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【ショートショート】オプション
田中は新しいメガネを作りにきた。あまりにも老眼がひどいからである。
検眼を済ませ、メガネ屋の店員とどういうレンズにするかを相談した。
「オプションがいろいろありまして」
「たとえば」
「そうですね。紫外線をカットするブルーカットはいかがでしょう」
「それは必要だね」
「ハードコートにすると、頑丈で長持ちします」
「うん。それもつけて」
「あとはそうですね。Googleはいかがですか」
「Googleってあの検索エンジンの」
「そうです」
「どんな機能なの」
「眼に映ったものをすべて検索してくれます。結果は拡張現実としてレンズに表示されます」
田中は迷った。
そんな便利な機能をつけてしまうと、なにも考えなくなって、頭がぼけてしまうのではないか。とはいえ、物忘れが激しいのも事実。
「じゃあ、それも」
とつい注文してしまった。
「字幕機能はいかがでしょう」
「そんなものまであるの」
「ちょっとお耳が遠くなってくると、レンズに字幕が出るのが便利だそうです」
「耳かあ。たしかに遠いと言えば遠い」
結局、オプションをぜんぶつけることになってしまった。
2時間ほど時間をつぶしてさっそく新しいメガネを受け取り、装着してみる。
うわあ。
道には「アスファルト」、鳥には「カラス」、Tシャツの模様には「エイリアン」、自分の腕を見ても「男性の腕」などというわかりきった表示が出る。調べたいものを見るどころの騒ぎじゃない。しかも、商店街で流している音楽の歌詞がレンズ下部に表示され続け、視野はほとんど文字でいっぱいだ。
表示される文字の隙間からやっとあたりの光景が垣間見える。これじゃ、ろくに道を歩けもしない。
田中はメガネ屋にとってかえし、
「このオプションって停止機能はないの」
と聞いた。
「ございません」
という字幕がレンズの下を流れていく。
(了)
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