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追憶のダイビング・ログ (2019年作品)

青春に七回行った宮古島戻れぬ碧さをテレビが映す

青い海覗き込んだら深い底魚と出会う四十分間

ゆっくりと白い珊瑚の白い砂小魚が背に陽射しを受ける

海酔いというものを知る水面下たしかに波も乗り物だろう

赤さえも紫色に翳る海珊瑚の生える岩場を越ゆる

あたたかな海に体を支えられ無重力でのバランスを知る

水のなか音は伝わりやすいもの音を立てずにふんわり泳ぐ

クマノミが小さい口を精一杯こちらへ向けてなわばり守る

地上での水族館の不自然さ気づかさるるは魚の世界

乾くこと濡れることとの不快さは魚(うお)と人では逆かもしれぬ

透きとおる水面見上げ呼吸する泡のかたちが生きてる証

ダイバーの視線と身ぶりを読みとって海の会話はそろそろ進む

水面を抜けて世界に戻るとき感じる重さに地を踏みしめる

息をする自分をうまく操って海より戻る空気はおいしい

冬の日も誰もがそっと夢見てる心の中に終わりのない夏

(第21回 NHK全国短歌大会 近藤芳美賞 入選)


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