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「美味しいものにありつくための方法」(アカシアの雨)

自粛期間によって在宅勤務や自宅待機が増え、自分で料理を作る機会が増えた結果「うっすらまずい自分の料理に飽きた」という、少しうんざりしたような感想を見たことが忘れられない。
意識して料理に取り組み始める前は、自分もそうだったから。
美味しいものを食べるには、確かに外食はひとつの手段である。
また、自炊の技術を上げると、外食もより楽しくなる。

具体的なレシピではないが、いくつか、自炊で気をつけるポイントがあるように思う。

具材を増やさない
煮込みにしろ炒め物にしろ、食材が増えると、火の通り方が違うものを組み合わせるのが難しくなる。(複数の野菜を使う「野菜炒め」をうまく作るのは、とても難しい)
 使いたい野菜がたくさんあるんだけど!というときは、先に癖が少ない野菜をゆでて、同じ湯を使って別の野菜をゆでて、複数のゆでた野菜を使って、別々の料理にしてもいい。ゆでたものは冷蔵保存しておいてもいい。なお、基本的には季節のものが安くて美味しいから、食材の旬は知っておいた方がいい。スーパーで目立つところに置いてあるやつです。

調味料は絞る
たとえば、塩だけで味を決めるように試してみる。
どうしても味が足りなかったら、最後に足してみてもいい。(足しすぎた塩の味を引くことは難しいが、後から足すことはできるからだ)
塩加減というのはめちゃくちゃ難しく、使う塩の粒の大きさなどが変わると、使う量も影響されて味が濃くなったりするし、調理過程で「いつ」塩をするのかというタイミングもきわめて重要で、手癖のように使ってはならない。塩が醤油や味噌に代わっても同じで、基調となる味が、食材の味と合わさることで、結果としてどんな味が引き出されているかに注目しながら食べる。

食材の水気と温度に気をつける
水気と温度は難関な気がする。野菜を切って、そのまま使い切ろうとしてしまうと、鍋の大きさに比べて食材が山盛りになりがちだ。山盛りになると、水気を含む食材が入ることで「鍋(フライパン)の中の温度」が極端に下がる。「強火」「中火」というのは目安でしかなく「鍋の中の温度がいまどれくらいであるのか」「いま食材はどの程度あたたまっているのか」にこそ注目しなければいけない。天ぷら等は家庭の鍋でやる場合、本当に少しずつ揚げないとうまくいかない。(海老なら一尾を多めの油で泳がせるようなイメージ)
切ったものはこのまま使い切ってしまいたい、という誘惑は強い。無理に使い切ろうとしない計画を考えてから、食材を切り始めた方がいい。「鍋の大きさに比べて余裕がある食材を、なるべく触らないで焼き付ける」イメージでやると、特に炒め物はうまくできると思う。

意識して、よく観察しながら料理をするようになって10年くらい経過した。
すればするほど「家庭だからできる美味しさ」も分かってくるし、外食でプロの凄みを感じられるようになった。
食べに出かけると、店構えやメニューからも「ゆっくり飲みながら食べて欲しいんだろう」「メニューが手書きということは、その日の仕入れで変えているんだろう」「見えやすい位置に書いてある、今しか出回らない食材、よそで見ないメニューは、できたら頼んでほしいんじゃないだろうか」と推測できる。

映画の中で意味のない雨のシーンはなく、ほとんどが登場人物の心象風景をあらわす演出であるように「作り手の意図」はそこかしこにある。
料理は食材×技術だということ、素人の自分ができる範囲はここまでだという軸があれば、格段に「自分はなぜこれを美味しいと思うのか?」の意味が腑に落ちる。それが見えれば、自分で作るものも更に美味しくなる。

できたら、店のひとに「ここがこう美味しい」と伝えてみるといい。それが作り手の意識していたポイントだったら、めちゃくちゃ喜ばれる。話しかけるのはちょっと…ということであれば、次に行くときは友人を誘って行く。親しい友人に紹介されるというのは、何より嬉しいことだと、どこの店主も口をそろえて言う。
何で料理人が嬉しいと、自分が美味しいものにありつくことにつながるのか?
料理人も、誰にも理解されないんだったら手を抜いちゃおうかなと思うこともある。おすすめなのに誰にも頼まれず廃棄することが続いたら、そんなメニューやめてしまおうかと思うこともある。きちんと受け止めてくれる、分かってくれるひとがいるということは、より良いものが提供される原動力になる。

そのためには、同じ店に何度も通うのが早い。
どこか遠くにある名の知れたレストランより、いつでも行ける範囲にある気心が知れた店に何度も通うこと。自分でもシンプルなものを作って、振り返ってみること。
二つを繰り返していけば、今よりも必ず美味しいものにありつけることは約束されている。


アカシアの雨
食べ物の話をし続けるうちに死ぬ

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