見出し画像

【ショートショート】突然の電話

 電話がかかってきた。いまどき音声通話とは珍しい。
「こんにちは」
 と相手がいう。
「こんにちは」
「私は、いまどこにいますかね」
 へんな人だと思ったが、私は「どんな場所ですか」と返事した。
「四つ角です」
「どこの四つ角」
「コンビニがあります。セブンイレブン」
「セブンイレブンはどこにでもあるから」
「ケンタッキーもあります」
「セブンイレブンとケンタッキーね」
 私は考え込んだ。そのふたつがある四つ角は、思いつかない。すくなくともうちの近くじゃない。
「そこは駅の近くなの」
「ううん。バス停」
「なんていうバス停」
「忘れました」
「Googleマップは使える」
「使えます」
 私は自宅の住所を告げた。しばらく間があった。経路を調べているらしい。
「遠いなあ。歩いて百分もかかる」
「いったいどこにいるんだ」
「赤羽だって」
 うちとぜんぜん関係ないじゃないか。
「用事って、この電話では無理なの」
「用事……とくにないんだけど」
「あなた、誰だっけ」
 相手は名前を告げた。
「ごめん。記憶にないわ」
「私もあなたのことは知りません」
「じゃあ、どうして電話してきたの」
「適当な番号を押してみました」
 私はむっとした。暇つぶしか。
「用事がなければ、切るよ」
「あ、そういえば、伝えておきたいことはありました」
「なに」
「あと二十四時間で地球は滅ぶ」
「えっ」
 電話は切れた。
 私は茫然としてスマホを眺めた。まるで異星人とコンタクトしたかのように神経がザラつく。
 これは誰かに伝えたほうがいいのだろうか。
 特定の顔が思い浮かばない。
 「あと二十四時間で地球は滅ぶ」というハッシュタグをつけてツイートを投げてみた。
 同じハッシュタグがあるかなと思って、タップしてみると、延々と続いている。三日前の投稿も、一ヶ月前の投稿もあった。これまでずっとデタラメだったのだ。きっと今日のもデタラメに違いない。

(了)

目次

ここから先は

0字
このマガジンに含まれているショートショートは無料で読めます。

朗読用ショートショート

¥500 / 月 初月無料

平日にショートショートを1編ずつ追加していきます。無料です。ご支援いただける場合はご購読いただけると励みになります。 朗読会や音声配信サー…

この記事が参加している募集

#眠れない夜に

69,624件

新作旧作まとめて、毎日1編ずつ「朗読用ショートショート」マガジンに追加しています。朗読に使いたい方、どうぞよろしくお願いします。