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日本人社員の熱意のなさはどの程度なの(3)

前回までの投稿で、ギャラップ社調査のエンゲージメント指数やパーソル総合研究所の「働く10,000人の就業・成長定点調査」結果をテーマにしました。1.回答内容が、実態を的確に表していそうか、2.質問項目の構成要素が何か、3.経年変化はどのような傾向にあるか、4.比較対象の相手はだれ(どこ)か、をポイントに挙げながら、日本人社員の仕事への熱意について考察しました。その続きです。

5.総合的な観点から、発展的な流れと言えるか、そうでないか

あるテーマに関連し、よくなったこと、新たに出てきた課題など、個別要素としてはいろいろあるものです。そのうえで、10年・20年・30年といった中長期的な時間軸で見た時に、総合的な判断として当該テーマに関するあらゆることがトータルとして発展的な流れになっているかどうかです。言い換えると、メリットの合計がデメリットの合計を上回るか下回るか、ということです。

これまでに見てきたような疑問点はあるものの、「24時間戦えますか」のキャッチフレーズで栄養ドリンクのCMをやっていた昭和時代のほうが、やはり今より社員の仕事への熱意が高かったのではないかという想像もできます。だとすると、生産性の低下にもつながるはずの熱意の停滞は、この数十年間の人材マネジメント・職場環境の有り様が変わったことによるデメリットと言えそうです。

他方で、その昭和時代には、今では薄れてきた下記のようなことなどが前提となっていました。

・会社組織内は、同質化された属性の人材で固められていた。新卒、男性、終身雇用、時間も場所の無限定で会社の指揮命令下で働く。子育て中の女性人材などは入り込む余地がない。親族の介護が必要になった者などもい続けることができない。

・当時はハラスメントという概念がなかったため社会問題化しにくく、統計にも表れていなかったであろうが、実数で言うとおそらく今以上の各種ハラスメントが発生し、日常茶飯事であった。

・副業・複業・育休やテレワークなど、今では広がってきている多様な働き方が選べる余地がなかった。人事ローテーションも硬直的で、キャリアが会社任せになる面が今より色濃かった。

実質的にどの程度なのかはわかりませんが、仮に社員の熱意が減退しているとして、その減退のデメリットは、上記などの問題が改善されてきたことによる、多様な人材活躍の可能性と創造性の広がり、コンプライアンスの進展などのメリットを打ち消すほどの度合いなのでしょうか。このことについて、現時点の私は明確な解を持ち得ていません。そのうえで、人材マネジメント・職場環境の有り様の変化について、熱意以外のデメリット要素も洗い出して、総合的・俯瞰的に見るべきだと言うことはできると思います。

なお、前々回に次のような問いかけをしていました。

「熱意を持って働いているか?」に関連する質問項目について、日本人は全体的に控えめに回答している可能性があるのではないか

パーソル総合研究所の「APAC就業実態・成長意識調査(2019年)」結果をいろいろみていくうちに、このことに通じるかもしれない発見がありました。次の通りです。

https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/apac_2019.html

各質問項目に対する、「全くその通りだ」「かなりその通りだ」「ややその通りだ」のスコアの合算値

日本

1位:上層部の決定にはとりあえず従うという雰囲気がある80.2%

2位:自分勝手に仕事を進める人よりも、和を重視する人のほうが評価される75.8%

3位:社内では波風を立てないことが何よりも重要とされる71.5%

4位:仕事のプロセスよりも、最終的な結果が重視される71.0%

5位:時間をかけて検討することよりも、タイミングやスピードが重視される69.5%

6位:努力しても、結果を出せないと評価されない68.0%

7位:利益と同じくらい「社会的な責任」が重視されている67.7%

8位:上司でも部下でも、分け隔てなく仲が良い67.6%

9位:定年まで雇用されることが前提になっている65.0%

10位:年齢・勤続年数で給与・待遇が決められている62.2%

中国

1位:自分勝手に仕事を進める人よりも、和を重視する人のほうが評価される96.0%

2位:チームとしてひとつにまとまっている93.8%

3位:上層部の決定にはとりあえず従うという雰囲気がある93.6%

4位:メンバー間の競争に勝つことが、評価の対象になる92.5%

5位:一致団結して目標に向かっていく雰囲気がある92.5%

6位:利益と同じくらい「社会的な責任」が重視されている92.2%

7位:過去の慣習・既存のルールにとらわれることなく、柔軟に考えることが推奨されている 91.7%

8位:多少粗くても、迅速な意思決定が尊重される上司でも部下でも、分け隔てなく仲が良い91.7%

9位:目先の成果よりも、長期的成果の追求を重視するところがある90.7%

10位:独自性・創造性に富んだ意見・考えを持つことが求められる90.7%

各文化圏によって当てはまることが違うのだなと改めて認識できるわけですが、注目すべきはスコアの高さの違いです。日本は10位が62.2%の一方、中国は90.7%です。そして、他の国の10位も例えば、タイ88.6%、フィリピン89.6%、インドネシア93.8%、ベトナム92.1%、インド90.6%となっています。トップ10までに出てきた要素の「当てはまると思う」スコアが、日本は際立って低いのです。

もちろん、これらのスコアが実態を正確に表している(=当てはまっていると思える度合いが、本当に日本は他国ほど高くない)可能性もあります。一方で実態を正確には表していない(=本当は当てはまっていても、「当てはまっている」と自信をもって言い切れないと感じて、控えめに回答をしている)可能性もあります。私は勝手に後者のほうだろうと思うのですが、気のせいでしょうか。

ちなみに、「チームとしてひとつにまとまっている」が上位10位までに出現しない国は、上記調査結果で日本だけでした。他の国はすべて10位までに入っています(日本は10位圏外なので、何位なのか分かりません)。このことと、日本の組織の1人当たり生産性が伸びないということと、もしかしたら関係があるかもしれないですね。

今「ジョブ型」や「リモートワーク」が流行語となっています。こうした考え方・やり方を自社なりに考え抜いて導入すれば、人材マネジメント上の有力な方法論になり得ます。他方で、中途半端な設計思想で導入すると、ただでさえ高くないチームとしてのまとまりがさらにまとまりないものになってしまい、目も当てられなくなる可能性もあると思います。

働きがいのある会社ランキング(Great Place to Workジャパン調査)で上位ランクとなった企業の紹介セミナーを以前聴講したことが何度かあります。その中には、ほぼフルリモート勤務でランクに上位入賞している企業もあったのですが、例外なく、オンラインツールも駆使したありとあらゆる方法と多くの時間をコミュニケーションに使っている印象でした。

フルリモートという形態に合わせてコミュニケーションを簡略化・効率化するのではなく、フルリモートという形態だからこそコミュニケーションマネジメントに力を入れる。そうしたポリシーに取り組む結果として、同ランキングの上位に入るぐらい仕事に熱意を持てる風土を底上げしていく。私たちが目指したいひとつのモデルではないかと考えます。

以上、計3回にわたって考えてみましたが、

・ひとつの事象を一面的ではなく多面的に評価する

・何かのメリットを追ったときに発生するデメリットに、どう対応するのかを考えて対策を打つ

ことが大切ではないかと、改めて感じた次第です。

<まとめ>

ある事象に対して、一面的ではなく多面的に評価する

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