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経常収支の黒字は続くか(2)

5月19日の日経新聞で「4月の貿易赤字、3カ月連続縮小 米欧経済減速に懸念」というタイトルの記事が掲載されました。財務省が18日に発表した2023年4月の貿易統計(速報)で、貿易赤字は4324億円となり、赤字額は3カ月連続で縮んだという内容です。資源高や円安が一服して輸入額が減った影響が大きいとしています。

同記事の一部を抜粋してみます。

4月の貿易統計では輸入は前年同月比2.3%減の8兆7208億円だった。減少は27カ月ぶり。原油が前年同月から25%減り、液化天然ガス(LNG)も24.8%の減少となった。それぞれ輸入数量も減った。

原油は円ベースで1キロリットルあたり6万9356円で、貿易赤字が単月として過去最大となった23年1月時点から4000円近く下がった。ドルベースでは1バレルあたり83ドル39セントと、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて高騰した22年4月の107ドル80セントから22.6%下落した。

輸出は8兆2884億円で前年同月に比べて2.6%増えた。自動車は半導体不足などの供給制約が和らぎ、輸出額が1兆3430億円と29.2%伸びた。米国向けは23.1%増、欧州連合(EU)向けは94.8%の大幅な増加となった。

先日投稿した「経常収支の黒字は続くか」では、貿易赤字が1月に単月として過去最大の3兆1818億円となったことを取り上げました。そこから4324億円まで急速に赤字額を減らしています。

貿易収支(財貨の輸出入)と、サービス収支(知的財産権等使用料、旅行など)、第一次所得収支(対外投資で得られる収益)、第二次所得収支(他国への援助など)の合算である経常収支が通年で赤字になってしまう状況は当面遠のいたようです。

しかしながら、資源高と円安が続く限り、輸入額を膨らませるという構図は続きます。米欧を中心とする経済も停滞が見込まれていて、今後輸出が増えていく見通しもたちにくい状況です。貿易赤字の構造は当面続きそうです。

同日付の別記事「一時1ドル=138円台後半 日本のデジタル赤字も一因」では、サービス収支の赤字要因について紹介しています。(一部抜粋)

足元では金融緩和を続ける日銀との政策の違いが円売り材料として注目されがちだが、「日本のデジタル競争力の低迷」という構造的な要因も円安につながっているとの見方がある。

日本の国際収支の赤字は実需の円売りにつながるため、円安要因になる。エネルギー価格の上昇などによる貿易赤字は円安の材料になって久しい。加えて、サービス収支の赤字拡大も円を下押ししている。サービス収支のなかでも、IT(情報技術)関連の「デジタル赤字」が急速に膨らんでいるのは見逃せない。

財務省の国際収支統計によれば、サービス収支のうち、情報処理や検索エンジンなど「通信・コンピューター・情報サービス」、ネット広告などの「専門・経営コンサルティングサービス」、動画・音楽配信など「著作権等使用料」といったデジタル収支は2022年度に5.1兆円の赤字だった。サービス収支の赤字に占める割合は97%と大きい。デジタル赤字額は10年前に比べておよそ6倍に膨らんだ。

22年度の経常収支は9.2兆円の黒字と、黒字額が前年の半分以下に減少した。貿易赤字が過去最大の18.1兆円になったのが大きい。デジタル赤字はその約3割に相当する規模で、経常収支を悪化させた要因の一つといえる。

デジタル赤字が拡大した背景には海外のITサービスの存在感が日本で高まったことがある。動画配信では米アルファベットの「YouTube」や米ネットフリックスなどは日本の消費者に身近なサービスとなった。音楽配信ではスウェーデンのスポティファイが有名だ。新型コロナウイルスの感染拡大後には、「ズーム」がネット会議の代名詞となった。デジタル赤字は「消費者や企業行動の構造的な変化を伴うものであり、今後も拡大傾向を続ける公算が大きい」(バークレイズ)とみられている。

財務省が公表している「通信・コンピューター・情報サービス」の地域別収支をみると、対米国のほか、対シンガポールなどでも赤字額が大きい。デジタル収支が赤字に偏る相手は超大手のIT企業を多く抱える米国に限った話ではない。日本には世界的に存在感がある「プラットフォーマー」と呼ばれるようなIT企業がほとんどないことが、こんなところにも影響している。

こうしたIT競争力の弱さという日本が抱える課題も円安の要因にあることは気に留めておくべきだろう。

デジタル収支の赤字は、10年前には1兆円以下でしたが、今では5.1兆円です。旅行収支(受取:外国人が日本で消費-支払:日本人が海外で消費)は、2019年のコロナ禍前のピークで年間約3兆円の黒字です。訪日外国人が日本でお金を落としてくれるインバウンド消費の好影響が指摘されていますが、現時点では旅行収支の黒字を上回るデジタル赤字が発生していることになります。

今話題とされている生成AIでも先行しているのは米系企業等です。生成AIなどを活用する流れは加速すると見られます。今後も赤字額拡大していき、かつその拡大スピードが速まっていくことが想定されます。

今後、経常収支黒字を維持できるかは、

・海外で稼いだ利益による国内への再投資
・外国からの対内投資の呼び込み
・訪日客が日本で落としてくれる旅行収支の拡大
・特定のエリアなどに過度に依存しない資源調達の確保
・IT競争力の向上

などにかかっていると考えられます。

通年で経常赤字となると、円通貨や金利の動きなどに日本の収支力の弱さを反映した新たなトレンドが形成され、ビジネス、生活に与える影響が大きいものになると想定されます。引き続き動きを見ておくべきだと言えます。

<まとめ>
デジタル収支の赤字が、経常収支の黒字を減らす大きな要因となっている。

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