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インバウンド×ヘルスツーリズム

1月31日から数回にわたって、日経新聞で「インバウンド第2幕」というタイトルの記事が掲載されました。「インバウンド消費」と言えば、発生初期は「爆買い」と呼ばれる百貨店やドラッグストアでの消費財・嗜好品のまとめ買いが、その意味合いの大半でした。その後インバウンドの意味合いと影響は多方面に広まっている印象ですが、そのことについて取り上げています。

1月31日の記事「インバウンド第2幕(1) 訪日客を素通りさせない」から一部抜粋してみます。

日本海に面する酒田市はかつて北前船の寄港地として栄えた。料亭文化が広がり、舞娘の演舞を見られる茶屋がある。コメや日本酒といった日本を代表する食材も豊富にある。2023年度には台湾など海外でも人気のドラマ「おしん」のロケ地となった「山居倉庫」を所有者から買い取る予定で、観光資源の保存に力を入れる。

新型コロナウイルス禍前の19年度のインバウンド(訪日外国人)は約1万3000人だった。同市全体の観光客数の1%に満たず、出遅れ感は否めない。首都圏や関西などを周遊する定番の「ゴールデンルート」から外れ、知名度が低かった。市長の丸山至は「自然や歴史・文化、食を組み合わせた楽しみ方を提供する」と巻き返しを狙う。

舞娘の束ね役で、約30年の芸歴を持つ小鈴は後継者育成のため、19年から高校生に稽古をつけている。22年4月には3人がデビューした。「酒田舞娘が認知され、自分たちに技量があればお客は来てくれる」。訪日客を素通りさせまいと、地域が一体となって誘致を盛り上げる。

茨城県中部の笠間市にあるゴルフ場「笠間カントリークラブ」。22年11月上旬、台湾からの観光客17人がゴルフを楽しんでいた。参加した謝依廷は「ゴルフを目的に来日した。茨城県ののどかな景観も魅力的だ」と笑顔を見せた。

台湾の旅行会社が茨城県や笠間市と協力し、4泊5日のゴルフツアーを企画した。プレーに加えてゴルフ専門店で買い物ができるツアーも用意しており、参加料金は1人20万~30万円。水際規制が大幅緩和されてから試験的に実施したツアーが好評だったため、2月以降も複数回の開催を予定している。

茨城県は歴史的な街並みや有名な温泉地などが少ない。一方、ゴルフ場は約120カ所と多彩なコースを抱える。台湾はゴルフなどのアウトドアスポーツの人気が高い。茨城県は観光資源に見合った旅行ニーズのある台湾をターゲットとし、PR動画の配信などで地道に情報発信を続けた努力の成果が表れつつある。

栃木県日光市のホテルに22年10月上旬、スイスや香港などからの観光客4人が集まった。みな長距離移動に適したスポーツタイプの自転車にまたがっている。塩原温泉や中禅寺湖といった日光国立公園エリアを5泊6日で巡るサイクリングツアーの一行だ。参加者の一人は「肌で自然を感じられる旅はなかなか経験できない」と満足げな表情を浮かべていた。

ゴルフについては、2021年に第647号で取り上げたことがあります。「かつては、海外でゴルフをすれば日本人にとって格安と言われたが、今後は逆に「日本でのゴルフは割安」という認識になるかもしれない。整備の行き届いたゴルフ場のツアーなどを外国人向けに組むと、一定のニーズを取り込めて面白いかもしれない。」という内容でした。

その後さらに日本と国外で内外価格差の縮小あるいは逆転も進み、上記のような傾向も出てきたのかもしれないと思います。

Global Wellness Instituteが2018年に発表したレポートによると、世界のヘルスツーリズム市場(スポーツ・アクティビティ、リラクゼーション、ヘルシーフード)は拡大中で、2020年には市場規模が9,194億ドル(約95兆4,071億円)、年間平均成長率が7.5%になると推測されていました。

これはコロナ禍前の試算のため今現在では変わってしまっていると思いますが、今後の長期トレンドでの市場性を示唆していると思います。前回まで健康をテーマにしましたが、世界的に過食が進んでいく中で、健康関連ビジネスは今後も有力な市場のひとつだと考えられます。

2月1日の記事「1泊110万円でも売れる」の記事も取り上げてみます。

ホラ貝や太鼓の音が鳴り響くなか、甲冑(かっちゅう)をまとった城主を鉄砲隊が祝砲で出迎える――。「素晴らしい。想像以上だ」。2022年11月中旬、英国から愛媛県大洲市の大洲城を訪れ、殿様気分を味わったジェームズ・ケントは時代劇さながらの演出に涙を流した。

体験したのは木造復元天守に泊まる「キャッスルステイ(城泊)」で、宿泊料は1組1泊110万円からと高い。それでも3~6月は11組の予約が入り、うち2組はインバウンド(訪日外国人)だ。桜の季節にはキャンセル待ちも発生している。

「一番高い酒はどれか」。22年夏ごろから、商社などが宮下に富裕層向け商品の問い合わせをするケースが増えている。中国からはESTATEを1000本単位で購入することを前提に「ボトルをクリスタルにできないか」という打診があった。訪日客にも「技術を生かして売り出すチャンス」とみる。

皇居近くにあるパレスホテル東京(東京・千代田)は1室28万円以上の広いスイートルームを設けるなどしたところ、22年12月の平均客室単価が12年の新装開業後の最高になった。運営会社社長の吉原大介は「高い稼働率はもう目指さない」と断言する。「安いニッポン」と「高いニッポン」。ふたつのニーズをどうつかむかの知恵比べが始まった。

日本人の1人あたり消費が伸び悩み人口も減少していく中で、あらゆる事業活動によるトータルでの消費額を増やしていこうとするなら、方向性は大きく、インバウンド消費拡充か、海外市場を狙うの2つになります。

ポイントになるのは、高単価の追求にあると思います。私たちの感覚で、城に泊まって110万円などあり得ないと感じてしまいます。しかし、110万円という金額は物価上昇を続ける他国の、しかも富裕層にとっては、非日常的な体験を伴うものであればそれほど問題になるものではないかもしれません。

上記の事例に共通しているのは、「私たち生活者としての日本人では気づかない、あるいは日常的だと思ってやり過ごしてしまうことに、多くの強みや可能性が潜んでいる可能性がある」ということだと感じます。その強みや可能性を特定し、引き出すことができれば、インバウンドを引き付けることができることを示していると思います。

<まとめ>
日本の文化や自然を生かした高単価な体験は、商品・サービス力のポテンシャルがある。

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