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みんな何かが欠けている?|映画『哀れなるものたち』の感想

映画『哀れなるものたち』を観ました。“吐き出さないと今夜は眠れない”タイプの映画だったため、感想を書き殴りたいと思います。

※私は先入観をもたずにまっさらな気持ちで映画を観るのが好きなため、あらすじはごく簡単にまとめています。

詳しく知りたい方は、記事最後の公式サイトをみてネ。


あらすじ・作品概要

『哀れなるものたち』は、外科医の衝撃的な判断で蘇生した主人公の女性が、外の世界で刺激を受けながら自分の人生を歩んでいくストーリー。

有名な怪物フランケンシュタインを、シュール×リアル×ファンタジーな世界観でいちから創り上げたような作品です。

本作『哀れなるものたち』は、アラスター・グレイの小説『Poor Things』を鬼才と名高いヨルゴス・ランティモス監督の手で映画にしたもの。

ベネチア国際映画祭のグランプリである金獅子賞や、ゴールデングローブ賞を受賞しています。アカデミー賞にもノミネートされているようです。

鬼才監督×豪華キャストのコラボ

本作でメガホンをとったのは『女王陛下のお気に入り』(2018)のヨルゴス・ランティモス監督。主演にミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』(2016)のエマ・ストーンを迎えています。

SCREEN(2024年2月号)のインタビュー[※1]によると、エマ・ストーンはふざけたい自分と、慎重な監督は正反対だと語っています。

異質なコラボもエネルギッシュに楽しむ彼女の姿は、水を吸う花のようにあらゆる感性を吸収する本作の役と重なります。

今回のエマ・ストーンの演技は複雑さも感じましたが、とにかくすごかった..…『ラ・ラ・ランド』のキュートなイメージが強かったので、スクリーン越しの気迫に「ひえぇ」と圧倒されました。

すべてを黙らせるような演技に、どのような感想もドンと来い!という頼もしさを感じました。映画の感想を“正直に書かないと失礼だ”、そう強く感じたのははじめてです。

弱腰ライターの私を奮い立たせてくれたエマ・ストーンに心から感謝します。

主人公を外の世界に連れ出す弁護士役を演じるのは、『はじまりのうた』(2013)で哀愁とユーモアが漂う中年男性を演じたマーク・ラファロ

スリリングなマジシャン映画『グランド・イリュージョン』(2013)にも出演しており、個人的に気になる俳優さんのひとりです。本作でも人間味のある演技が素敵でした。

欠けている世界を愛せるか?

人の感情をすべて集めて煮込んで吐き出したらこうなるよね、という映画でした。

死ぬまで感情のインプットとアウトプットをくり返す生き物。それが人間なのかもしれません。

映画を観たあと、哀れなるものは誰なのか? 何が本当に哀れなのだろう? と、走馬灯のようにぐるぐると思考が巡りました。

映画の原題である『Poor Things』は“かわいそうに”というニュアンスのPoor Thingを複数形にしたもの。

私は本作から、自分や他人の“かわいそうな部分=欠けている部分”をどう受け取り、どう生きていくのかを問われた気がします。

『哀れなるものたち』は、倫理観についても考えさせられるストーリーです。

私の主観ですが、カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』のような物語が好きな人は観てみるとよいかもしれません。

『哀れなるものたち』はアート映画かもしれない

斬新すぎるストーリーに内心のけぞりながらも、色や音楽などの徹底した世界観の作り込みに「映画ってやっぱり総合芸術なんだなあ」と心をつかまれました。

主人公の目をとおした世界を描くために使われたであろう、魚眼レンズ。心情を表したかのようなトリッキーな効果音。

これらの複雑に絡み合う要素がどこか淡々と進行していくさまを観ていると、実はすべてが虚構なのでは? という感覚におちいりました。

リアルとファンタジーを綱渡りするような『哀れなるものたち』は、アート思考の強い作品だと感じます。絵画の世界に誘われる『ミッドナイト・イン・パリ』(2011)が好きな人は、もしかすると気に入るかもしれません。

ファッションや音楽など、クリエイティブな視点から観察してみると新たな発見が見つかりそうです。

これから観に行くあなたを私は讃えたい

大きくわけると映画には、観終わってから友達と語りたくなる作品と、自分のなかでひとまず咀嚼したい作品の2つがあると思います。

個人的には『哀れなるものたち』は間違いなく後者です。おそらく映画館を出てからしばらくは無言になるため、これから映画館に行く方は、ぼっち鑑賞をおすすめします(笑)。

正直に言って『哀れなるものたち』は、誰にでも勧められる映画ではありません。映倫区分が18歳なことに納得の、インパクト強めの映画だからです(性的描写は多め)。

特に医療ドラマの手術シーンが苦手な人は覚悟が必要かとおもいます。検索で“グロ”という単語もでてきますが、たしかに人によってはキツイと思います。私も何度か目をそらしました。

しかし、ファンタジー色が漂う映像美や、フィルム撮影による温かみのせいか、不思議と後味の悪さは感じませんでした。私は刺激に弱いHSPのため、もう一度観る勇気はありませんが(汗)。

この記事を読んだうえで、それでも観てみようと思ったあなたを私は讃えます。いってらっしゃい!!

※2024年2月追記
観た直後はあまりのインパクトに動揺していましたが、最近この映画のよさをじんわり感じています(時差!)。

いい映画ですね。

参考

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