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1億円の壁

10月7日の日経新聞で、「金融所得の税率上げ議論へ 政府、一律引き上げや累進案」という記事が掲載されました。「1億円の壁」と呼ばれる課題を是正することがポイントだということです。
同記事の一部を抜粋してみます。

~~政府は金融所得課税の見直しを年末の2022年度税制改正で議論する方針だ。現在20%の税率を一律で引き上げる案や、高所得者の負担が重くなるよう累進的に課税する案を検討する。ただ、日本は米欧に比べて富裕層への富の偏りが小さく、家計が保有する金融資産も株式などは少ない。税収増が限られるにもかかわらず、政府が進める「貯蓄から投資」に水を差しかねない。

株式の配当や売買にかかる金融所得課税は一律20%(所得税15%、住民税5%)だ。ポイントとなるのは「1億円の壁」と呼ばれる課題の是正だ。首相はこの壁を「打破する」と主張してきた。給与所得には累進制で住民税も含めて最大55%の税率がかかるが、金融所得は一律20%だ。富裕層は金融所得を多く持つ傾向があり、年間所得が1億円を超えると所得税の負担率が下がる。

19年時点では、所得が5000万円超~1億円の層の所得税負担率は27.9%だった。1億円を超えると徐々に下がり、10億円超~20億円だと20.6%、100億円超だと16.2%になる。

見直す手法は税率の一律の引き上げと、金融所得の額に応じて税率に差をつける案が考えられる。財務省内には仮に税率を一律5%引き上げた場合は数千億円の税収増になるとの見方がある。一律の場合、首相が重視する中間層にも影響が及び分配の効果は薄れる。少額投資非課税制度(NISA)などがあり、財務省は個人投資家には影響が出にくいとみる。~~

私は初めて聞いた言葉で、タイトルだけを見ても何のことかまったく想像できませんでしたが、所得が1億円を超えると実質的に負担している税率が下がり始める事象を意味するようです。その意味では、「1億円の壁」というより、「1億円の山」と呼ぶほうが的確ではないかと、個人的には思いますが。

中身を理解すると、「税負担率が下がる」と言っても、所得が1億円を超える人が税制度で優遇されるなどになっているわけではないことがわかります。適用される制度は所得1億円以下の人も同じです。単に、20%の課税率である金融所得をたくさん得ているために、所得全体に占めるその割合が高くなり、トータルでの負担率が20%に寄っている結果だということです。

このことについては、3つの視点で考えるべきだと思います。
ひとつは、率と額の両方を認識することです。

1億円を超えると、その人が納めている税金が所得に占める割合は徐々に下がるとしても、納めている税金の絶対額は所得が増えればその分上がり続けます。自ら経営陣として参画するベンチャー企業経営での果実を株式の形で受け取ったり、給与所得の一部を株式投資に充ててさらに所得を増やしたりすることで所得が増えれば、その分税金を払います。結果的に払う税金は、経済活性化・社会貢献の表れだとも言えます。

例えば、給与所得8000万円をすべて貯金に回し税率55%の税金を払っている人と、給与所得8000万円の一部を企業に投資してトータルの所得を2億円にしトータルの税率30%の人と(数字の設定は適当です)、どちらがより社会貢献しているかは一目瞭然でしょう。

前回「アンコンシャスバイアス」について取り上げました。上記のような記事を表面的に見ると、私たちは「富裕層は優遇されている」と直感しがちです。そうだとすると、アンコンシャスバイアスにはまってしまっているかもしれません。

2つめは、市場への影響です。
過去民主党政権時の2010年に、上場株式の売却益などの税率が10%から20%へ引き上げられました。この直後の引き上げ当初1カ月間で、日経平均株価が1万6000円台から一時的に1万4000円を割るまで下落したことがあります。これについて冒頭の記事では、税率の引き上げが一因になったと指摘しています。

私自身もこれに当てはまるものがあります。2000年代半ばまでは、わりと株式投資に熱中して取り組んでいましたが、今では一部の保有株を持ち続けているのを除いて個別株への投資をほとんどしていません。やらなくなるきっかけのひとつとなったのが、この税率引き上げでした(それだけではありませんが)。今回引き上げられれば、市場に対して相応の影響はあるだろうと想定されます。

一方で、欧米や中国などの他国も、今は「分配」がキーワードになっているようです。分配が社会全体の潮流ということも考慮しながら、今後政策検討されるのでしょう。

3つめについては、次回以降のコラムで取り上げてみます。

<まとめ>
1億円の壁とは、行動の違いが結果的な事象となって現れたことである。


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