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外国人社員の退職

先日ある経営者様から、自社で雇用していた外国人社員Aさんが退職したというお話を聞きました。突然「辞めたい」と本人から申し出があったのだそうです。

Aさんはアジアの国の出身です。入社3か月目の社員で、その頑張りが周囲にも認められていて評判も良かっただけに、同経営者様もショックだったと言います。朝の清掃の時間に何の前触れもなく申し出があったそうです。

当然、同経営者様が話を聞き慰留しようとしました。退職の理由は、「もっとお金が欲しい」。この1点だけだったそうです。給与以外の仕事内容も人間関係も指導方法も、何も不満はなかったと言います。Aさんの雇用契約内容から、研修期間中である入社3か月目は予定されている月例給がまだ満額支給されません。研修期間が終わったらもっと支給額が増えるという説明をしたものの、「手取りで○万円ほしい」という反応だったそうです。○万円という金額は、同社様が拠点を置く地域の同業界では、新人にはありえない高額な金額です。

それは他社でもありえないという説明をしたところ、「△地域に行くと○万円もらえる仕事があるという話を聞いた。知人のツテでそこに行く。」といって聞かなかったそうです。その仕事はAさんの専門はまるで活かせそうにない話でしたが、特に気にもしていなかったそうです。

Aさんが日本で実習していた学校の教師にも連絡したところ、同教師も驚いて慰留しました。しかし、結果は変わらなかったようです。同経営者様も、話を続けるうちに自社とは分かり合えないと感じ始めて、そのまま退職してもらったという次第です。

この事例は、外国人社員を雇用する際の留意点について示唆していると思います。まず、本人が正しい情報に基づく認識で来日しているのかどうかが重要だということです。

仕事を求めて来日する外国人人材の中には、待遇面でまったく違う説明を聞き、多額の手数料を借金で払って来日するケースがあります。日本に来た後で受け取る手取り額が聞いていた説明と異なり、「これでは借金を返すことも、家族に渡すこともできない」というトラブルが起きることがあります。

Aさんがこれに当てはまるのかどうかは分かりませんが、同社様に雇用される意志をもっていたわけですので、少なくとも実際の支給額が期待していた手取り額より少なかったのは確かでしょう。間に仲介者などが入ると雇用者と被雇用者の情報ギャップはどうしても発生してしまうかもしれませんが、事前に極力その差を埋め、正しい認識で来日してもらうようにする必要があるということです。

次に、相手の内面をよく知る必要があるということです。内面とは、入社動機と仕事を通して求めていることです。

「モチベーション3.0」(ダニエル・ピンク氏著)には、モチベーションについて次のような説明があります。

~~〈モチベーション1・0〉は、人間は生物的な存在なので生存のために行動する、とみなした。〈モチベーション2・0〉は、人には報酬と処罰が効果的だとみなした。現在必要とされているアップグレード版の〈モチベーション3・0〉は、人間には、学びたい、創造し たい、世界をよくしたいという第三の動機づけもある、とみなしている。~~

そして、歴史的な時間軸の中で、長らくモチベーション2・0を基軸としたマネジメントが有効であったが、次第に通用しなくなっている。今求められているのはモチベーション3・0を基軸としたマネジメントだというわけです。私たちの身の回りの事業活動や、周囲の人が何に動機づけられているのかを考えてみると、この点についてはうなずけるものがあります。

しかし、私たちはある前提に立たなければならないと思います。それは、アジアから来日する人材の多くは、外発的動機づけである金銭的報酬が重要であり、それが来日の動機の多くの部分を占めているということです。

上記のモチベーション3・0も、金銭的報酬が基本的なレベルに達し、不公平感がない状態が確保されてはじめて論点となる要素です。同書にも、モチベーション2・0がまったく無力になったわけではなく、状況によって今でも成立しえる無視できないものとあります。

出身地で得られる仕事では、本人が基本的なレベルと考える報酬が実現できないため、それが実現できる環境だと聞いて来日を希望する。来日したものの、事前に聞いていた手取り額とは異なる。こうした状況が解消されて、金銭的報酬に対する最低限の不安感がとれない限り、経営理念の理解だの仕事のやりがいだの3・0を振りかざしても、本人にとっては絵空事でしょう。

同経営者様も「相手をよく知る必要があるということを学んだ。お金が欲しいのは当たり前。お金に不満があれば、他に不満がなくてもやめる。それがおかしいではない。」と話していました。

上記のような出来事は、他社でも聞くことがあります。だからといって、外国人やAさんの出身国の人材を、一律で同じ内面の持ち主だと決めつけるのも、的を外しています。背景は人それぞれですし、日本に長く留学して給与事情含めた日本社会への理解も進んだような人材であれば、まったく話は違うかもしれません。

その上で、モチベーションのバージョンがまったく違う人がいるかもしれないということ、他国出身者の場合はその可能性が高まるかもしれないことは、留意していくべきことだと思います。

<まとめ>
モチベーションのバージョンも、人によって異なるかもしれない。


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