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【ショートショート】巨大ロボット

 在宅の仕事は肩が凝る。
 体をほぐすために財布とスマホを持って散歩に出た。
 ほんのすこし、30分ほどあたりを歩いて帰宅するつもりでいたが、青梅街道に出たとたん、後ろから妙な男に跡をつけられた。
 コート姿に目深な帽子。どうにもあやしい。
 環七との交差点。青信号が点滅している。私は駆け出した。後ろの男も駆け出したが、間に合わない。信号は赤に変わった。それでも男は突っ込んでくる。
 うそ。
 カーブを曲がってきたトラックがモロに男にぶつかった。
 男は吹っ飛んだが、トラックも無事ではすまなかった。半壊だ。立ち上がった男はずたぼろで、ところどころ皮膚がすりきれ、金属の地が剥き出しになっている。
 ロボットか!
 ロボットはぎーっなどと異音を発しながら立ち上がると、私の方向を向いた。こりゃヤバい。私は駆け出すと、新高円寺で地下鉄に飛び乗った。
 千葉を目指す。
 ロボットをやっつけるといえば、溶鉱炉。私は千葉県にあるJFEの溶鉱炉を目指したのである。
 ロボットを誘導して、溶鉱炉に落っことすことに成功した。
 ロボットはゆっくりと溶けた鉄の海に沈んでいった。
「はあ」
 と胸をなでおろしていると、ばっと溶鉱が飛び散り、巨大な腕が飛び出した。
 大きな顔が出てきた。
 どうもこいつは溶鉱炉で溶けるほどやわなやつではなったらしい。むしろまわりの溶鉱を身にまとって巨大化しているではないか。
 これはかなわん。
 私はもう逃げるのをあきらめた。どうにでもしてくれ。
 すると、溶鉱炉から出てきたロボットは私の前にひざまづくと、「よろしくお願いします。ご主人さま」という。
 下僕ロボットだったのか!
 しかし、こんな巨大化したロボットが付き従っていたのでは目立ってしようがないし、どこに寝起きしてもらっていいかもわからない。
「おまえはしばらくここで暮らしてくれないか」
「はい。ご主人様」
 ということで、最初から話し合えばよかったのだ。
 溶鉱炉のなかにはロボットが住んでいる。
 嘘だと思ったら、声をかけてみたらいい。私の聞いたところではロボットの名前は「三平」というらしい。
 いつか三平と一緒に住めるときがくればいいなあ。

(了)

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