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廃線水準に達した在来線をどう考えるか(2)

先週1週間でも、鉄道のローカル線 存続是非の議論に関する記事を多く見かけました。ローカル鉄道のあり方を議論する国土交通省の有識者会議が、7月25日に赤字路線の存廃についての提言を示した関係です。以前の投稿「廃線水準に達した在来線をどう考えるか」でも考えてみましたが、赤字路線の存続をどうするかは、たいへん難しい問題だと改めて思います。

7月26日の日経新聞記事「ローカル線存廃に基準 有識者提言 「1日1000人未満」など」を一部抜粋してみます。

ローカル鉄道のあり方を議論する国土交通省の有識者会議は25日、赤字路線の存廃についての提言を示した。1キロメートルあたりの1日の平均利用者が平時に1000人を下回るといった路線について、国と自治体、事業者が改善策を協議する仕組みを設ける。慢性的な利用者の減少で赤字が続くローカル線は、抜本的な見直しを迫られる。

25日の会議では、自治体や事業者の要請を受けて国が設ける「特定線区再構築協議会」(仮称)の対象とする路線の基準をまとめた。

鉄道の輸送効率を表す「輸送密度」(1キロメートルあたりの1日平均利用者数)が平時に1000人未満であることが主な基準となる。鉄道路線のうち、特定の区間を指す「線区」ごとに対象になるかどうか判断する。

対象の線区はバスや、専用道を使うバス高速輸送システム(BRT)への転換などを検討する。存続の場合も観光列車の活用といったテコ入れ策や、線路や駅を自治体が管理し事業者は輸送サービスに特化する「上下分離」について議論する。

実際に協議の対象になるのは利用者が極めて少ない線区に絞られそうだ。1時間あたりの利用者数が500人を上回る駅間があれば、対象から外れる。貨物列車が走っていたり県庁所在地などの主要都市を結んでいたりする線区も対象外だ。

新型コロナウイルス禍で収益環境が悪化している鉄道各社の危機感は強い。JR四国は5月、運行する全18線区が20年度に赤字だったと発表した。JR西日本に続き、JR東日本も7月末に初めてローカル線の収支を公表する。都市部の路線がない中小事業者の経営は一段と厳しい。22年4月の全国の乗客数は約17億人で、19年4月に比べて2割減った。

7月28日に初めて公表されたJR東日本の地方路線に関する収支情報では、利用者が少ない地方の35路線の66区間すべてが2019年度に営業赤字だったとあります。コロナ禍前で営業赤字ですので、その後の人口減少や、コロナ禍による新しい日常を考慮すると、現状のままでは赤字が拡大するのみだと想定できます。

ここでは3点考えてみます。ひとつは、鉄道を維持する目的は何かということです。

単なる輸送手段とみなすのであれば、目的は、適度な頻度で利用者が行きたい場所の近くまで運んでくれる仕組みです。鉄道にこだわる必要はありません。記事中にあるように、高速輸送システムや、それ以外にデマンドバス(定まった路線を走るのではなく,利用者の呼出しに応じることによって適宜ルートを変えて運行されるバス)の活用も選択肢です。

既に乗り合いの配車タクシーなども出始めており、もう少し技術的なインフラが整えば、デマンドバスのさらなる実用化も現実的かもしれません。「決まった時間に正確に来てくれる鉄道がないと不便」という意見もありそうですが、現状でもローカル路線はその決まった時間というのが1時間に1本や2時間に1本の頻度です。呼び出して乗車までに多少時間がかかるシステムになったとしても、現状のローカル線と利便性は大して変わらないのではないかと想像します。

目的が単なる輸送手段ではなく、観光や自然・文化資産の活用に関連付いたものであれば、話が変わってきます。地元民にとっては見慣れた何でもない風景が、日本の美が感じられる景観だと評判を呼び、観光客で活性化した地方路線があるという話も聞きます。一方で、そうした資産と紐づけるのは難しい路線もあると思います。「ローカル線」とひとくくりにするのではなく、路線ごとに目的を明確にしてもよいのかもしれません。

2つ目は、JRの収益性だけを取り上げて議論の対象にするのは、適切でないだろうという点です。

セブンイレブンの収益性が、コンビニの同業他社や他の業態の小売店と比べても優れているというのは、よく言われることです。もちろん、その要因は、品ぞろえ、鮮度管理、クリンリネス、フレンドリーサービスと呼ばれる4原則(同社HPより)をはじめとする、店舗自体の魅力づくりの努力と徹底にあります。

その上で、別の要因としては、立地も挙げられると想定されます。セブンイレブンは、自社が強みを活かして採算目途が立つエリアに集中的に出店するドミナント戦略を徹底しています。ハフポストのサイトを参照すると、セブンイレブンの立地は首都圏や山陽地方、九州北部などに集中し、例えば山陰地方や四国にはほとんど見られません。

一方で、ローソンは比較的人口が少ないと思われる山間部や地方にも幅広く出店しています。ローソンの出店が、生活インフラとして助かっているエリアは多いと想像します。よって、例えば単に両者の一店舗あたり収益性などだけから、店舗存続是非の比較もできないのではないかと思います。

ましてや、JRは旧国鉄から、エリアを問わず運営を引き継いだ経緯があります。例えば7月24日の日経新聞でも、JRの走行キロ当たりの営業費用が他の大手私鉄より3割近く高いデータが紹介されています。こうしたデータももとに比較する際には、JRが発足時に自社の経営戦略で進出エリアを選べだわけではないことも考慮する必要があると思います。

3つ目は、組織(企業)の使命を踏まえた存続基準を設定することの必要性です。

上記のような難しさがあるとはいえ、存続に現実的でない困難さを伴うのであれば、撤退するしかありません。このことは、鉄道に限らずどんな業界に身を置く企業でも当てはまることです。

祖業として大事にしてきた事業や、自社の掲げる使命を象徴するような事業は、当然存続を目指すわけですが、それを守るがゆえに企業全体の存続が危うくなると元も子もありません。

しかし、事業レベルもそうですし、個別商品・サービスのカテゴリーレベルでも、明確な撤退基準をつくれていない企業も多いものです。何がどうなったら撤退の具体的な検討や決定をするのかの、基準を明確にしておくことが必要です。

<まとめ>
別の手段で同じ目的を達成できないか考える。

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