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環境整備について事例から考える(3)

BizHint記事「「5年後、潰れますよ」と諭され目が覚めた。“掃除”を徹底したらV字回復した町工場の話」(2023年12月18日(月)掲載)という記事を目にしました。大阪にある枚岡合金工具株式会社を取り上げた内容です。社内の反対勢力が半数以上の中で、リーダーとして改革を牽引した古芝保治会長の取り組みを紹介しています。

同記事の一部を抜粋してみます。

古芝保治さん(以下、古芝):バブルが崩壊した1990年代、当社の売上は低迷する一方。社長や役員の報酬を削減しても歯止めがきかない。朝から晩まで生産に追われども売上は伸びず、1997年にはついに赤字に転落してしまいます。このままでは潰れるのは時間の問題だと危機感を抱いていました。

何かできることはないのか…と、藁にもすがるようにして出会ったのが 「3S」活動です。3Sとは、皆さんご存知の通り「整理」「整頓」「清掃」のこと。たかが3Sで経営危機から脱却できるものか…そう思う方も多いのではないでしょうか。実際、当社でも最初は「掃除をして何が変わるのか?」といった反発の声が飛び交いました。

それでも、私は3S活動によって会社は必ず変わると信じていました。社員の反対を押し切って3S活動を続けたところ、結果的に業績はV字回復。離職率も下がり、人が育つ会社に変貌を遂げたのです。

かつて油まみれだった工場は裸足で歩ける、寝転がれるほどきれいな工場に変わり、当社の職場見学には、全世界からお申込みをいただくようになりました。2001年から現在まで、延べ17,000名以上の見学者を受け入れています。

ただ、ここにたどり着くまでの道のりは、決して楽なものではなかったですね。社員と大喧嘩したこともあるし、3S活動中に怪我をして流血騒ぎ…なんてこともありました。それでも、なぜ当社はこんなにも変われたのか。活動を続けていくなかで、大きなターニングポイントがありました。

それが「3Sを目的にしているうちは、本当の意味での改革は成功しない」という気づきです。3Sによりムダ・ムリ・ムラがなくなれば、不適合品やクレームも低減して増益に繋がります。だからこそ、最初は3Sを実施することが目的でした。とにかくやるしかなかった。しかし「3Sのために頑張ろう!」では、社員は頑張れません。3Sによって本当に実現したかったこととは…自分自身に問いかけ続けた結果、頭に浮かんだのが、 京セラ・稲盛和夫さんの名言「全従業員の物心両面の幸福を追求する」です。

これから会社が目指すのは、社員の幸せを追求することだと、目指すゴールが明確になりました。3S活動の目的を「全従業員の“物心両面”の幸せの追求」と再定義したことで、本当の意味で組織が変わっていった と感じています。

整理整頓や清掃を徹底するなかで良き習慣が生まれ、人が育ち、10年以上が経過して企業風土として根付きました。3Sの本質とは、社員一人ひとりの人間力を高めることなのかもしれません。

先日「環境整備について事例から考える」で、京都にある傳來工房(でんらいこうぼう)様の環境整備の取り組みについて取り上げました。同社様での取り組みについて、メンバー一人ひとりの人材力を高めることも目指したものになっていると紹介しました。今回の記事の枚岡合金工具様の事例にも、人材力向上のテーマで共通するものを感じます。

また、傳來工房様の事例では、環境整備の取り組みが充実し、成果につながっている要因と考えられることについて、次の点を挙げました。採用についての状況は記事からはくみ取れませんでしたが、他の点はほぼ同様に当てはまると言えそうです。

・大きな目的を掲げ、メンバー全員で共有している
・毎朝全メンバーで環境整備を行うルールがある
・強いリーダーシップ
・採用
・見学者の受け入れ
・フィードバックを謙虚に受けとめる

特に、組織活動で「大きな目的を掲げ、メンバー全員で共有」することの重要性を改めて感じます。枚岡合金工具様においても、「3S活動自体」を目的としていたのでは限界があり、「全従業員の“物心両面”の幸せの追求」を目的としたことで活動が継続的なものとなり、今に至っていると言えそうです。

そして、それをリーダーの強いリーダーシップで牽引し続けることです。リーダーのぶれない信念と率先垂範した行動がなければ、やはり変革は無理だということです。

上記の6つの要因以外にも、今回のBizHint記事の内容を手がかりに、同社様の取り組みが成功し成果を上げることにつながったポイントを考えることができそうです。

・外の世界を知る。先行事例を学ぶ

再びBizHint記事より一部抜粋してみます。

古芝:今考えると恥ずかしいほど(以前は)雑多な環境でした。事務所はファイルや資料が散乱し、工場は油まみれ、不要品に囲まれながらも「工場が汚いのは当たり前、それが製造業」と問題意識は皆無でした。

経営危機から抜け出すヒントを探すべく、いろいろな勉強会に参加していたのですが、その一環で、京都の金属加工会社・株式会社タナカテックを訪問させていただいたことが大きな転機となりました。まるでテーマパークのようにピカピカな工場は、どこに何があるか一目でわかるように整理整頓され、床にはゴミひとつ落ちていません。工作機械にはキリンやフラミンゴが描かれており遊び心満載。

そして何より感動したのが、そこで働く社員たちの瞳が輝き、生き生きと仕事をしていることでした。同じ製造業なのに、当社とはすべてが違った。つまり、社員が仕事に誇りを持って働く姿でした。

私たちは、自分が直接見聞きした情報をもとにして、思考し判断しようとします。閉じられた環境の中の情報にしか触れていなければ、その閉じた情報がすべてとなって、自分の中で固定観念化していきます。「工場が汚いのは当たり前、それが製造業」がその表れだと言えます。

しかし、外の情報を知れば、その当たり前が当たり前でなくなります。本やその他のメディアから情報を得れば価値観の世界は広がりますし、もっとよいのはやはり直接、現地現物でモデルとなる人や現場を見聞きすることです。同社様も、先行事例を見る機会がなければ、記事で紹介されているような過程はたどらなかったのかもしれません。外の情報に触れることは、やはり大切だと思います。

続きは、次回以降に取り上げてみます。

<まとめ>
自分が普段身を置くところを離れて、外の世界を見てみる。

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