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【剣術的な「速い」動きとは】股関節、胸背部、腕を分けて協調させること

最近では少しずつ様々な世界で武術の体の使い方が知られるようになってきているようです。
特にスポーツの世界では、武術の動きを学んだトレーナーなどが指導している場面も見受けられます。

これまで古武道をやってきた私としては、武術と言っても様々なものがあるため、簡単に武術的な動きというものが定義できると思っていません。

しかし、剣術ということに限ってみれば、剣術的な速さというものはあるように思います。

剣術の速さというものは、ただ、腕力に任せて素早く刀を振ることではありません。腕の力に任せて振ろうとするほど、力みによって遅くなってしまいますし、無駄な動きが生まれて相手に読まれやすくなります。

本来、一瞬が命取りとなる剣術の戦いの場面において、動いた時にはすでに勝敗がついている、というレベルの動きを目指す必要があったと思います。
それを実践するのはなかなか難しいものですが、剣術の技を鍛錬する中で、剣術の速さについて最近になって少しわかった気がします。

そのため、ここではその剣術の速さについて、現在の私の研究結果をまとめました。

執筆者 ふかやとしふみ
古武道師範、身体均整師(ボディデザイナー)。剣術を中心に武道・武術やさまざまなトレーニング、整体を実践する中で工夫してきた、体の不調改善、身体機能UPの方法を紹介しています。


剣術的な「速さ」とは

剣術的な速さとは、端的にいえば、動き出してから動き終わるまでの時間が短いことだと思います。
そして、その動きが相手から読まれないということも非常に重要です。

(逆に、野球のピッチングのような物理的な最高速度の「速さ」は剣術では目指しません)

剣術という武術の特徴は、日本刀という非常に殺傷能力の高い武器を扱うことです。また、江戸時代以降は素肌剣術、つまり甲冑をつけない状態で戦うことが前提とされたため、本当に一瞬の動きで命のやり取りをすることを前提に技術が発展しました。

そのため、他の武術に比べても武術的な意味で速く動くことが目指され、その技術が発展したのだと思います。

早く動く必要がある一方で、剣術では日本刀を扱います。重さは1kg ちょっとしかありませんが、柄を入れると1m ほどの長さがあり、素人では刀を振ろうとしても体の方が振り回されてしまうような状態になってしまうものです。

ここに、剣術の動きを高める上での一つの矛盾が存在します。

単純に考えれば、重いものを早く扱おうとするほど、強い筋力発揮が必要になります。しかし、強い筋力を発揮しようとすれば、筋肉は予備緊張で一瞬硬直するため、それが隙になってしまいます。

このような矛盾があるため、剣術の世界では、いかに筋力に頼らず速く動くかが追求されてきました。

私もそのような技術を習ったり、自分で工夫したりするうちに、最近ではこれから紹介するような体の使い方によって、以前よりも速く、動きの起こりを見せないような方法が分かってきました。

剣術の速さは身体の部品を分けて、再構築することで上達する

体の動きの直列と並列

最近分かってきた、剣術的なこの体の使い方を端的にいえば、体の部品をいくつかに分けて、それぞれを並列的に動かすイメージです。

逆に、私が考える剣術としての質の悪い動きというのは、体の様々な部分が分化しておらず、直列的に動いてしまう状態です。

そもそも武術の経験がない方は、体を分化して動かすという意識がないと思います。
体を分化して動かすというのは、簡単にいえば、股関節と胸背部(肋骨、胸骨、鎖骨、肩甲骨)と腕を別々に動かすといったイメージです。

普通の体の使い方では、このように体を分化せずになんとなく全身を一体として使います。人間の体は当然つながっていますから、このように使うのは当たり前ですし、普通の生活ではこれで十分です。

しかし、より高度な動きをしようとすれば、体の各部位を分けて、別の部品としてコントロールできる技術が必要になります。

「腕力だけで斬る」動きの問題

この体の分化として、まず一番のベースになるのが、この股関節と胸背部と腕の分化であるというのが現在の私の感覚です。

たとえば、刀を振るときに一番やりたくないのが腕の力に任せて刀を振ることです。これでは、腕の力しか使えないため、威力も弱いですし、腕の筋肉はずっとONになったままなので、動きも遅くなります。

なぜなら、筋肉は収縮することで力を発揮するのであり、収縮したままでは力が発揮できないためです。
そのため、力を発揮するには、動かす部位をできるだけ減らし、最小限の筋肉の稼働率で動くことが大事です。

また、腕だけでは複雑な動きができません。
頭上に構えた状態から振り下ろすだけなら、腕力だけでもできなくはありません。
しかし、実際の型や戦いの場面では、こんな単純な動きはむしろありません。
実際には、たとえば相手の斬撃をかわしながら刀を返し、構え直して攻撃する、というように複雑な動きが基本です。

このような複雑な動きを、腕の筋肉だけでやろうとすれば「刀をぶん回す」ような雑で質の低い動きになります。

なぜなら、筋肉の走行は直線だからです。
腕の筋肉だけで複雑な動きをしようとしても、使える関節や筋肉の数はせいぜい「肩」「肘」「手首」くらいです。
これだけでは、多様な、複雑な動きができません。

股関節、胸郭(胸椎(背骨)、肋骨、胸骨)、肩甲骨、鎖骨などの動きも動員することで、多くの関節や筋肉を使えて複雑な動きも簡単にできるようになります。

使う関節、筋肉が増えれば、違う部位を同時に動かしたり、ある部位からある部位へとエネルギーをバトンタッチしたりすることで、速く動いたり、無駄な動きをなくしたりすることができます。

股関節、胸背部、腕の分化

この3つの部位を分けた上で、それぞれを並列的に動かすというイメージです。

それぞれを並列的に動かすため、1つ1つの動きが遅くても動き始めと動き終わりが揃います。普通の直列的な動きだと、各部分が分化していないために、早く動こうとしても動き始めから動き終わりまでの時間がかかります。
しかし、体を分化して並列的に動かすことで、体の様々な部位が同時に動き始め、同時に動き終わるため、時間的には短い間に動きが終わってしまうのです。

これはただ体を分けて動かせればいいということでもありません。
例えばダンサーの動きを見ると、体のいろんな部分を別々にコントロールして素晴らしい動きをしていることが分かります。

しかし、武術の場合はを一つの運動として、まとめなければ強い威力を出すことができません。

そのため、体を分けた上で強調させて動かすということが必要になります。

動きの質を高めるために、一度体の各部を分けて動かせるように練習し、その上で再統合するというのが大きな考え方です。

たとえていえば、体を動かす歯車の数を増やし、さらにそれぞれの歯車のハマりを一致させるということです。

私が知る限り、日本には剣術の素晴らしい動きをする達人が何人かいます。

その達人たちの動きを見ると、やはり体の色々な部分を同時に動かし、同時に動きを終えることができているため、動きがコマ送りのようになり、どのように動いたのかよく見えなかったりします。

私も剣術の型稽古を通じて、そのような体の使い方が本当にできるのだ、それも型の鍛錬を通じて身につけることができるのだということを再認識することができました。

身体を分けて使うための前提としての体作り

ただし、このように体を分けて使うためには、前提としての体の使い方のトレーニングも必要だと考えています。

私の記事では繰り返し書いていることですが、現代では体をそれほど使わない生活になってきています。
昔のように体を器用に使って物を作ったり、作業したり、職人仕事のようなことをすることもほとんどありません。
そのため、体の使い方が非常に雑になっており、特に体幹をうまくコントロールすることが難しい人が増えているように思います。

私は施術を通じて、多くの方の姿勢や体の動きをチェックしていますが、そもそも肩甲骨が余り動かなかったり、背中の意識が弱く「ここを動かしてください」いっても「どう動かせばいいのかわからない」という答えが返ってくることも多いです。

このような現代人が武術を行う場合は、いきなり武術の具体的なテクニックに入っていくと形ばかりにとらわれて、その動きの質そのものを高められないのではないのかと思います。

そのため現代人が武術のような精密な動きが要求される技を身につけるためには、まずは体をコントロールすること、特に体幹をしなやかに動かせるようになることなどからトレーニングしていく必要があると考えています。

その一番ベーシックな方法は、これまで私が記事で書いてきたような、
・腸腰筋の使い方
・股関節の使い方
・肩甲骨の使い方
・背骨の使い方

などを高めるための簡単なエクササイズです。

私が紹介しているのは本当に簡単なものですが、できない人は本当にできない動きです。またできているつもりになっていても、形を真似しているだけで体の繊細なコントロールはできていないケースもとても多いです。

そのため、まずは簡単なエクササイズから地道に行って、体の感覚を育てていくこと、神経を育てていくこと、普段動いていない部分も実は動くことを自覚できるようになること、そのような基礎的なことから始めることが大事だと考えています。

今後、私が実践している一種の体幹トレーニングを武術家向けに発信したいと思っています。

まとめ

  • 剣術的な速さとは、動き始めから終わりまでの時間が短いこと、動きが読まれないこと

  • 剣術的な速さを身につけるポイントは、動きを分化して体の構造上正しい動きを練習し、それを統合して一つの動きにすること

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■執筆者のプロフィール
【自己紹介】都内の元空手道場で整体を開業。「整体」「古武道」「体の使い方」について発信していきます。

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