【ショートショート】返せ
シルバー人材センターに登録した。放置自転車の撤去という仕事がある。人に嫌われるやつだと思うが、背に腹は代えられない。
トラックに揺られて、週に三回ほど、放置自転車探しの旅に出ることになった。放置禁止区域は駅周辺が多い。
JRの駅を回り、私鉄の駅を回り、地下鉄の駅を回る。面白いように放置自転車がみつかる。自転車だけでなく、ミニバイクも撤去の対象だ。
「おい、ミニバイクだ」
「よっしゃ」
私は相棒といっしょにミニバイクを担いで荷台に乗せ、近くに撤去ポスターを掲示して、次の地点へ向かった。
夕方になったので、集積所に向かう。
「今日も大漁だな」
「ああ、今日もたくさん人の恨みを買った」
「まあ、顔バレしないのが救いだな」
「マスクしてるしな」
集積所に自転車とミニバイクを下ろしていると、係員が近づいてきて、「ん?」と言った。
「なにか?」
「これ、なに?」
「ミニバイクでしょ」
「そうは見えないけどな」
私は老眼鏡をかけた。
言われてみれば、たしかにちょっと変だ。一見ミニバイクに見えるが、形がそうなっているというだけで、全体は一体成型なのである。
「へんなものを持ってきちまいましたかね」
「まあ、いいや。形はミニバイクだしな」
係員は投げやりにいうと、建物の中に戻っていった。
翌日のことである。
私たちがまた違法駐車の自転車やミニバイクを集めてやってくると、自転車集積所はたいへんな騒ぎになっていた。
上空に大きなUFOがいる。
地上では宇宙人と区の職員が言い争っている。
あのミニバイクはなんと宇宙人の子どものおもちゃだったという。
撤去ポスターを分析して、取り戻しにやって来たのだ。
区役所の職員は身分証明書がなければ撤去物は渡せないと頑張っているが、宇宙人に身分証明書があるわけもない。第一、乗っているのも未確認飛行物体だ。
「役所は固いねえ」
「いい加減にしとかないと宇宙戦争だよ」
原因がどこにあるのかも忘れ、私たちは無責任な野次馬となって、果てしなく続く言い争いを見ていた。
(了)
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