変な話『窓際侵入社員』

 男は、会社のトイレの個室にいた。昼休憩になると決まってこの個室に篭る。
 いつからだろうか。
 入社してから二年も経っていないが、三人いた同期は、皆辞めていった。
 男は、上司とは上手くいっていなかった。優秀な二人が辞め、無能な男だけが残された。肩身の狭さから男はこの個室に閉じこもるようになった。

 朝、出勤前に買ったコンビニの菓子パンを食べ終わり野菜ジュースで飲み込んだ。
 食べ終わったゴミをビニール袋にまとめ、足元へ落とした。
 男は腰を浮かせズボンを下ろす。便座の蓋を開け、
腰を下ろす。両耳に収まったイヤホンからは、リンキンパークが流れている。
 踏ん張るとも、踏ん張らないともしない丁度中間あたりの状態で残りの時間を潰していた。
 程なくして、個室の扉がガチャガチャっと揺らされた。誰かが用を足したいのだろう。
 男は思った。「トントン」と扉をノックされたのであれば「入っています」と言えるのだが「ガチャガチャ」では、その言葉が言いにくいではないかと。

 男は、だんまりを決め込んだ。

 扉は、更にガチャガチャと揺れ続ける。
 一度開かなかったのだから中に入っている事ぐらい察しろよと、腹も立ち出していた。
 外のヤツは、自分のミスで扉が開かないと思っているのだろうか。試行錯誤をしてあらゆる方法でガチャガチャと揺らしている。
 男は、リンキンパークの音量を上げ、目を瞑った。
 男はだんまりを続けた。その攻防は体感では、それなりに続いた。しばらく揺らされたところで静かになった。やっと諦めたのだろう。男は安堵した。
 そして扉の前からコツコツとヒールを鳴らし、足音が遠ざかって行った。

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