (グランド・オール・オプリ・ハウス)

一人旅のお供、AirBNBの宿に荷物を置く。これまた一人旅のお供であるUberを使って最初の目的地へ繰り出す。

「ナッシュビル行くならまずここっしょ」というところがある。それがここ、The Grand Ole Opry House (グランド・オール・オプリ・ハウス)だ。世界的に有名なカントリー・ミュージックの殿堂で、毎週土曜日夜に公開ライブ収録が行われている。古き良きカントリー・ミュージックを聴くならここを訪れないわけにはいかない。

ででーん!とても大きな会場

週末ということもあってか、たくさんの人で賑わっていた。ライブ会場の前には巨大なギターのモニュメントがあり、訪れた人々はここでワイワイと写真撮影をしている。こうやって改めて写真を見ると、お客さんもばっちりカントリー・ミュージック仕様だということに気付く。カウボーイハットがよくお似合いだこと。

みんなで楽しく写真撮影

会場の中に入る。ライブハウスというよりは大学の講義を聴く大きな教室のようだ。天井が高いこともあって息が詰まるような緊迫感がない。ふと下に目をおろせば年季の入った木製の観客席が目に入る。きっとここで演奏されてきた良質なカントリー・ミュージックを深く染み込んできたのだろう。歴史を感じる。

アメリカ最古のラジオ番組の収録会場ということもあってディープな趣があり、どこか厳かな気持ちになる。座席であたりを見渡しながらそんな感慨に浸っているうちにライブが始まった。

グランド・オール・オプリのライブ

「いやー待ってました」と言いたくなるような、ど・ストレートなカントリー・ミュージック。どこまでも軽快で心をそっと撫でるような音楽。お客さんは自然なスマイルを浮かべて小さく左右に揺れている。一緒に歌を口ずさむ人もいればじんわりと浸って聴いている人もいる。ここでじっくり演奏を聴いていると悲しいこともイライラすることもさらっと水に流して「ま、いいじゃない。歌おうよ。」という気持ちにもなってくる。

次々と新しいバンドが出てくる

ミュージシャンあたりの演奏時間は長くて30分。次々と新しいミュージシャンがステージ上に現れては去っていく。演者の構成も様々だ。ボーカルがあるものあればないものもある。ギターだけで編成されたバンドやバイオリンをフィーチャーしたものなどなど。カントリー・ミュージックというテーマで横串を通しているわけだけど、音の面でも視覚の面でも変化をつけて飽きないように工夫している。よく出来ているなぁと思わず感心してしまう。

カントリーミュージックは日本で言うと演歌や往年のJ-POPみたいなものなんじゃなかろうか。もちろん現在進行形で発展している音楽カテゴリーではある。だけれどそこには常に"懐かしさ"というものの存在を認めないわけにはいかない。

なんだか家族団らんで紅白歌合戦をでテレビで観ているようだなと思った。松任谷由実 (ユーミン) や桑田佳祐が出てきて昔のヒットソングを披露する。観客は「あーやっぱこれこれ」としみじみ頷く。涙が出るほど激しく感情を揺さぶるというよりは、ほっこりと心が温まる感じ。グランド・オール・オプリのライブ演奏を観る経験は、ポケットの中で静かにじわじわと温まっていくホッカイロを握っているような、そんな感覚に近いなと思った。

どうでもいいけど

衝撃の現場

ライブが終わってほくほくした気持ちで会場を後にする。ホテルに戻るために会場前の大通りでUberを待っている間にその事件は起こった。

40代前半ぐらいの長身の男性 (白人・白シャツ&ジーパン)とそれよりは少し若めでぽっちゃりした体型の男性 (こちらも白人・赤い半袖Tシャツ&短パン) が駐車した車の前で立っていた。ぼくは車のことは詳しいことは分からないけれど、キャンプに行くにも申し分なさそうな大きめの車だったことだけは分かった。どうやらライブを観終わった女友達をちょうど車で迎えに来たところだったようだ。

気が利くな。素敵なジェントルマンである。迎えられた女性も二人。黄色と赤のドレスがそれぞれよく似合うすらっとした白人女性だった。どちらとも肌は少し褐色で髪はブロンド。底の厚いヒールを格好よく履きこなしていた。

「ライブどうだった?」といった当然の会話をしている。まあそうなるだろうよ。ハグをしたりチュッチュしたりしながらしばしの間、会話に話を咲かせていた。ある程度話が落ち着いたところで「じゃあそろそろ行こうか」となり、女性を後部座席へ案内する。女性二人をしっかりとエスコートして問題なく座席に着いたことを確認した後、前述のジェントルマン二人が「閉めるよ」と言ってドアを勢いよく閉めた。



その瞬間、「ガコッ!!!」と強烈な音が鳴り響いた。「え?」となった後、一同あることに気付く。




ドアが外れているではないか。後ろの左のドアが。



皆ぽっかり口を開けていた。男性たちは自分の腕にぶら下がっているドアを一瞥して「なんだ、これは」とでも言いたげそうだった。上の写真はその衝撃の現場を押さえたところだ。

されど紳士な男性二人は少しも戸惑いを見せることなくニッコリとスマイルを周囲に振りまいた。「ははは、ドアが外れちゃったみたいだね。大丈夫、今直すからね」と一言声をかけてドアをはめ直そうとする。あーやっぱり頼りになるな、ジェントルマンは。こうでなくちゃ。

だがしかし、これがなかなか上手くいかない。ぜんぜんドアがはまらないのだ。男性二人からも「ん?おかしいな。いつもならすぐ直せるんだけどね〜」とこちらにも聞こえるような声量で独り言を漏らしはじめた。されどそれが強がりであることは火を見るより明らかだった。焦りの感触がこちらにも徐々に伝わってくる。そのうち後方で待機していた車の列からブーブーとクラクションが鳴り始めた。気付いたら後ろに車の渋滞が出来ていたのだ。車の窓からひょこっと斜めに顔を出して「早く車出せー、ファ○ク・ユー」とヤジを飛ばす輩も出てくる始末。早く車を出さねば。ドアよ、はまってくれ!!!

時間が経つこと15分。男性たちは静かになにかを悟った表情をしていた。どうやら直らないと観念したようで男性たちはスマートフォンを取り出していそいそと電話をかけはじめた。きっとリペア業者を呼んでいるのだと思われる。そうこうしているうちに先ほどのすらっとした女性二人が車の後部座席から降りてきた。見ると長い髪を振り分けながら「シット (くそ)」とか言いながら煙草を取り出してクールに煙をくゆらせていた。背後で(文字通り)頭を抱えている二人の男性が妙に小さく見えた。あんなに縮こまってしまった男性たちを、ぼくは今までも、そしてこれからも見ることはないだろう。


ぼくはUberを待っている間、この一部始終を眺めていた。この男性たちはあまりに気の毒だった。だけれど外れてしまったドアを抱える姿はあまりに滑稽でぼくはずっと笑いを堪えていた。でも彼らにとっては深刻な局面なのだ。笑っていはいけないぞ。いかんいかん。

と思っていたところでチラッと周りを見渡す。するとぼくの後ろで見ていた外人たちが腹を抱えて笑っているではないか。「なんでドアぶっ壊すねん」とか言いながらビール片手に笑い転げているやつまでいる。ヒーヒー言ってる。

「やっぱこれ面白いよね」と彼らと軽く会話を交わし、もうどうでもよくなってぼくもゲラゲラ笑ってしまった。

そんなことをしているうちにぼくのUberが到着した。運転手と「ライブどうだった?」と当然の会話が始まった。「いやーせっかく女友達を車で迎えに来たのにその場でドアをぶっ壊したジェントルマンがいてさ」という話をついついしてしまった。もうぼくはカントリー・ミュージックも紅白歌合戦もユーミンも差し置いて、このことで頭がいっぱいになっていた。

あの男性二人と女性二人はあの後どうなったのだろう。思い出せば出すほど気の毒だなと思ってしまうけれど、やっぱりこみ上げてくるのは笑いしかなかった。

イケてるパッケージデザイン

ホテルに戻るまでに一杯ひっかけて帰ることにした。ヒッピー&カウボーイ IPA (インディアン・ペール・エール) という地元のクラフトビールをちびちびと飲みながら今日一日を振り返る。さて旅の一日目はどうだったかな。


まずい。あのドアのことばかり思い起こされるじゃないか。結果的に全部あのドアに持ってかれてしまった。やれやれ。まあでもそういうことも旅の醍醐味ということにしよう。


…どうでもいいことを書いているうちにとても長くなってしまった。というわけでまた別の記事でナッシュビルの旅をもう少し振り返ってみます。

今日はそんなところかな。

それではどうも。お疲れたまねぎでした!

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