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経常収支の黒字は続くか

3月8日の日経新聞で、「経常赤字最大の1.9兆円 1月、円安・資源高で」というタイトルの記事が掲載されました。単月での日本の経常収支が、比較可能な1985年以降で過去最大となったという内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

財務省が8日発表した1月の国際収支統計(速報)によると、貿易や投資などの海外との取引状況を表す経常収支は1兆9766億円の赤字だった。赤字は22年10月以来、3カ月ぶり。比較可能な1985年以降では、14年1月の1兆4561億円の赤字額を超えて過去最大となる。円安や資源高で輸入額が膨らんだ。中国向けの輸出停滞も響いた。

経常収支は輸出から輸入を差し引いた貿易収支や、外国との投資のやり取りを示す第1次所得収支、旅行収支を含むサービス収支などで構成する。経常収支の赤字幅は前年同月の3.4倍になった。

貿易収支の赤字が過去最大の3兆1818億円となり経常収支の赤字につながった。貿易赤字は前年同月から1兆6021億円増加し、日本企業の海外での投資収益や旅行収支の黒字幅拡大を打ち消した。

輸入額は10兆45億円と前年同月比で22.3%増えた。石炭や液化天然ガス(LNG)などの価格上昇が響いた。1月の原油の輸入価格はドルベースで1バレルあたり88ドル14セントと10.6%上昇。円ベースでは1キロリットルあたり7万3234円と27.1%上がった。円安で輸入額がかさんだ。

輸出額は6兆8227億円と3.4%の増加にとどまった。1月は例年、国内工場の正月休みなどで輸出は伸びにくい。加えて、今年は中国の春節(旧正月)の時期が1月22日で、22年より早まった。現地の物流や工場が止まり車部品などの対中輸出が減った。

第1次所得収支の黒字は2兆2905億円と18.1%増えた。インフレ抑制に向けた米欧の中央銀行による利上げの影響で、債券利子の受け取りが増えた。

サービス収支の赤字は7584億円で489億円縮小した。訪日外国人の消費額から日本人が海外で使った金額を引いた旅行収支が、1779億円の黒字と前年同月の14倍になったことが寄与した。水際対策の緩和で訪日客が戻り始めた効果が出ている。

長期の傾向が分かりやすい季節調整値では、経常収支は2163億円の黒字で前月比81.7%減った。貿易赤字は1兆6959億円と前月から赤字幅を広げた。円安と資源高が重荷となっている。

経常収支=貿易収支(財貨の輸出入)+サービス収支(知的財産権等使用料、旅行など)+第一次所得収支(対外投資で得られる収益)+第二次所得収支(他国への援助など)です。

第1次所得収支では、日本側が得た利益は受取額、海外投資家が日本への投資で得た利益は支払額で、差し引きして受取額が多ければ黒字となります。第1次所得収支は、昨年度対比で黒字が増え続けているようです。日本は今や、世界最大級の第1次所得収支黒字国です。

一方で、貿易赤字額が大幅に増えています。エネルギーの輸入価格の増加や1月という性質や中国の時期的要因などがあるとはいえ、貿易赤字が常態化していることが改めて確認できます。かつての時代の日本は、日本で作った物を海外に輸出して売って稼ぐ加工貿易立国でしたが、今では海外投資での稼ぎで貿易赤字を埋め合わせる国となっていて、産業構造が大きく転換していることが分かります。

経常収支が長期的には黒字であることが、日本経済に対する評価につながっています。仮に通年で経常収支が赤字となりそれが恒常的になると、評価がひっくり返って、日本経済にとって激震となる可能性もあります。

日本は赤字国債の発行大国ですが、それがあまり問題にならずにきたのは、日本国内の膨大な金融資産もあってのことです。「日本の借金は日本国内で調達しているから、とりあえず大丈夫」などと言われるゆえんです。しかし、経常収支の赤字常態化は日本にある資産の海外流失の常態化を意味します。日本の国債が国内だけではまかなえなくなり、海外に買ってもらわなければならないという状況にもなり得ます。

日本国債への信認が下がると、日本国債(=日本国)を買うリスクが増えるということになり、円や国債の暴落につながる可能性など、その影響は計り知れないと想像されます。2月以降の経常収支に注目していく必要があります。

長期の傾向が分かりやすい季節調整値では、経常収支は黒字を維持しているとあります。しかし、黒字幅が縮小しています。今後黒字を維持していけるかどうかは、海外で稼いだ利益による国内への再投資、外国からの対内投資の呼び込み、訪日客が日本で落としてくれる旅行収支によるプラス、などが拡大するかどうかにかかっています。

<まとめ>
1月の日本の経常収支は、単月で過去最大の赤字である。

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