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入院してみた。そして、病室の大部屋ガチャに失敗した。

■お断り■
 この話は、私の体験談に、個人が特定できないような若干のエッセンスを加えたものです。
記載している内容は事実ですが、掲載にあたり、できるだけマイルドな毒に中和してみました。
当時の思いのたけを吐き出す内容となっており、こちらで供養させていただこうと思い投稿しています。落ち着いたら削除するかもしれません。


■ とりあえず入院することになった

 人生はギャンブルだ。
・・・なんて書き方をすると恰好良いが、要はガチャガチャみたいなもんである。ありとあらゆるガチャが日常に転がっている。
※ガチャガチャ・・・カプセルトイの俗称

 先日、諸般の事情により、3泊4日の入院生活を送っていた。慣れてる人にとっては短い期間だろうが、私のような自宅引きこもりには十分すぎるほど長く、なかなかに辛い期間だった。

 ちなみに、四方八方に入院していた事情を隠していたのだが、意外とバレないものである。何せ最近の病院はwi-fiも使えるし、コロナのお陰で、Zoomでやり取りすることも増えた。病室からChatで会話に参加したり、待合室で背景を変えて会議に参加することもあったぐらいだ。

 さて、そんな入院生活だったが、実は同室メンバーのガチャは微妙に失敗してしまった。マンションの隣人が選べないのと同様に病室の同室者も選べない。金銭的に余裕があるなら個室を選んだが、なかったので部屋ガチャにかけたのだ。

 …で、運をかけたガチャの中身は、残念ながらはずれだった。大はずれ!!とガチャカプセルをぶん投げるほどではなかったが、結構イラっとする結果だった。

■ 同室者のご紹介

私が入院した病院は、建てられて間もないものだったらしい。建物自体はかなりきれい。とはいえ、やはり入院患者の年齢層もあるのか、排泄等の問題も生じていたと思われる。なんとなく臭う。

 ただ、幸いなことに(?)コロナ何度目かの波のおかげで面会が全面的に禁止になっており、人は少なく、風通しはよかった。

 さて、病室は4人部屋。私が入室したときは、部屋の中にすでに2人いた。1人はいいとこの奥様っぽい方。外科病棟だったのだが、何か薬で副作用でも起こされたのか、ときどき、苦しそうに息をしていた。ま、このあたりは問題ない。

 ガチャ失敗したな、と感じたのはもう1人の方。この方、よくテレビのバラエティ番組なんかでみるような、突っ込みどころがたくさんあるはた迷惑なキャラクターそのものだった。いや、いるもんだね、現実に。

 まず、大前提として大部屋=個室ではない。書くほどもないぐらいの当たり前の事実である。当然、同室のメンバーにある程度気を配り、お互い迷惑にならないよう静かに過ごすというのが暗黙のルールであり、最近はトラブルを恐れてか、病院側で明文化しているケースがほとんど。

 もう一人の迷惑同室者(呼称がないので、Mさんとしよう)は、まったくもってこのルールを守る気がない、60代ぐらいのご婦人だった。

■ 同室者、Mさんの暴走、昼の陣

 Mさんは私と同じ日に入院したが、私よりベッドについた時間が早かった。そのため、ベットの上にお店を開いていたのだが(とっ散らかしている、という意味)、私物を触りながら携帯電話で堂々と通話しだした。もちろん、かかってきたから一時的に電話対応をしていたというわけではない。しっかり長話、電話での井戸端会議を始めていた。

「実はねぇ、今私病院にいるのよ~。え、携帯? 普通に使えるわよ。まったく問題ないわよ~、わはははは」

...いや、問題はある。電話回線の話じゃなくて、人としての問題がそこにある。

 聞き耳を立てたわけではないが、会話の内容は丸聞こえである。どうもご自身のお持ちの株値が乱高下しているようだが証券マンが対応してくれていない、と同じく株仲間の通話相手と文句を言い合っている。

「たっかい手数料取るくせにねぇ。いや連絡したら悪いなんて考える必要ないわよぉ。あっちは仕事じゃないの」

 株で儲けてるなら、どうか個室に行ってくれないかな...。

そんな私の心の叫びが聞こえたのか、看護師さんが来てくれた。

看護師さん「通話は待合室でお願いできますか?」
Mさん  「え、いいわよぉ、ここで電話できるんだから」
看護師さん「他の方もいらっしゃいますからね。個室ではないので」
(←お金出して個室に移っていただいてもいいんですよ、の無言の圧)

・・・電話はようやく収まった。

よかった、とほっとひと息ついたら、今度はお笑い番組の音声が結構なボリュームで流れ出した。しかも「あはははははは」という笑い声つき。またですか、Mさん...。

 安心してナースステーションに戻ったはずの看護師さん、すっ飛んできた。
Mさんのベッドは出入り口に一番近いところ。コロナ対策の一環で、換気をよくするために各部屋の扉は開けっ放しのため、廊下にお声もTVの音もよく響いた模様。

看護師さん「先ほどお伝えしましたけど、個室ではないので、TVを視聴されるときは、イヤホンをつけてくださいね」
Mさん  「持ってないのよね~」
看護師さん「そこの売店に売ってますよ(←金払って買ってねの意)
Mさん   「あ、私が持ってきたやつあったかも。使えるかしら~」

 持っていないとそらっとぼけてたが、TVを見たければイヤホン必須、持っていなければ買わされると理解し、ようやくイヤホンを使ってくれた。

 ここまでのやり取りは、私が入室してから1時間程度である。入室早々、とんでもない同室者だなぁ、とすでにこの時イヤな予感はしていた。絶対この後も何かありそう…。

■ Mさんの暴走、夜の陣・其之一

 正直、私は生まれてこの方、ありがたいことに突発的なケガ以外、入院して手術を受けたことがない。術中の麻酔を打たれると、目を覚まさないかも、などと本気で思っているチキンであった。ただでさえ神経尖らせているのに、余計なことで疲弊したくはない。できれば心穏やかに、明日の手術を待ちたい。

 もうこれ以上何も起きませんように、と願いながら手術の準備(患者側にもあるんですよ)を進めていった。そして無事に夜を迎え、明日に備えて眠りについた...が、やはり甘かった。Mさんはおとなしく寝かせてくれなかった...。

 「ぴろ~~~ん♪ ぴろ~~~ん♪ ぴろん♪ ぴろん♪ 」

 文字に起こすと何事かと思うが、Mさんの携帯の着信音である。もう鳴りっぱなし。1回うっかり鳴らしてしまったとかならともかく、結構な頻度で着信がくるため、さすがに私も起きてしまった。

 自慢にならないが、私は震度4の地震でも惰眠むさぼる術に長けている。しかし、やはり術前前日という環境に神経がとがっていたので些細な音にも敏感になってしまっていた。もっとも丑三つ時に連発して鳴る携帯音が些細かどうかは、私にも意見がある。

 うん、うるさいわ。株やってらっしゃるようなので、この時間だしそれ関係のお知らせ通知音だね。ご自身はぐっすりお眠りで、結構ベッドが離れているのにそこそこのボリュームでいびきが聞こえる。

 切っとけ!!というか、ミュートにしておいて!!!と心の中で毒を吐きつつ、疲れていた私はどうにか眠りについた。

■ そして、よく朝。手術日当日。

 そして朝。私とMさんの手術日当日である。至れり尽くせりの病院は、起きて顔を洗えない(※外科病棟。足をケガして歩けない方もいる)患者のためか、大きなあったかいボディタオルを配布してくれた。行き届いてるなぁ...。タオルを配布する方、朝食の配膳の方が立ち去られた後、ベッド際に各自の担当看護師さんがいらっしゃり、今日の手術について説明を順番に受ける。

 で、とうとう、Mさんの横のベッドのご婦人が音を上げた。

「私も夜苦しいし、呻いたりするとその声が同室の方に迷惑になりますので...」とカーテン越しに看護師さんと話をするお声が聞こえる。お気遣いが素晴らしい...。

 (いえいえ、かわいいものです、あなたのお声など。気にしませんってば)

 声に出してお伝えしたかったが、たぶんご婦人の本音は別。

 正直、うめき声とか痛みに耐える声は、新生児が泣くのと同じで仕方ないことだと思う。だって、ここ病院だし。当たり前だと割り切れば、まぁ耳栓あるしiPhoneあるし音楽聞きながら寝ればいいし。対処法はいくらでもある。

 ご婦人の本音は、隣がうるさいからだろうなぁ、と思いつつ、なかなかに重篤そうな症状が出ていたのでちょっと心配しながら見送った。

 そんな私の心配をよそに、Mさんは自分に非があるとはまったく思っておらず。本日も相変わらず、はた迷惑に元気いっぱい!

 なお、4人部屋だが1ベッドは本日は空いているので、今や2人部屋である。つまりMさんの被害者は私限定。

 Mさんは午前中に手術室に行ったので、さすがに午後はおとなしいだろうと判断。私も午後の手術を終え、無事生還。ベッドの上で麻酔が切れて激痛とともに目を覚ました。ぱんっぱんに腫れて痺れまで出てきた術後の傷跡から目を背けつつ(包帯変えると見えるのよ)Mさんも同じような状態だろうから、きっと今日はおとなしくしてくれているだろうと半分以上働いていない頭でぼんやりと思っていた。

 そんな私の淡い期待は、またも裏切られることになる...。

■ Mさんの暴走、夜の陣・其の二

 病棟の夜は早い。とはいえ、一斉消灯される時間は決まっている。それまでは大部屋の電気は付きっぱなしだが、Mさん、なんと今度はその照明に、金切り声で苦情を申し立てをされていた。ちなみに、消灯時間だいぶ前の19時頃の出来事。

「眩しくて寝られないのよ。消してちょうだい! 私、自宅ではいっつも間接照明だけなのよ」

 ...いや、ここはあなたの自宅じゃないしね。ほんとなんで個室に移動しないんだろう? (※お高いので空きがあります)

 応対していた相手は昨日の看護師さんとは別の方で、まだ看護学校でたてのような、お若いお嬢さん。たぶんベテラン看護師さんだったら「大部屋なのでほかの方のこともありますし消灯時間も決まっています。個室に移られますか?」 とすっぱり言っていたと思う。でも今回の看護師さんはまだ強く言い返すことができない方で「大部屋なんです」「他の方もいらっしゃいますから」と繰り返し伝えはしているが、声が弱弱しい。何せ、ひとこと伝えると倍になって返ってくる。そしてMさんは、相手が強く言い返せないと判断すると、どんどんまくしたてる。

 看護師さん、とうとう「同室の方に確認してみますから」と、困り果てて同室の私に相談にしに来た。

「申し訳ありません、同室の方が照明が強いと言っていまして...」と、小さな声で話される様子がかわいそうだったので「別に消しても困らないからいいですよ」と伝えると、あきらかにほっとした様子だった。私が嫌だと言ったら、Mさんにまたマシンガントークされるものね。

 補足しておくと、大部屋のライトが消えても、私のベッドの頭上ライトは点灯自由。照明の強さも調節できて、かなり明るくすることができるので、読書などにも困ることはなさそうだった。

 とはいえ、ちょっと私も腹が立ってたので、ボリュームを落とさず「入院初日からあんな感じでうるさかったんで、あの人」とも言ってみた。

 当然聞こえているはずだろうけど、Mさんからは何の応答もなく、看護師さんからはお礼を言われ、室内灯が消えた。さて、今日こそ穏やかに眠ることができるだろう。そう信じて、私も布団に潜った。

 ...しかし、現実は私のささやかな望みも叶えてくれなかった。私の睡眠を邪魔したのは、携帯の音ではない。想像だが手術前に貴重品は鍵付きの戸棚にしまうため、携帯もおそらくその中だ。手術後、Mさんに携帯を取り出す気力はなかったのだと思われる。

 私の目を覚まさせたのは...いびき。「ごぉぉおぉぉぉ...」と、効果音をつけたくなるぐらいの結構なボリューム。昨日はここまで酷くなかったはずだけど、手術後のストレスなのかな...と、勝手な想像をする。前述のとおり、私はそこらの物音では起きない。そんな私の目を覚まさせるレベルのいびき...。

 まぁストレス溜まるよね。仕方ない。割り切って携帯でヒーリングミュージックを流しイヤホンを着けっぱなしで眠ることにした。ちなみに、いびきが一晩中続いていたためイヤホンを手放せず、翌朝、携帯の電池を完全に使い切っていた。

■ ようやく、退院日

 朝方、Mさんは、朝の検温に訪れた昨日の看護師さんに「昨日はごめんなさいねぇ。寝られなくてイライラしてたの」と、謝罪していた。

 いや、私が気になるぐらいのいびきかいてぐっすり寝てらっしゃいましたが?
2〜3時間の話じゃないんですが? 起床7時だとしても、10時間ぐらいぐっすりおねむでしたよね?

 もちろんご自身の都合で巻き添え食った同室の私には謝罪なし。人の目はとっても気にするらしいんだけど、典型的な「自分と直接関わる人の目」だけを気にしているみたい。ちょっとモヤっとしたが、まぁご愛敬。

 検温が終わり、看護師さんと一緒に執刀した医師も登場。傷口は当然保護しなければならないため、術後の部位については保護サポーターが渡される。

 で、Mさん「包帯がいいのよ~気を使ってもらえるでしょう!?」と包帯をおねだり。すごいな、それ堂々と言うか。医師も苦笑するしかない。

 確かに、最近の駅構内とか、女子供老人めがけてぶつかってくる当り屋おじさんがいるし、気持ちはわからなくもない。さすがにケガ人相手に何かして大事になったらまずいだろうから避けるだろうし。

 理解はするけど、心の中では「あなたも周囲に気を使ってね、多少は」と呟いてしまった。

  術後の説明と朝ごはんタイムが終了すると、Mさん、今度はお声を出してのご本朗読タイム。......お経、かな? 聞き耳立ててみたけどわからなかった。これはまぁ5分くらいで済んだ。元気じゃん。

 ちなみに、同時刻、ご近所の病室には、ベッドの上に仰向けで「スバル」を熱唱されるご老体もいらっしゃった。良いお声だったけど、音程外しまくってたね。いろんな人がいるものだなぁ。

 こんな愉快な隣人たちと一緒の病院生活だったけど、まぁまぁちょびっとだけストレスが溜まる同室ガチャの結果だった。

 入院するときはみんな自分のことで手一杯。他人の目を気付かく余裕なんてないし、きっとイライラしている人もたくさんいるはず。できるだけ周囲の人に迷惑をかけず、最低限の気遣いはできる人でいたいなぁ、と思い、私の3泊4日の入院生活は幕を閉じた。

 この後、地獄のリハビリ生活が待っているが、それはまた別のお話...。

#創作大賞2023 #エッセイ部門

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