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【ショートショート】タイムトンネル

 日曜日である。
 朝から子どもたちがうるさい。
「ねー、お父さん、恐竜が観たいよお」
「ねー、ねー、ステゴザウルス-」
「たまには上野公園のパンダでもどうだ?」
「いやー」
「パンダなんかどうでもいいー」
 中一の敏夫は肉食のアロサウルスが、小四の美加は草食のステゴザウルスが大好きだ。
 オレはため息をついた。
 また鈴木を儲けさせるのかあ。
 折からのタイムトンネルブームに乗って、みんなモグラみたいに穴を掘りまくった。とある業者が温泉を掘ろうとしてタイムトンネルを見つけてしまったのがこのブームの端緒である。マンション住まいで土地を持っていない人は原野のような場所を買ってまで掘った。
 いいタイムトンネルを掘り当てたら、一発でタイムトンネル長者だ。たとえば、うちの町内の鈴木のように。
 鈴木の庭から続く穴を通り抜けると、ジュラ紀中期の景色が開ける。空から覗く絶景のビューだ。
 あたりを草食や肉食の恐竜たちがぞろぞろと歩いている。
 地下に続く入り口には、鈴木が座って、お一人様千円の料金を受け取って、ほくほく顔だ。
 うちの庭にももちろん穴はある。タイムトンネルも発見した。なんと坂本龍馬だ。オレは「やった!」と叫んで大興奮したが、旅籠の一室にいるらしい坂本はなにもしない。寝転がって、たまに屁をこくだけだ。手であおいで、
「くさい」
 などと呟いている。
 いくら歴史好きでも、屁をこいているだけの坂本龍馬など見に来ない。
「はずれを引いたなー」
 オレは財布から千円札を引き出しながら、悲しげに呟いた。
 子どもたちは喜んで、恐竜のいる穴の中に駆け込んでいった。

(了)

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