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ニューオリンズ旅行記 -眠らないその街は-

アメリカに住んでいて良かったなーと思うことのひとつ。それはアメリカ国内の魅力的な都市にひょいっと旅に出かけることが出来ることだ。近いところで飛行機で1時間、遠いところでも4-5時間で行ける。これはなんともラッキーなことだなと思う。

ポートランド、サンフランシスコ、ロサンゼルス。西海岸だけでもおもろいところだらけだ。おっとサンディエゴも忘れてはならない。アラスカだってサッと行けちゃうし。東海岸側を見渡せば、シカゴ、ボストン、フィラデルフィア、そしてもちろんニューヨーク。ぼくが住んでいるシアトルからだと日本円で高くても5-6万円で航空券が買える。シアトル-東京間のチケットが往復で30万円を超える今日、これはなんともお得ではないか。

今回旅先に選んだのはニューオリンズ。その理由はなんと言ってもジャズだ。ディキシーランドジャズという20世紀初頭にニューオリンズで発展した初期のジャズが今でも聞けるというなら行かない訳にはいかない。ジャズを好んでやまないぼくとしては「これは行くぞ」となったわけです。

写真や動画を用いながら旅を振り返ってみます。「ニューオリンズにこれから行こうかな」と考えている人も「そいえば昔行ったな」という人にも何か引っ掛かるものがあれば嬉しい限りです!

バーボン・ストリート(Bourbon Street)

訪れたのは2023年6月。シアトルから飛行機で大体4時間半ほど。フレンチ・クオーター(French Quarter)というヨーロッパ文化溢れる街の中心地に泊まることに。空港からUberでおよそ30分。

着いてまずびっくりしたのはその暑さだ。同じアメリカだとは思えないほど気候は違う。半袖・半パンでばっちり。暑いとはいえ日本の夏のような蒸し暑さではないのはありがたいところ(あれはあれで好きだけど)。ヤシの木が悠々とそびえ立ち、人々もどこかゆったり歩いているように見える。「南国の島」に来たというのは言い過ぎかも知れないけれど、なんだか肩の荷がそっと降りるような気がして心地よい。シアトルが肩が凝る場所、ということではないけれど。

フレンチ・クオーターの前の大通り

夕方にAirBNBの宿につき、その足でフレンチ・クオーターへ。バーボン・ストリート(Bourbon Street)というニューオリンズ最大のメインストリートに向かう。

そこに足を踏み入れた瞬間、「お、ここはなんだか異次元だぞ」とすぐに気付く。どんちゃかどんちゃかと騒音とでも呼びたくなるような音の洪水に迎え入れられる。人々は酒を飲み、ガヤガヤと大声で話している。あるものはそれぞれの楽器で音を鳴らし、そしてはあるものはそれを静かに眺めている。喧騒と静寂が矛盾なく、いやある意味で矛盾だらけなかたちで同居している。すごいところに来てしまったなと驚嘆しつつ、思わずニヤッとしてしまう。ここはきっと面白いに違いない。

夕方のバーボン・ストリート

1ブロックも歩かないうちに人だかりにぶつかる。何かなと思ってみると、車の上にギターを持った男が立っている。MCのような、演説のような、なんだか分からないけれど一所懸命オーディエンスに語りかけている。聴衆もそれに応えて耳をそば立てる。されど、後ろで鳴っている音楽がうるさすぎて全然何を言ってるか分からない。その音に負けじとこの男性もマイクに叫ぶ。うるさくて仕方ない。騒々しいものの溢れ出る熱気は決してイヤな気持ちにはさせない。あーなんだかとってもエネルギー溢れるところに来てしまったなと思い至る。

バーボンストリートの入り口近くにて

そのまま歩を進める。道の脇で黒人の子供二人が空のバケツを叩いているのが目に入る。どんちゃかどんちゃか。バスドラとスネアだけで紡ぐようなそのシンプルなリズムと音色が心地よく鼓膜を鳴らす。これは動画に撮っておきたいなと思いカメラを向けた瞬間、その子供たちはサッと立ち上がりバケツを持ってぼくのところにまっしぐらで駆けてくる。一体なんだと思って唖然としていると、子供は曇りのない眼をぼくに向けながら一言こう叫ぶ。「Tip! (チップ!)」

どうやら「カネ払え!」ってことらしい。ただじゃ動画撮らせないぞ、と。うむ、それはそうだなと思い、少しのチップを払ってその場を後にする。

子供たちのリズム隊

ぼくがここから向かったのはフレンチ・クオーター内にあるジャズ・バー。どこも歴史あるところで独特の趣を持っており、とても思い出深い。一つ一つ紹介したいと思う。

Fritzel’s European Jazz Bar(フリッゼルズ・ヨーロピアン・ジャズ・バー)

バーボン・ストリートをまっすぐ歩いていくと左手に見つかるこのバー。細長くて小さいこの箱に多種多様な国籍の観客が押し寄せる。白人はもちろんのこと、インド人や中国人、ヨーロッパの国からもたくさん人が来ているようだ。どうやら観光客にとっては訪れて然るべきな場所のよう。

古き良きディキシーランドジャズが聴ける

それもそのはず。お酒を一杯飲むだけで良質なジャズが聴き放題。そしてなんと言ってもこのアットホームな感じ。肩肘張らずにリラックスして聞ける空間は、格好の良いかしこまったジャズクラブとは一線を画すものだ。演奏している側も聴いている側もみんなどこかニコニコしているように見える。アドリブを聴かせるときも、演者は自分の技術をひけらかすような傲慢さも音楽に浸り込んだピリリとした緊張感も見せない。どこまでもリラックスしている。

「ジャズってこんなに心地よいものだっけ?」と思わず考え込んでしまうほど、そこにある多幸感は紛れもないものだった。ぼくはここが随分と気に入ってしまい、旅行中何度も足を運んだ。訪れる度にバンドは変わっても、その箱に詰まった温かい人間味は変わる余地がないものだった。こう書いている今も「また行きたいな」とウズウズしてしまう。

Maison Bourbon Jazz Club(メゾン・バーボン・ジャズ・クラブ)

前述のジャズバーの向かいにあるのがこちらのお店。「パッパラッパー♪」と気の抜けたトランペットの音色に導かれてお店の中へ足を踏み入れる。たくさんのお客さんで賑わっており、後ろの方で壁に持たれてスタンディングで聴いている人もいる。じっくり聴いている人もいればビール片手に談笑しながら聴いている人もいる。みんなそれぞれのスタイルでそれぞれの夜を楽しんでいるようだ。

どこまでも楽しく活気のあるディキーランドジャズ

こちらのお店の方が先ほどのフリッゼルズ〜よりも大人向けの感じがした。フレンドリーというよりは良識ある大人がふらっと訪れるような佇まい。ニューオリンズと言えばこの人、ルイ・アームストロングの曲をセレクトしてくれるところも観光客の身としてはありがたい。ビートルズやポール・マッカートニーのライブに言って『Yesterday (イエスタデー)』をやってもらうような感覚だろうか。演奏中にステージの前に出て踊り始めるお客さんなんかもいて微笑ましかった。見ているこちらも踊り出したくなってしまう。

Preservation Hall(プリザベーション・ホール)

ニューオリンズのディキシーランドジャズを聴くなら絶対に行かねばならないところがある。そこがここ、Preservation Hall(プリザベーション・ホール)だ。事前に調べた情報だと「当日並んでもチケットが買える」と書いてあったのでふらっと訪れている。

ただ結論から言えばそれは大きな誤算だった。これから旅行で訪れる方に強くお勧めしたいことがある。それは「ホームページで事前にチケットを買っておくべし」ということだ。ぼくは1時間ほど並んでギリギリで入ることができたが、残念ながらチケット売り切れで泣く泣く諦めた人もたくさんいたようだった。

プリザベーション・ホールの前で並ぶ人々

18世紀からあるというこの古い建物は"ノスタルジック"というものをそのまま具現化したような場所だ。毎日この場所で伝統的なディキシーランドジャズが演奏され、世界中から多くの人がその音を聴くために訪れる。お酒も食べ物も一切出ない。スマホで写真・動画撮影も禁止。観客は古めかしい小屋のような場所で静かに耳を傾けることとなる。

小学校の教室のようなこぢんまりとした空間に観客は寿司詰め状態で詰め込まれる。肩と肩がぶつかるような距離で前方の小さなステージを眺める。前の方にいる客は木のベンチのようなものに座り、後方の客は皆立ち見だ。この光景が授業参観のようでちょっと面白かった。

演奏されるのはもちろん歴史あるディキシーランドジャズ。余計なマイクなどは設置されておらず、基本生音での演奏だった。照明もほぼないに等しい。暗がりの中でオレンジ色のランプのようなもので照らされたステージはどこか現実のものとは思えなかった。記憶のどこかにしまってある古い記憶を映像として再生している、そんな気にもなってくる。

演奏が終わるたびに観客は「ブラボー」などと言いながら一生懸命に拍手する。もちろんぼくもそうした。文句のつけようのないライブだったからだ。ライブが終わる頃には一同ほっこりとした面持ちになり「良かったねー」などと語り合っている。

プリザベーション・ホールはこの素敵なジャズと観客の温かい歓声を毎日浴びるほど聴いてきたのであろう。その途方もない時間を想像するだけで胸を打つものがある。長い年月をかけてこの独特な趣を醸し出すことになったんだなと思った。味が出ないわけがない。

Palm Court Jazz Cafe(パーム・コート・ジャズ・カフェ)

ジャズバーを締めくくる場所として最後にここを紹介したい。「ジャズを聴きながら夕ご飯を食べたい」という方にはとっておきの場所だと言える。

何よりもご飯が美味しい。きっと良質なクレオール料理に舌鼓を打つに違いない。アメリカ南部でしか取れない貴重な魚なんか(ぼくが食べたのはシイラ)をおしゃれにベイクした料理なんか最高に旨かった。

ディナーを食べながらジャズを聴く

ステージはそれなりの大きさでお店自体もだだっ広い。ジャズを聴く場所という以上に広々とした洒落たレストランといった内観だ。

演者の前には小さい傘が置かれている。なんなんだろうな?と思いつつ黙って演奏を聴いていると、観客が立ち上がって踊り出した。その小さな傘を手に取って。

傘を手に取って踊り出すお客さん

ひらりひらりと傘を仰ぎながらくるくるとゆっくり回りながら踊る。演者も「あざっす」という感じで静かに会釈して返す。きっと地元のお客さんなのであろう。古く文化に根ざしたものであるということは察しがつく。とても趣があって「あーこういう文化体験がしたかったんだよな」と思わず深く頷いてしまう。意味は分からなくても体で感じ取る、そんな経験が旅の醍醐味だなと思う。

様々な"アメリカ音楽"

ニューオリンズはジャズの街ということになっているけれど、一旦その街を訪れるとどうやらそんな一括りにできるほどシンプルではないということに気付く。そこで鳴り響く音楽は実用に多様だ。ブルース、ロック、R&B、ヒップホップ、そしてジャズ。バーボンストリートに所狭しと並ぶライブハウスで毎晩(なんなら朝から)様々な音楽が掻き鳴らされている。

バーの入り口で演奏されていたのはブルージーなロック

ご覧の通りぜんぜんジャズジャズしていないものもある。歌ものだって聞こえてくる。サイケデリックな音楽だっておかまないなしに演奏されている。

ただ、ランダムに曲が演奏されているかというとそうではない。ざっくりまとめると"アメリカ南部"の音楽が様々な形を通して表現されている。そしてどの演奏者も観光客を唸らせるだけの力量を持ち合わせている。みんなとっても上手く説得力に満ちている。

音楽が好きな人にとってはたまらない街、それがニューオリンズなのだと思う。

眠らない街 - ニューオリンズ -

バーボン・ストリートとその一帯はどうやら毎夜お祭り騒ぎのようだ。一度足を踏み入れればそこは音の洪水。あるゆるジャンルのアメリカの音楽が訪れる人を捕らえて離さない。どのライブハウスも明け方まで灯りをともし、ストリートはお酒を片手にぶらぶらする人で溢れかえる。ジャズが好き・嫌いといったことは一旦置いておいても、訪れるべき価値のある場所だ。その街のエネルギーにきっと圧倒されるから。

午前1時 バーボンストリートの入り口にて。

今回はそんなところですね。

それではどうも。お疲れたまねぎでした!


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