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40歳で初めて胃カメラを飲んだはなし

実録・胃カメラを飲む

健康診断で、残るは胃カメラ検査だけになった。口からだと餌付くかもと思い、鼻からを希望していたけど人気らしく3ヶ月先まで予約がとれず、平日に口からの検査を受けることになった。

それまで、ベルトコンベアに乗せられ運ばれていくだけのような機械的な健康診断が続いていて忘れていたが、急に不安になってくる。

待合室の隣の席で、胃カメラ検査を終えたばかりの男性がしんどそうにしていた。ますます不安が募る。

自分の名前が呼ばれ、待合室で看護師が検査の手順を説明し始めた。まず、麻酔薬を飲むこと、検査自体は10分程度で済むこと、検査中も都度説明していくこと。緊張はピークに達する。逃げ出したいと思う気持ちを、必死で抑えた。

検査室の扉が開くと、急に空気が張り詰めた。ここは医療の現場なんだと思った。検査をする先生と、周りには何人もの看護師たち。それぞれの役割を果たすため、あちこちから掛け声が飛ぶ。先生が「緊張しますよね」と私の目をまっすぐ見て言う。「緊張します」と正直に言えて少し楽になる。看護師たちも緊張を解そうと代わる代わる声をかけてくれた。

ベッドに腰掛け、メガネをとる。胃の泡を消すという液状の薬をゴクリと飲み込むと、苦味が喉いっぱいに広がった。さらに口を開けているところに、先生が麻酔薬をスプレーで吹き付ける。その液体を30秒喉に溜めていると、次第に喉の奥が痺れてくる。喉が言うことを聞かなくなり、感覚が麻痺していくのがわかる。最後にその液を飲み込み、いよいよ検査が始まる。

ベッドに左を下にして横向きに寝そべり、手や足の置き方、顔の向きなど、ひとつひとつ看護師が声をかけながら、苦しくない態勢を作っていく。態勢ができると、看護師が私の口にマウスピースを咥えさせ、テープで固定した。もう逃げられない。心拍数が上がる。

「鼻で吸って、口で吐いて」看護師が言う。私はもう、とにかく怖くて目をつぶっていた。呼吸の仕方を指導されているうちに、胃カメラが私の中に入っていく。喉を通るとき、気持ち悪さに耐え兼ね、餌付く。涙と鼻水とよだれ、あらゆる体液が溢れ出た。

そんな中、先生は「今一番通りにくいとこ通ってるからね」と説明する。看護師は「唾液は飲み込まず、どんどん出して」と絶えず声をかけ続け、不安を和らげようとしてくれていた。

喉の麻酔が効くほど、呼吸がうまくできなくなっていく。鼻で息を吸おうとしても何故かうまく吸えず、どんどん浅い呼吸になる。そんな私に、ずっと背中をさすりながら、「ゆっくり息を吸って、もっと長めに吐いて」と声をかけてくれる看護師。私は次第に「ああ、これは医療なんだ、ただ身を任せるしかないんだ」と実感していき、とにかく呼吸することだけに意識を集中した。

検査のため、胃に空気を送り込まれるとまた餌付いてしまう。「もう半分終わったよ」「今一番しんどいところだからね、頑張って」先生が、進捗を逐一言葉にして伝えてくれた。「少しゲップを我慢して、その方が早く終わるよ」看護師が助言をする。苦しい。つらい。それでも検査は続いていく。どんどん息ができなくなる。

息苦しさがピークに達した頃合いに「もう終盤、もう少しだけ頑張って」先生が言う。また、呼吸に意識を集中する。鼻で吸えないから口でなんとか息をした。

うっすら目を開けると口から出ていく胃カメラのチューブが見えた。また慌てて目を閉じる。あと少し。頑張れ自分。

チューブが全部体内から抜け、また餌付く。看護師がマウスピースを外してくれる。「大丈夫ですか?」と声をかけてくれる看護師。しばし放心状態で返事ができなかった。「起き上がれますか?」看護師に促され、ようやく起き上がり、緊張が解けた。部屋に安堵の笑みが広がった。

下を向きながら、水で口をゆすぐ。喉の麻酔のせいで、うまく口を動かせない。「しばらく唾を飲み込まないで」と看護師が言うので、ティッシュに何度も唾液を吐きながら、先生から検査結果を聞いた。「食道も胃も十二指腸も異常はない、キレイですね。」の言葉に安堵する。

ただ胃が少し萎縮していて、ピロリ菌感染の可能性があると診断された。確定診断は血液検査でピロリ菌検査をやるしかない、と言う。ただ検査をして陰性なら問題ないし、陽性でも内服薬を飲めば治るという説明を聞き、安心した。

検査室を出て、待合室の椅子に座る。看護師が追加で説明をしてくれた。今回の血液検査に、ピロリ菌検査も有料で追加できると言われ、迷わず追加の要望を伝え、健康診断は終了した。

不安を解消してくれたのは、説明、声かけ、そして暖かい手

胃カメラ検査を受けてみて、極度の不安を解消してくれたのは、先生の「今何をしているか」「今どのくらい検査が進んだか」という説明と、看護師の絶え間無い声かけ、そして、背中をさすり続けてくれた暖かい手だった。

人は経験したことのない「未知」に遭遇すると思うように動けなくなる。事前に何をするか言葉で聞いていたとしても、知識で知っていることと、それを体験することはまるで違う。けれど、随時説明してもらえること、特に自分がしんどい時に、「今一番しんどいところ」、あとどのくらい?と思った時に「半分終わった」「もう終盤」と欲しい言葉をくれたのが安心につながった

そして、何より、ずっと背中をさすってくれた看護師の手の暖かさに救われた。身を委ねよう、と思えた。

大切な人を大切にするために、そして……

今回、40歳(もうすぐ41歳)にして初めて上部消化管検査を受けた。自分の父親が胃がんで亡くなっていることもあり、本当は、2年前からだんなに受けてほしいと言われていた。でもどうしても嫌で、2年前は「来年受けるから」と逃げ、去年は泣いて逃げた(大人気ない)。今年こそ受けなくてはと思いつつ、どうしても気乗りしない私に、だんなが言った。

「毎年受けてとは言わない。一回受けてみて。一緒に長生きしようよ

大切な人を大切にしたい。だんなを安心させたい。そして、最後は「嫌なことは書くネタにしよう!」そう思って覚悟を決めた。noteをやっていたおかげだ。

そもそも胃カメラとは

正式には「上部消化管内視鏡検査」という。主に口から内視鏡を入れ、食道・胃・十二指腸のポリープ・潰瘍・がんなどを調べる検査である。

通常、生活習慣病健診では、上部消化管X線いわゆる胃バリウム検査が基本で、胃カメラ検査は追加料金を払うオプション検査だ。私の場合は+6200円かかった。(金額やシステムは医療機関や、加入している健康保険組合および会社の福利厚生による)

けれど、私は極度の便秘症で、通常でも2〜3日出ないのはザラで、5日出ないこともある。そんな自分がバリウムを飲んだら、悲劇が起きると思った。

胃カメラの場合、喉の麻酔は1時間くらいで切れるので、健康診断が終わり着替えて会計をして帰る頃には「あと20分くらい水を飲めない」という程度。その後の苦痛は何もない。

また、万が一検査中に何か見つかった場合、組織検査(生検)をすることに事前に同意しておけば、その場で処置をしてもらうことができる。バリウム検査で何か見つかったら、結局改めて胃カメラを飲まなければならないようなので、そこは胃カメラに軍配があがるのではないかと思う。

胃カメラも選択肢に

サービスに対して対価を支払う。そのとき、サービスを受けるその瞬間だけではなく、その前後の影響も含めて考えてみてはどうだろうか。確かに10分の検査に+6200円は高いかもしれない。だが、サービス提供後の体調も含めて考えたら、どうだろうか。

一瞬だけつらいか、その後一定期間つらい想いをするか、自分はどちらがよいのか。何をつらいと感じるか、どんなつらさなら耐えられるかは人によって違う。だから「高い」というだけで検討しないのは少しもったいないのではないかと思う。一度、胃カメラ検査を選択肢に入れてみては。

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