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精緻な社員評価が後押しする最高益

10月29日の日経新聞で、「キーエンス最高益 「精緻な社員評価」強み 成果と行動、公平性を重視」というタイトルの記事が掲載されました。卓越したビジネスモデル、収益性、上場企業でトップを争う水準の給与などで話題になる同社について、人事評価の観点から考察している内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

キーエンスが28日発表した2022年4~9月期の連結決算は、純利益が前年同期比27%増の1806億円と過去最高だった。中国・上海の都市封鎖の影響が和らぎ、工場の省人化に使われるセンサーなどが好調だった。グローバルの生産回復だけでなく、社員の働きを精緻に分析して高額報酬に反映する公平性を追求した評価が強さを支えている。

円安の追い風があったものの、基盤となる収益力は社員の意識の高さが生み出す。22年3月期、単体の平均年間給与は2182万円と国内トップクラスだった。このうち個人のパフォーマンスに基づき年4回支給される賞与の比重が大きい。賞与の仕組みをひもとくと、社員の意識を高める工夫が浮かび上がる。

「収益の実績」「顧客への訪問件数」――営業担当者は様々な項目によりパフォーマンスを総合的に評価される。関係者によると半年に1回、全ての営業担当者は総合評価により順位付けされる。ベースとなる金額に順位を加味して賞与が決まるという。

総合評価は成果とプロセスの両方を見る。特徴は「バランス(公平性)を強く意識して担当の違いにより不利にならないようにする」(コンサルティング会社を経営するOB)点だ。評価項目は営業の最前線を知るエキスパートが決める。

成果の面では「個人ごとの利益の目標達成率」などを評価するもようだ。しかし設備投資意欲の旺盛な大企業の担当者と、投資に慎重な中小企業の担当者では成果の上げやすさに差が出てしまう。このため「利益の伸び率」も重視する。受注金額が小さい中小企業の担当者でも、伸び率では大企業の担当者を上回れる可能性があるからだ。

プロセスの面では顧客への電話件数や直接訪問の数、キーマンにどれだけアクセスしたか、商品のデモンストレーションをしたかといった行動をデータ化して定量的に評価する。担当者が扱う製品ごとに重視するデータは違う。公平性を確保するためだ。

例えば需要の多い小型センサーは新規顧客を開拓しやすい。担当者は顧客への電話や直接訪問の件数などを評価される。一方、顕微鏡などは高額で頻繁に売れる製品ではない。デモンストレーションの数、キーマンへのアクセスなどを評価されるという。

OBらによると、総合評価における成果とプロセスの比重はおおむね6対4とされる。本社で勤務する社員らも含め全社的に成果とプロセスが評価される。

個人の成果を重視する企業は多い。しかし一部の人が成果をあげて評価を高めるために情報やノウハウを囲い込んでしまうと会社全体の成長につながらない。キーエンスは情報の共有も評価の対象にしている。

賞与とは別に毎月の「業績賞与」がある。連結営業利益の一定割合が原資となり、会社全体のパフォーマンスを高める意識付けの意味がある。あるOBは「会社全体の業績がいいと業績賞与で月々の給与が引き上げられて連帯感が生まれやすい」と話す。

28日の会見で中田社長は「頑張っている者を頑張っていると認める。当たり前のことをやっていくとチームとしてより強くしようと思いを持ってくれる社員が増える。常に本質的であることが大切だ」と述べた。~~

(内情は存じ上げず記事内容だけによる印象ですが)概観してみて、事業戦略だけではなく、人事戦略とそれに基づいた人事評価の取り組みがしっかりなされている、それがあっての高収益、という印象を受けます。

成果にこだわっている会社というイメージから、財務的な業績部分しか評価対象にしないのでは?という勝手な偏見をもつと実態とはまったく違ってしまうようで、成果を生むためのプロセスや組織活動なども評価対象としていることが伺えます(成果にこだわった結果そうなっているのかもしれません)。

転職された方に「前の会社ではどのような評価制度でしたか?」とお聞きしても、「何かあったはずだけど忘れた」というような回答が多いものです。(記事中のOBのコメントが、全OB数のうちどれぐらいの割合で得られることなのか存じませんが)記事中のコメントが得られることからして、納得感が高くパフォーマンスを上げるうえで機能する制度になっているのだろうと、推察されます。

同記事から感じたことを2点まとめてみます。ひとつは、評価に魔法はないということです。

私たちが仕事(に限らず)で成果を上げる流れは、「考え方・意欲・能力→行動→成果」で表すことができます。行動しない限り成果は上がりません。また、やみくもに行動しさえすればよいというわけではなく、適切な考え方をもち、高い意欲で知識・スキルを身につけながら行動することで、成果につながる行動となります。ひたすら知識を身につけても行動しなければ何にもなりません。

上記のどれをどのようなウェイトで対象とするのかを決めて、評価項目や評価ルールを決めるのが、評価制度の設計です。

上記はどれも大切ですので、王道としては満遍なく評価対象とすることです。そのうえで、「うちは成果主義だから成果のみを対象にする」「うちは技術屋集団として評価は能力要素に重点を置く」などの判断が出てきます。

(さらなる細かい要素分解や別のまとめ方はあると思いますが)基本的に上記以外の方法はありません。キーエンスの例だと、成果6割、行動4割ということでしょう。(考え方・意欲・能力なども評価対象にしているのかもしれませんが)

「この方法なら評価問題は一気に解決」のような魔法はない前提で、上記のどの部分(何)をなぜ評価対象としたいのかを考えていくことが必要です。

もうひとつは、評価項目・指標など評価のルール(どのように)を、置かれた環境や人に合わせて調整するということです。キーエンスの例も、一律の評価項目・指標を全員に当てはめているのではなく、場所によって、担当している業務によって、適切であろうと考える評価項目・指標に変えているのが分かります。

「今のうちの部署は、こういう環境で、求められている組織の成果はこれで、その中であなたに今期期待されている成果・行動はこれで、だからこの指標で評価するのが妥当で・・」といったことを評価する側・される側が理解を深めながらすりあわせしていくのが、本来の目標管理なのだと思います。

これと逆でありがちなのは、一律のフォームやルールに沿って運用しようとした結果、無理やりな目標設定になってしまって納得感のないものになってしまう、などです。

考えられた設計・運用によって、評価に納得感をもたせながらパフォーマンスを後押しする。そのような評価制度の好例ではないかと、同記事から感じた次第です。

<まとめ>
何をなぜどのように評価するのかを、環境に応じて考える。

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