『ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか』を読んで
昨年終わりに『ドイツのスポーツ都市』、『ドイツの学校にはなぜ「部活」がないのか』の2冊を読み、いずれも興味深かったのでさらにドイツのまちづくり、スポーツに対する取り組みを知りたいと思い、こちらも読んでみた。
今回も興味深かった点を幾つかピックアップしていく。
手厚い移住者への受け入れ態勢
もしあなたがエアランゲン市に引っ越して、市民課で住民登録をすると、市のロゴと13の言語で「ウエルカム」と書いてある「マイバッグ」を貰えるだろう。中身は「ウエルカム・セット」である。リサイクル用のゴミ袋、市内の地図、ボランティア参加のための案内、市営のミュージアム、図書館、プール、ローカルバスの紹介、地元紙のクーポン券、スポーツ・文化施設や教育機関へのアクセス案内、死の簡単な歴史や統計などが描かれた小冊子「エアランゲン・ポートレート」といった具合だ。(p.30より引用)
日本国内でも転入届を出せば、ある程度同じようなものを受け取れるはずだ。
けれど、こうして書いてあるとなんだか移住者にやさしいまちだと思えてしまうのは僕だけだろうか?筆者がエアランゲン市に住んでいることと、エアランゲン市が魅力的な街であることを誇りに思っているからこそ、こうした紹介になると思う。
せっかく引っ越しをするなら魅力的なまちに惹かれるのは自然なことだと思うので、自分の住むまちに誇りを持つ住民がいることはまちづくりにおいて強みになるはずだ。
オープンドア・イベント
ドイツではさまざまな組織や施設がドアを開放して人に訪ねてもらう「オープンドア・イベント」というものをよく行う。主催者側は知恵を絞って活動内容を紹介するパネルを作ったり、訪問者が体験できるようにしたり、軽い飲食ができるようにしつらえる。こうしたイベントは情報公開、説明責任、ワントゥワンマーケティング(観客に対する個別マーケティング)、地域リレーションなどの効果が期待される。ドイツの企業や施設・組織は拠点地域との関係を築こうとする傾向が強いが、オープンドア・イベントはそれを実践する取り組みの一つだ。(p.42より引用)
地域住民だけでなく、企業も地域に対して積極的な関わりを持つのは素晴らしい。色々な形で愛着が湧くし、自分の住むまちを多角的に知ることにつながると思う。
また、地域のさまざまな取り組みに対し銀行がスポンサーになる事例も多いようだ。芸術、スポーツ、青少年、社会(日本の福祉と社会保障のイメージ)などの活動支援に対し予算をつけており、「地元で地域社会の質を高める動きと銀行の支援が循環している(P.84より引用)」そうだ。
まちの求心力の育み方
ドイツの自治体には独立性の高さが目につく。その理由は連邦制という制度的な裏付けが大きいが、行政的・政治的な権限だけが強ければ独立性の高さが実現できるというわけではない。重要なことは、まちそのものが求心力を持っているかどうかだ。言い換えれば、まちの人々が自分の住むまちや地域に対して愛着や誇りを感じているかどうかだ。歴史、つまりまちの成り立ちを執拗に確認しているドイツでは、「まちの自意識」とでもいうものが育まれ、まちの質を高める土壌になっていると言えるだろう。(P.79より引用)
この本を読んでいると、住民だけでなく企業も一体となって、シビックプライドを醸成していることがうかがえる。以下にも幾つかの事例を挙げるが、エアランゲン市では、本当に多様な視点から「まちの質を高めること」を重要視しており、その重要性を地域で活動する企業も従業員への福利厚生にもつながるとして積極的に関わっているようだ。
そしてその取り組みはさらに多岐にわたる。
ドイツでは1960年代にスポーツ推進を積極的に行い、誰もがそれぞれのペースでスポーツを楽しめる環境整備をした。その中心となるのは全国に広がるスポーツ・フェライン(日本で言う総合型スポーツクラブ)で社交の場としても機能している。
また、教会もコミュニティのハブとしての役割を持っている。祈りの場としてだけでなくホールや中庭などがあることから公共性の高さゆえだ。教会ではコンサートをはじめ文化的な活動が多数行われている。
日本でも教会ではコンサートが行われるなどの事例ももちろんあるが、寺社を含めもっと積極的かつ地域に関わってもいいのではないかと思っている。僕は、総合型スポーツクラブを日本で実現する際に壁になるのが拠点となる施設の不足だと考えている。寺社にグランドや体育館とは行かないかもしれないが境内などを活用してできるスポーツもあるだろうし、階段ダッシュは定番のトレーニングだ。日本ならではの組み合わせや事例があっても良いのではないだろうか?
また、ドイツでは地方紙が多く(全国紙の方が強い日本の方が少数派だそうだ)、その紙面も世界や国内記事はもちろんあるが、まちや地域、州内の記事のボリュームがかなり多いそうだ。そこでは、政治、スポーツ、文化・芸術、地元企業のこと、事件・事故などが扱われるのはもちろん、批判や分析もしっかりとおこなわる。言論の積み重ねがまちの歴史を作り出す。
クオリティ・ループという考え方
行政やフェラインが文化・スポーツの環境を充実させようとする。その実現のために、行政の予算のほかに企業が広告・社会貢献名目で支援する。そうやって実現された環境は優秀な人材にとって、余暇を楽しみ、コミュニケーションの機会を増やすことになる。優秀な人材が集まれば、企業にとって新たなビジネスチャンスが生まれる。それによって企業の収益が伸びると、継続的に文化・スポーツをはじめ福祉や教育といった方面へも利益を分配、つまりスポンサリングを継続することが可能になる。(P.183~184より引用)
エアランゲン市ではこうした企業と行政の循環がスムーズであり、これを筆者は「クオリティ・ループ」と名付けている。
どこのまちにも大きな企業があるわけではないだろう。けれど、形を変えて、得意分野に注力すればそのまちの質を高めることはできるはずだ。結果として、行政もそのまちに暮らす人も企業にも恩恵はあるのだから、取り組んでみる価値はあるはずだ。
最後に
僕はいろんな問題を考えるのが好きだ。今回ならば、この読書を通じて、どうやったら自分の住むまちがより住みやすくなるか?面白くなるか?を考えた。
エアランゲン市に住む人、働く人の多くが「どうすれば自分の住む(働く)まちがより良いものになるか?」を主体的に考えているのがうかがえる。そうした場所には人が集まる。暗い話をするよりも明るい話をする方がいいし、人が生き生きしている場所にいる方が自分も楽しいし、そこに関わりたいと思うからだ。まさに、筆者の唱えるクオリティ・ループがまさしく体現されている。
ドイツにおけるまちづくりの事例をヒントに、僕自身の活動へも「関わりたい、一緒に何かをやりたい。」と思ってもらえるものに育てていきたい。
参考
【今後の予定】
1/31(日)ジュニアトレイルラン横須賀田浦大会(満員御礼)
4/14(日)第6回KANAGAWA Jr TRAILRUN in 逗子・神武寺
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