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水族館でヒーローになりたいあなたに贈る『ペンギンは短足じゃない図鑑』

 梅雨の時期に訪れるにはぴったりな場所、水族館。水槽の中を悠々と泳ぐ魚や水生生物を眺めながら、みなさんはどんなことを考えていますか?

綺麗だな、気持ちよさそうだな、と癒しを感じる人もいれば、おいしそう〜と思ってしまう人もいるかもしれません。はたまた、本来生息する海や川の環境、さらには地球の未来にまで思いを馳せる人もいるでしょう。

そんな水族館のアイドルといえば、やっぱりペンギン!
最近はカワウソの人気に押されつつあるような気もしますが、ぺたぺたと動き回るペンギンの愛らしさは、いつの時代にも私たちの目を釘付けにする魅力がありますよね。地上ではぎこちなく歩くかと思えば、水中では機敏な動きを見せるそのギャップもまたたまりません。ある水族館にはなんと、ペンギンのファンクラブなるものがあるそうです。

さて、水族館の楽しみ方はそれぞれですが、実は水族館は博物館法に定められた教育施設。せっかく足を運ぶなら、何か学びに繋がることがあるとより充実した時間となるのではないでしょうか!

今回は、水族館に行く前にぜひ読んでほしい一冊『ペンギンは短足じゃない図鑑』の誌面を引用しつつ、ペンギンにまつわるあれこれをいくつかご紹介します。

子どもたちやパートナー、お友達に披露すれば、尊敬の眼差しを向けてもらえるかも?!ただし、調子に乗って話しすぎないように注意してくださいね。

『ペンギンは短足じゃない図鑑』
JR東日本Suicaのペンギンキャラクター作家としておなじみ、さかざきちはるさんによる、ペンギンのおもしろ図鑑。ペンギンにまつわる知識や言葉を、さかざきさんの楽しいイラストと文で紹介しています。ぱらぱらと本をめくってイラストを楽しむのもよし、じっくり目を通して好奇心を満たすのもよし。子どもから大人まで、全世代の人に楽しんでいただける絵本です。ぜひ、ご自身に合ったスタイルでお楽しみください!

「ペンギンは短足じゃない。」

むっちりとした胴体からちょこんと見える足。どう見ても、短足…?
いえいえ、骨格を見れば、ペンギンにも立派な足があることが分かるでしょう。ペンギンの足の特徴は、体の後ろ、つまり尾の方に足の付け根があること。これによって体が美しい流線型になり、海の中を自由に泳ぐことができるのだそうです。他の鳥類は体の中心に足の付け根があるので、同じ二本足で立っていてもその印象は全く異なります。写真を見比べてみると、面白いですよ。

胃袋

「ペンギンの胃袋の収納力はたいしたものである。」

ペンギンは子育てや換羽(身体中の羽毛がはえかわること)の期間、絶食を続けますが、そのためには食いだめをする必要があります。ペンギンの胃袋はとても大きく、例えば体長70cm程度、体重3〜4kgというケープペンギンの胃の中に、中型のイワシが28匹も入っていたことがあるのだとか。
ペンギンの胃袋といえば、その中から小石が見つかることがあるそうです。その理由は明らかになっていませんが、一説では胃の中で食べ物をすり潰すのに役立っているのではないかと考えられています。

トゲ

「ペンギンのくちばしと舌の内側にはトゲが生えている。丸飲みした魚は逃げようとしてもこのトゲにひっかかるため逆戻りできない。」

ペンギンは魚や甲殻類、イカなどを頭から丸飲みにして食べます。これらの生物は滑りやすいため、トゲにひっかけて逃がさないようにしているのです。他にも、ペンギンのくちばしには、水中ですばやく動く獲物を捉えやすくする機能が備わっています。鉤のように曲がった上嘴とV字に割れた下嘴がぴったりとはまるような構造になっており、このくちばしが獲物の体に突き刺さると、いくら暴れても簡単にははずれないようになっているのだそう。見かけは愛らしいペンギンですが、捕食については命がけ。生物としての強さを感じます。

コンパス

「ペンギンはからだの中にコンパスを持っている。」


これはつまり、どこにいても自分の巣に帰ることができる帰巣能力のこと。
研究者による実験では、もとの生息地から約3800km離れた地点から、10ヶ月という月日をかけて自分の巣に戻ることができたそうです。太陽を主な手がかりとして、方位を測っているのだとか。ちなみに、渡り鳥たちもやはり太陽や星を手がかりに渡りを行うといいます。
海の中を飛ぶように泳ぐ姿は、大空を羽ばたく鳥たちの姿と重なりますね。

背くらべ

「第三紀中新世の時代(1100〜2500万年前)に生きていたペンギンは巨大だった。」

1100〜2500万年前の第三紀中新世の地層から発見された化石から、この時代に生きていたペンギンの体長は165cm前後、体重は90kg前後であったと推定されています。最近ではより古い、6000万年近く前の新種のペンギンの化石が発見されました。こちらはさらに大きかったようで、体長は人間の成人ほど、体重は150kgほどもあったと考えられています。いずれの化石も、見つかったのは骨格の一部であり、その大きさは現代のペンギンの骨格などとの比較から算出されたそうです。
それにしても、「昔は大きかった」というのはさまざまな生物で言われることですが、なぜなのでしょうか…。

人間

「人間はペンギンに親近感を持っているが、ペンギンはどうだろう?」

最後に紹介するのはこのページ。
答えのないこの問いに、何か示唆的なものを感じるのは筆者だけでしょうか。実は他のページにも、人間が登場するページがあります。「敵」という見出しがつけられたページです。そこでは、自然界の天敵、カモメやアザラシとともに人間が敵として挙げられています。ペンギンや、ペンギンの餌となる魚の乱獲、環境破壊など、人間はペンギンを愛でる裏で、ペンギンの生命を脅かす行為を続けているのです。
楽しく読めるページが多い中、ピリリと辛いこの話題に、みなさんは何を感じるでしょうか。

おわりに

さて、水族館に行く準備はできましたか?
愛らしい姿のペンギンですが、その体や習性には、過酷な環境でも生きていける力強さが隠されていました。次にペンギンを見たときには、きっと今までとは少し違う見方をする自分に気づくはずです。

『ペンギンは短足じゃない図鑑』には他にも、全部で72個の”秘密”が紹介されています。
本書に詳しい解説はありませんが、巻末には参考文献も紹介されているので、もっと深く知りたい方は、より専門的な本を読んでみるのもよいかもしれません。水族館も然り、何かを深く知りたいと思うきっかけは、案外身近なところに潜んでいるものです!

この夏は、ペンギンは可愛い、というところから一歩踏み込んで、ペンギンへの愛と知識、そして『ペンギンは短足じゃない図鑑』を持って水族館に行ってみませんか。

<参考文献>
「ペンギンになった不思議な鳥」(どうぶつ社)
ジョン・スパークス&トニー・ソーパー:著 青柳昌宏・上田一生:訳
「ペンギン・ハンドブック」(どうぶつ社) ポーリン・ライリー:著 青柳昌宏:訳
「ウィロー教授のペンギン学特論」(SEG 出版) エト=アル・アイスフィールド:著 青柳昌宏:監修
「ペンギン全種に会いに行く」(平凡社) 中村庸夫:著
「ペンギン大好き!」(新潮社) 川端裕人:著
「ペンギン図鑑」(文溪堂) 上田一生:著 福武忍:画 鎌倉文也:写真
「PENGUINS ペンギンたちの写真集」(リブロポート) ウォルフガング・ケーラー:写真&文
*『ペンギンは短足じゃない図鑑』巻末より。本記事も上記を参考としています。

著者さかざきちはるさんの個展が開催中!(〜2023年7月9日まで)


■この記事を書いた人
Akari Miyama

元復刊ドットコム社員で、現在はフリーランスとして、社会の〈奥行き〉を〈奥ゆかしく〉伝えることをミッションとし、執筆・企画の両面から活動しています。いつか自分の言葉を本に乗せ、誰かの一生に寄り添う本を次の世代に送り出すことが夢。
https://okuyuki.info/

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