地方でのインバウンド消費を考える
4月23日の日経新聞で、「訪日消費、地方の出番 山形、コロナ前の3倍 温泉やゴルフ人気」というタイトルの記事が掲載されました。訪日旅行時に、都市圏が中心となっていた目的地が、地方に広がっていることが伺えます。
同記事の一部を抜粋してみます。
ゴルフについては、以前取り上げたことがあります。「かつては、海外でゴルフをすれば日本人にとって格安と言われたが、今後は逆に「日本でのゴルフは割安」という認識が進みやすい。世界のヘルスツーリズム市場も高い伸びが続くため、日本で整備の行き届いたゴルフ場のツアーなどを外国人向けに組むと、有望かもしれない」という内容でした。
今後も、地方のインバウンド消費は追い風が続くと予想されます。ひとつは、外国人旅行者にとって、訪日の費用が割安になるためです。
シンガポール統計局によると、2022年の月間世帯収入(中央値)は1万99シンガポールドル(約101万円)と前の年を6.1%上回り、初めて1万の大台に乗ったそうです(4月22日日経新聞)。世帯収入は過去10年で33%、20年で120%増えています。20年前は日本より低かった世帯収入が、今では日本を上回っていることが分かります。シンプルに、シンガポール国内旅行より日本への旅行のほうが、(航空券代を除けば)安いということです。
シンガポールの世帯収入の伸び方は、特別な状況による結果ではなくて、世界標準の動きです。日本の賃上げがこのような他国を上回る水準で可能になるのは簡単ではありません。少なくとも当面の間は、他国と日本で収入面の差が開く、あるいは新たに逆転するということが起こっていくと想定されます。日本への渡航がさらに割安になるため、訪日自体がさらに促される要因となります。
別の要因としては、日本で体験したいことの種類が変わるのではないか、ということです。
私は以前、仕事の関係でアジアを中心とした外国人の方とご一緒する機会が多くありました。その際に、日本国内で旅行したい先を聞いてみると、圧倒的に「東京」が多かった記憶があります。次が有名どころの「京都」でした。日本=経済大国というイメージで、その象徴的な東京を見たいという背景があったと思われます。特に、中国人は東京一色だった印象があります。
私たちが海外旅行をするとして、その国の首都の中心部を見たいでしょうか?旅の好みは人それぞれで、当てはまる人もいると思いますが、当てはまらない人も多いでしょう。その国ならではの歴史や自然などが味わえるような、首都以外のところに行きたいと思う人も多いと思います。
日本は依然として世界でも有数の経済大国ですが、他国と以前ほどの差異はありません。せっかくの訪日機会に見たいものとしては、経済力を象徴するような現在的・人工的な施設や商品・サービスよりも、伝統的・自然な和を生かした体験にシフトしていくのではないかと想像します。
地方には、そうした素材を掘り起こす余地がまだありそうです。同記事のように、その土地ならではの魅力が伝わる工夫をすることで、インバウンドをきっかけに国内旅行者の魅力を呼び起こすことも可能かもしれません。
そして、やはり受け入れ体制の確保です。上記記事でも、人手不足やインフラ不足等によって、本来の需要を取り込み切れていない様子が伺えます。雇用の確保と業務プロセスの効率化、例えば下火になっている民泊の活用など、インバウンドを受け入れるインフラ面での整備も必要だと思います。
<まとめ>
訪日客にとっての魅力がより明確な地方でのインバウンド消費が進む。
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