儲け主義のM&Aは失敗する!成功の要因は「想いを共有できるか」【PMI奮闘記#2】
M&A後のリアルを追う本連載。前回は、副業チームでM&A後の経営改善に挑む「継人(つぎびと)プロジェクト」がスタートしたことをお伝えしました(第1回はこちら)。
ミッションは「1年後に売上1.5倍」。果たしてこの目標は達成されるのでしょうか。
今回のnoteでは、このプロジェクトが大切にしていることや、売上拡大に向けた具体的な戦略をクローズアップしてお伝えします。さらに、開始から約4か月経った現在の進捗状況も伺いました。副業チームで挑むプロジェクトの歩みを、ぜひ感じていただければ幸いです。
(文責:田原未沙記)
M&AやPMIに必要なのは「人のつながり」や「想い」
このプロジェクトの舞台となるのは、外国人材に特化した人材派遣・紹介をおこなう「株式会社ヒューマンアール」。
ヒューマンアールは「おもてなし人材」の育成・輩出を強みに、これまではホテルや旅館、携帯ショップなどの接客業で外国人材を派遣してきました。人材と派遣先の丁寧なマッチングにより、高い定着率で数々のクライアントから評価されています。
ヒューマンアールは株式会社アンピールより人材サービス事業として独立し、その後、2022年にTRANBIを通じてアスクホールディングス株式会社に譲渡されました。
このM&Aが決まった背景として、アスク(買い手)代表・高橋とアンピール(売り手)代表・鈴木氏の「馬が合った」ことも大きな要因だったといいます。
アスクはVUCA時代を生き抜くために「100事業経営」を目指しており、外国人材派遣の人材サービスにも伸びしろを感じていました。そこに鈴木社長との出会いがあり、大事にしている理念やビジョンに共感し、何よりその人柄に惹かれ、引き継ぐ決意を固めたのです。
継人プロジェクトのリーダーを務める長田も、次のように語ります。
「僕がこのプロジェクトにジョインした理由も、まさにそこでした。尊敬する高橋さんが『鈴木社長の人柄がいいんだよね』と言うなら間違いないと。そして最初の顔合わせの際に、30年間会社を経営してきた想いや理念を聞き、面白いな、この人と一緒に何かやっていきたいなと思いました」
また、M&Aに対する考えも明かしました。
「M&Aは『儲け主義』でやることも多い世界です。でも、TRANBIが大切にしているように、M&Aはやっぱり『想いを引き継ぐ』意識が大切だと思っています。その共有ができていれば、現場で変な対立や争いは生まれません。
M&AやPMIが失敗するのは、儲け主義の経営者が理念と合わない事業を買った、または元々いた人材を大切に扱わないケースが多いようです。その点、継人プロジェクトは『人のつながり』や『想い』を大切に活動しています」
3本柱の戦略とチーム体制で経営改善に挑む
全員が一丸となって進めている本プロジェクト。ヒューマンアールのM&A前後の売上推移は、以下のような状況でした。
事業を引き継いだ2022年7月の時点では、コロナの影響もあって最盛期よりも売上が落ち込んでいました。その後も伸び悩む時期が続き、2023年7月にTRANBI副業部メンバーの力を借りて、継人プロジェクトが始動したのです。
目標は「1年後に売上1.5倍」。
さてここから、どうやって売上を回復・拡大していくのでしょうか。
2023年7月、メンバーが初めて顔を合わせ、全体キックオフが開催されました。そして第2回の全体会議で、以下の3本柱を立てて売上改善を目指すことが決定します。
①既存事業の拡大
②新規事業の立ち上げ
③コミュニティ運営
この方針のもと、プロジェクトメンバー(ヒューマンアールの社員を含む)を3つのチームに分け、それぞれ具体的な取り組みを進めることになりました。
【①既存事業の拡大】(技人国人材)
外国人材が日本で働くための在留資格(いわゆる「就労ビザ」)は複数あり、その中でも代表的なのが「技術・人文知識・国際業務」という在留資格です。略して「技人国(ぎじんこく)」と呼ばれます。
技人国の資格を取得できるのは、国内外の大学・短大、もしくは日本の専門学校を卒業した人に限られ、もっともレベルの高い在留資格とされています(簡単に言うと“エリート外国人材”ですね)。
ヒューマンアールでは昔から、この技人国の在留資格をもつ人材=高度人材を派遣してきました。専門学校とのつながりも多く、そこから優秀な外国人材を見つけて新卒で雇用し派遣する、というビジネスモデルが主軸になっています。
この既存事業をさらに拡大するため、今後は派遣先をホテル・旅館業界に絞ることにしました。以前は携帯ショップなども対象でしたが、小規模な会社だからこそ「特化して尖る」戦略を選択したのです。
【②新規事業の立ち上げ】(特定技能人材)
目標達成に向けて、本プロジェクトでは新規事業も立ち上げることになりました。
着目したのは、2019年4月に創設された「特定技能」という新しい在留資格です。特定技能とは、日本国内の人手不足に対応すべく、即戦力となる外国人材を受け入れるための在留資格を指します。
特定技能をもつ外国人材は、農業、漁業、製造業、介護など12分野で働く、いわゆる現場労働者のイメージです。ヒューマンアールでは、対象分野のうち「宿泊・外食業」にフォーカスし、ホテル・旅館業界への人材紹介を目指すことにしました。
つまり、①既存事業も②新規事業も、営業先は同じホテル・旅館業界。チームは分かれているものの、同じクライアントに対して、ポジション別に人材を提案することになります。
例えば、以下のようなイメージです。
マネージャークラス:「技人国」をもつ高度人材
ホールスタッフなど:「特定技能」をもつ即戦力人材
特定技能人材を雇用する場合、受け入れ企業には幅広い支援が義務付けられています。外国人材が孤立しないよう、生活のオリエンテーションや日本人との交流促進などが求められますが、受け入れ側にとっては大きな負担です。
そこで、人材紹介各社はこの業務を請け負う「支援サービス」を続々と始めています。相場は1人あたり月額1〜3万円のところ、ヒューマンアールは少し高めの3万円に設定。その代わり人材紹介料は無料にし、独自の手厚い支援サービスを提供することにしました。
【③コミュニティ運営】
3つ目の柱は、外国人材のコミュニティ(オンラインサロン)運営です。
ヒューマンアールは「おもてなし人材」の育成・輩出が強みであり、その基盤となるコミュニティ運営には注力していく方針です。また、②の支援サービスにおいて「日本語学習の機会の提供」「日本人との交流促進」の役割を果たす場にもなります。
具体的には、定期的にオンラインミーティングや飲み会を開催し、先輩の話を聞いてみたり、面接の練習をしたり、日本語学習のプログラムを実施したり。ときにはリアルで集まるなど、みんなでワイワイと仲を深めています。
そうした結束の強化によって、求人情報がすぐに伝わるほか、インフルエンサーのような存在が生まれて人が集まることも見込めます。まずは現在、参加人数を増やすべく活動しているところです。
各チームで前進し、目標に向けて順調なスタート
継人プロジェクトが発足してから約4か月。現在の進捗状況を尋ねました。
既存拡大(技人国人材)のチームでは、今年12月にオープンする外資系ホテルに営業をかけて、ヒューマンアールからの派遣就業が決定。日本初進出のホテルのオープニングスタッフとして加わることができ、快進撃といえるでしょう(めでたい!)。
新規事業(特定技能人材)のチームも、ネパールの人材サービス会社(ネパール人材に特化)とアライアンス契約が完了しました。ホテル・旅館業界ではレストラン部門の人手が不足しており、求人情報が入ったらすぐに人材を紹介できるよう動いています。
ネパールは、多民族国家ゆえお互いを尊重する国民性があり、多世代同居や助け合いの文化があることから、ネパール人には「おもてなし人材」の適性があります。そのため、現在ヒューマンアールではネパールの人材に注力して進めている状況です。
また、コミュニティ運営チームも、就活中の学生さんや求職中の外国人の方と、リアルなコミュニケーションの機会を増やしています。さらに先日、専門学校の授業の時間をもらい、メンバー全員で「日本で働くとは」についての講義もおこないました。
このように、各チームごとに目標に向かって着実に前進しており、少しずつ成果や手応えも感じられています。リーダーの長田いわく「売上1.5倍に向けては順調」とのこと!
このまま順調に進むのか、紆余曲折が待ち受けているのか。引き続き、リアルな奮闘記をお届けしていきたいと思います。
なお次回は、プロジェクトメンバーにフォーカスし、それぞれの抱える想いや、参加のきっかけなどをヒアリングしてお伝えします。
副業に関心があるけど、最初の一歩は?
本業との両立はどう工夫している?
今どんな気持ちで取り組んでいる?
などを語っていただく予定です。どうぞ、お楽しみに。
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