見出し画像

「差別化戦略」はおかしい?

先日、E&K Associates代表の長谷川様、TSB-ProjectのGavi様と私の3人でお会いする機会がありました。オープンイノベーションをテーマにした会食でした。オープンイノベーションについて、言葉としては知っているものの、これまであまり具体的なイメージがもてていませんでしたが、少しイメージができるようになるきっかけとなりました。

weblio辞書では、オープンイノベーションについて次のように説明されています。

新技術・新製品の開発に際して、組織の枠組みを越え、広く知識・技術の結集を図ること。一例として、産学官連携プロジェクトや異業種交流プロジェクト、大企業とベンチャー企業による共同研究などが挙げられる。

ひとつの企業や組織の中のみで方針を立てて実行することの限界が叫ばれ、組織外のリソース(資源)とこれまで以上に協業していく必要があるのは、よく言われている通りだと思います。そして、国外の企業のほうが、その動きが進んでいるとも言われています。

お二方は、そうした環境の中で、アートをテーマにしたオープンイノベーションの普及に取り組まれています。例えば、アート思考によるイノベーション人材育成講座の実施などです。音楽や絵画などのアーティストから企業人が学んだりする場づくりなどのイメージです。

アート思考と言えば、ベストセラーとなった「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?~経営における「アート」と「サイエンス」」の書籍(山口 周氏著)でも話題になりました。

実は、ユニコーン企業(創業からの年数が浅く、企業価値評価額が10億ドル以上の未上場ベンチャー企業)のうち、約20%が芸術系の教育を受けた創業者の企業なのだそうです。YouTubeやAirbnbなどもそうだったと聞きます。

アート思考は、斬新なコンセプトを創出する思考法で、今の日本企業に最も必要なエッセンスであろうと、お二方は言います。iPhoneで飛躍したアップル社をイメージすると、うなずけるものがあります。

当日はいろいろとお話したのですが、印象に残ったことをここでは2点挙げてみます。ひとつは、「差別化戦略」という言葉や概念はおかしいのではないか、というお二方の示唆です。

「差別化」と言うからには、基準が存在する。他社製品、業界で不文律とされている慣習、社会標準とされているやり方などである。そういった基準と比較して、何かの差異を明確にしようとするのが差別化。しかし、そもそも基準と比較する必要はない。自分たちが追求したいミッション、生み出したい世界観を形にする過程では、これまでの基準は必要なく、むしろ邪魔になる。 というわけです。

確かに、iPhoneの企画・設計を進めるのに、従来型携帯電話との比較などがなされていたとは思えません。私たちはともすれば、企業戦略、事業戦略、事業環境分析などで、競合企業の現状・動向を今後の方針策定をまとめていくうえでの基軸にすることがあります。競合企業の動向の把握は重要なのですが、「それを基準としていかに差別化を図るか」では、本質的な戦略に至ることはないのでしょう。

もうひとつは、「否定しない」ということです。

当日は3者の考える意見や思い付きの空想などいろいろな話が飛び交ったのですが、お二方の姿勢は一貫して「だれかが言った意見や思い付きを否定しない」「まず聞く」「そうですね/面白いですねなどから反応する」でした。この姿勢は、アート思考を経営や事業構想に取り入れるためには、不可欠なのだろうと思います。何かのアイデアが、周囲にいるメンバーから直ちに否定的な反応を受けてしまうと、そこで終わってしまうからです。

戦後からこれまでは、既に存在している問題をいかに解決できるか、的確な解決策を定義し実行できるかが競争力の源泉でした。しかし、今の日本社会では、既に存在している問題は減ってきています。問題を新たに生み出す取り組みが必要と言われています。すなわち、だれも想像しなかったスマートフォンという商品を具現化して世に問いかけ、「あれが欲しい」「あれを持っていない自分は問題」といったように、新しい問題をつくり出すことです。

このことは、物としての商品・サービスに限らず、私たちの行動やあり方も同様です。例えば、コロナ禍の発生で強制的にテレワークという形態が普及しましたが、そうした危機的状況が発生せずとも、テレワークという新たなあり方を発想し、実用化できるのが理想的だと言えます。そのためには、私たちの活動プロセスの中に、アート思考を日常的に取り入れることが有効なのでしょう。

すべてのアイデアが実際に取り組む計画にまで至るとは限らず、具現化されるとは限りません。また、具現化されても成功するとは限りません。そのうえで、新たな問題を問いかけてみる試みは大切、そのタネになるかもしれないアイデアを尊重するべきだということだと思います。「前例主義」などは、この対極になってしまうと言えるでしょう。

昨今話題の「心理的安全性」と聞くと、仰々しい感じがします。要は、他者の発言に対してまず「そうですか」「そうですね」「いいですね」など、肯定的に聞く。シンプルにそれを意識して実行するだけでも、心理的安全性問題の多くは解決するのかもしれません。

アート思考のテーマについては、今後も継続的にかかわっていきたいと思います。

<まとめ>
新しい問題をつくり出そうとすると、自ずと「他を基準とした差別化」という概念とは無縁となる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?