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【ショートショート】パズル

 正月にお供えした鏡餅。
 放置しておいたら、ひびが一本入り、二本入り、ついにひびだらけになってしまった。
 おしるこを作ろうと金槌でぽんと叩いたら、ぼろぼろと崩れてしまう。
「今年は空気が乾燥している」
 と田中が言うと、鈴木も両手を差し出して、
「おいみてくれよ」
 と、あかぎれだらけの手をみせた。
「乾燥しているは、寒いはでこの通りだ」
「これはまたひどいね」
「家事をしているとこうなっちゃう。炊事をするとてきめんだね」
「痛いのか」
「そりゃそうだ。なにしろ亀裂だからね、亀裂」
「ちょっと叩いてみようか」
「やめてくれ。手が壊れたらどうするんだ」
 田中は冗談で、鈴木の手を金槌でぽんと叩いた。
 鈴木の手かぼろぼろと壊れてしまった。
「あ」
「あ」
「まさかほんとに壊れるとは」
「壊れるんだよ。鞄のなかにボンドが入っているからとってくれ」
「どうするんだ?」
「組み立てるに決まってるだろ」
「よく壊れるのか?」
「ああ、今年はもう三回目だ」
 ふたりは右手パズルにとりかかった。
「ボンドなんかでくっつけちゃっていいのか」
「ちゃんと薬局で買ったあかぎれ用のボンドだ」
「オレ、じつは足にあかぎれができていてさ」
「それ、ほっとくと、どんどん進行するぞ」
「街中で足が壊れたら大変だな」
「ああ、大変だ。風で破片か飛んでいっちゃうしな」
「はやく冬が終わるといいな」
「ほんとにな」
 それからは無言でパズルを続けた。
 ようやく右手が復活した鈴木は、
「あー、遅くなっちまった」
 と言いながら帰って行った。
 田中は心配なので駅まで付き添い、帰りにドラッグストアであかぎれ修復用のボンドを買った。

(了)

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