ふうき

農学系の大学院生です。環境保全型農業(有機農業など)に関わる研究をしています。当ブログ…

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農学系の大学院生です。環境保全型農業(有機農業など)に関わる研究をしています。当ブログは、そのようなテーマに関連のある農学・生態学の論文を紹介したりしています。noteの更新頻度は低めで、Twitterの更新が多めです→https://twitter.com/yasainiki

マガジン

  • 有機農業を考える

    有機農業について個人的な意見を書いています

  • 科学的有機農業概論

    有機農業をテーマに,海外の研究論文をまとめています。

最近の記事

土壌中のマイクロプラスチックの影響に関する研究

ビニール袋有料化など、プラスチック削減を求める社会的な動きが近年高まっているように思います。プラスチックを削減しなければいけない理由としてよくメディアなどで挙げられているのが、「マイクロプラスチック」と呼ばれる問題です。マイクロプラスチックとは、一般に直径が1mm以下のプラスチック粒子を指しています(1 ←文献リストの番号を表しています)。このうち、歯磨き粉のスクラブ剤などに含まれるマイクロサイズで製造されたプラスチック粒子を「一次マイクロプラスチック」、ビニール袋などのプラ

    • 因果関係が好きすぎる私たち

      私たちは因果関係を説明するのが好きすぎではありませんか? 突然そんなことを訊かれてもあまりピンとこないかもしれませんが、これは最近僕がよく感じることです。因果関係というのは、簡単に言えば原因と結果のことです。因果関係を説明する時には「〜だから(原因)、〜なのだ(結果)」という風に説明します。僕の母もよく「歳を取ったから、涙もろくなったな」と言いながらドキュメンタリードラマとかを観ているんですけれども、ここでは「涙もろくなった」という結果の原因が「歳を取ったらだ」と言っている

      • その2「農業生態系のデジタル化」ってなんだろう

        前回の投稿に引き続き、以下のプレスリリースの研究について整理していきたいと思います。 前回の投稿では、どのようなデータを使って解析したのだろう?という点をまとめました。そこでは、”土壌–土壌微生物–作物の3つの階層で、網羅的なデータ(オミクスデータ)を取ってきて、そして階層を超えてそれらのデータの関係性を解析しようとした”ということが、この研究の新しい点であるという風に述べました。 では次に、ここで言う階層を超えたデータの関係性の解析、つまり表題の「農業生態系のデジタル化

        • 「農業生態系のデジタル化」ってなんだろう1

          少し前のことですが、「農業生態系のデジタル化に成功」という以下の理化学研究所のプレスリリースを目にした方がいるかもしれません。Twitterコメントがいくつか投稿されていたように思います。 一体どんな研究かと、このプレスリリースの冒頭部分を読んでみると、 農業生態系における植物-微生物-土壌の複雑なネットワークのデジタル化に成功し、これまでは熟練農家の経験として伝承されてきた高度な作物生産技術を科学的に可視化できるようになりました という風に書いてあります。「複雑なネッ

        土壌中のマイクロプラスチックの影響に関する研究

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        • 有機農業を考える
          3本
        • 科学的有機農業概論
          5本

        記事

          農薬を考える 02-農薬と環境

          現代の農業は、農薬という科学技術の進歩のもとに成り立っていると言っても過言ではありません。そんな農薬に関して、以前の記事「農薬を考える 01-農薬は必要なのか」では、なぜ一般に必要とされているのか、農薬を使わない場合にどれくらいのコストやリスクが生じるのか、ということを考えてみました。 一方で、多くの人が指摘するように、農薬の使用にリスクが存在することも事実です。そのリスクには、環境負荷、農業者の安全、残留農薬、リサージェンス、薬剤抵抗性などが挙げられるでしょう。こうしたリ

          農薬を考える 02-農薬と環境

          土の中のリン1 - リンの形態

          リンは植物にとって必須な養分の一つです。窒素(N)やカリウム(K)と並ぶ肥料の三要素としてよく知られており、リン欠乏は作物の生育に大きな影響を及ぼします。ただ、ひとえにリンといっても、土の中では様々な形態で存在しており、その形に応じて化学的な特徴が異なります。特に植物による吸収という点で見ると、その形態や動態というのが重要になります。窒素に比べるとあまり注目されていない感じはしますが、色々複雑で面白いのでnoteにまとめることにしました。(土壌化学には詳しくないので、間違いが

          土の中のリン1 - リンの形態

          無農薬表記の是非で意見が分かれる理由 有機農業の二つの潮流から

          先日、ポケットマルシェさんが行っていた無農薬表記に関するアンケートの結果が公開されていました。(https://note.com/pocket_marche/n/n699c915c8fea) 反対派、許容派、どちらでもない派と、沢山の意見が集まっていました。企業が消費者に問いかけをしながら会社の方針を作っていくことは、SNSの発達がもたらす新しいやり方のように感じます。新しいサービスや仕組みを作ってこられたポケットマルシェさんだからこそできることなんだろうなぁと感じています

          無農薬表記の是非で意見が分かれる理由 有機農業の二つの潮流から

          農薬を考える 01–農薬は必要なのか

          最近,ポケットマルシェさんが無農薬表記に関するアンケートを取っていたこともあり,自分の中でも「農薬」に関する興味が高まっています。というのも,表記の話とは少しそれるのですが,「農薬ってどうなの?危険なんでしょ?」といった声を身近な人からも聞くことがあります。そうした時,自分は(農家でも農薬の専門家でもないのですが)冷静に客観的に丁寧に(決して相手を上から否定したりせず)説明できるようでありたいと常々思っていました。 そこで,今回は3つのテーマ(農薬の必要性・農薬の安全性・農

          農薬を考える 01–農薬は必要なのか

          有機野菜には本当に虫がつきにくいのか?

          弱肉強食、適者生存の自然界。多くの生き物が、明日生きるか死ぬかもわからない緊張感の中で生きている中、唯一人類は明日が、一年後があるという確証を手に入れ、その安定的な生活をほしいままにしています。ここまで言うと大げさかもしれませんが、自分の食べ物を自分で育てる生き物は、人間かキノコ畑を営むハキアリくらいではないでしょうか。農業という産業を発展させることによって日々の食料を確保し、私たちは他の生き物との生存競争から解放されたようにも思えます。 けれど、よく考えてみると、私たち

          有機野菜には本当に虫がつきにくいのか?

          ミミズ研究の最前線

          -雨が降ると路上に現れ、そのまま干からびて死んでしまう生き物-  生態学を勉強するまでは、僕にとってミミズとは、非力で哀れな、気持ち悪い(けどちょっとかわいい)、そんな程度の生き物でした。多くの人にとって、ミミズのイメージって、そんな感じなのではないでしょうか。 ミミズが生態学の研究対象となるのは19世紀後半に遡ります。「種の起源」で進化論を唱えたことで有名なチャールズ・ダーウィンは、石だらけだった草地が、長い期間を経て平らになっていくことに気がつきました。そして偉大なこの

          ミミズ研究の最前線

          有機農業への完全移行で温室効果ガス排出量は増加する?

          ーイングランドとウェールズの食糧生産が有機農業に100%移行したとすると、温室効果ガスの排出量が増加するー そんなインパクトの強い論文が先日科学誌のNature Communicationsに掲載されました。(リンク→https://www.nature.com/articles/s41467-019-12622-7.pdf) 「有機農業」や「オーガニック」と言えば、エコや環境に優しいものの代名詞的な存在。というのも、慣行農業で使用される化学肥料は、その原料や製造過程で石油

          有機農業への完全移行で温室効果ガス排出量は増加する?