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未知の状況を回避する傾向

6月11日の日経新聞で、「IT開発で失敗は不可避」というタイトルの記事が掲載されました。失敗を許容しない体質が要因となって、IT領域での発展を妨げているという示唆です。

同記事の一部を抜粋してみます。

ITの開発において失敗は不可避で、プログラミングに完璧はない。この事実をいかに許容するかがソフトウエア開発、システム開発では重要だが、日本ではこの考え方が浸透しない。

製造業の人が「我々は10年壊れないものを作っている。なぜITでそれができない」と言ったりしているが、そうした考えの人が多いから日本はここまでIT後進国になったのだと思う。日本は潜在能力はあるが、遅れている。海外でも通用するITサービスや製品を生み出せていない。

なぜこうなったかといえば、かなりの部分は「失敗を許容しない体質」にあると思う。失敗を恐れる結果、発達したマインドセットを私は「……してから思考」と呼んでいる。「英語が話せるようになってから留学しよう」といった思考のことだ。このマインドである限り挑戦は先延ばしになり、結果として最も重要なリソースである「時間」が無駄になる。準備が整ってから始めたものは、ともすればすっかり時代遅れになったり、すでに魅力的な製品やサービスが市場で圧倒的なシェアを握っていたりする。

なぜこうなってしまうのか。私の仮説は「マネジメント層が責任を取らないから」だ。もちろん、部下に責任を押し付けたり、自分は関与していないと言い張る上司は世界中どこにでもいる。ただ、日本と違うのは、優秀な人は挑戦できる場所にすぐ移ることだ。

日本でもそうした傾向は生まれているが、まだまだ流動性は低い。さらに言えば、超優秀だった人たちも牙を抜かれ、時間の無駄や挑戦しない文化を受け入れるように最適化されてしまっている。間違いなく潜在能力はある。とにかく挑戦すればいい。そのためには「邪魔するマネジメント」を徹底的に排除する必要があると思っている。

もちろん、分野やプロジェクトによっては、失敗が許されず慎重に進めるべき環境や場面があると思います。他方で、失敗を前提にしてよい新規の取り組みなどもあるはずです。同記事は、総じて失敗を許容せず時間資源を有効に活かせていないことへの問題提起となっています。

前回の投稿で、ホフステッド指数においての「男性性」の高さから、日本社会の特徴について考えてみました。「男性性」と並んで、「不確実性の回避」も、ギリシャやロシアと共に日本は高スコア(92)となっていて、日本社会の特徴を表していると言えそうです。

不確実性の回避は、「ある文化の成員が不確実な、未知の状況に対して不安を感じ、それを避けるために信仰や制度を形成している程度」と説明されています。端的には、不確実なこと、曖昧なことから、不安やストレスを感じやすい度合いの高さと言えます。

ホフステード・インサイツ・ジャパン株式会社のサイトでは、不確実性の回避度が高い国と低い国について、次のように説明しています。

<不確実性の回避度が高い国の特徴>
・人生に絶えずつきまとう不確実性が脅威です。それを取り除くために形式、ルール、規則が必要とされ、構造化された環境を求めます。
・ストレスが高く、不安感があります。
・トップマネジメントは日々のオペレーションにフォーカスします。
・医師や弁護士など、「その道のプロ」である専門家を信頼する傾向があります。
・学生は「正しい答え」を求め、教師が全ての回答を示すことを期待します。

<不確実性の回避度が低い国の特徴>
・人生とは不確実なもの、不確実なことが自然。ルールや形式、構造にはこだわりません。
・ストレスも低く不安感もそれほどありません。
・専門家や学者より、常識や実務家を信頼する傾向があります。
・学生は学習のプロセス(自由で良いディスカッションの場)を求め、教師が「わからない」と答えても気にしません。

不確実性の回避度が低い国上位3つは、シンガポール、デンマーク、スウェーデンとなっています。他に、ベトナム、中国、イギリス、インド、米国などもスコアが低く出ています。VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)と言われる昨今の社会環境で、比較的経済成長していると言われるエリアは、不確実性の回避度が低い国になっている印象を受けます。

日本は回避度が高い国の筆頭です。例えば、リスクが相当に低いと確認できるまで新たな取り組みにゴーサインを出しづらい、変動性のある投資より手堅い現預金貯蓄を好む、といった、日本全体の傾向として言われていることについても、その背景としてこのスコアを見るとうなずけるものがあります。

しかし、「不確実性の回避度が高いから」と言って、そのまま手をこまねいているわけにもいきません。回避度が高いことを所与の土台と認識したうえで、自組織ではどんなことに取り組んでいくのかの視点が大切だと考えます。

論理的な分析や考察結果だけをもってして、「本件ではやらないリスクよりやるリスクをとるべきだ」などの正論で説明することで、メンバーが前に進もうとする文化の組織と、それだけではうまくいかない文化の組織とがあります。そして、上記スコアの結果を手がかりにすると、日本全体では後者のほうが多そうです。

そうした背景で、失敗を許容し新事業に果敢にチャレンジする組織文化をつくろうとするならば、メンバーに対して「失敗を許容する意義」を根気強く長期的に働きかけていき、マネジメント層が率先して失敗を許容しながらリスクをとる行動を実際に実践していくことが必要ではないかと思われます。

<まとめ>
不確実性の回避の高さが、日本社会の全般的な傾向を認識する一助となりそう。

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