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職場を変えるのはやりきってから

先日、知人Aさんの自分史グラフ(ライフラインチャート)を聞く機会がありました。私では経験したことがないような、ある業界の現場の実情や壮絶な葛藤、生き馬の目を抜くような活動のお話がとても印象的でした。

自分史グラフでは、各年齢で印象に残っていたりその後の自分に大きな影響を与えたと思っていたりする出来事や日常を、書き出していきます。そして、その出来事があった年の充実度の高さやモチベーションの高さをプラスかマイナスで指標化し、グラフを作ります。他者理解の有効な方法であり、キャリアコンサルティングの場面などでよく使われる方法でもあります。

Aさんは5社以上転職し、各職場で様々な経験をされていました。その時の職場や仕事によってプラスマイナスが大きく入れ替わる、起伏に富むグラフでした。そのグラフを見て気づいたことが3つありました。

1.充実度の高さと職能の開発度合いの高さは、イコールとは限らない
私たちの自然な感覚では、心で感じる仕事・キャリアの充実度が高いほど、自分がなりたい自分に向けて成長し能力開発できているイメージだと思います。しかし、Aさんのお話では、「この頃のこの職場で○○の仕事をしていた時は、充実感がまったくなかった」と言いながらも、その時期に今の強みにつながる重要な職能開発をしている経験に溢れているように感じました。

例えば、寝耳に水の人事異動で、想像していなかった部署に配属になった。その部署で担当したのは、なるべく近づきたくないような人とコミュニケーションをとらなければならない仕事で、楽しめなかった。このようなお話でしたが、Aさんが現在自身の強みとして自負しているハードネゴシエーションのスキル・マインド形成には、この時の経験が大きく影響しているように感じられたわけです。

自分が今の職場や仕事にどれぐらい満足しているかと、将来自分の武器になり得るスキル・マインドがどれだけ開発できているかは、必ずしも一致しているとは限らないということでしょう。

2.年収の高さと充実度の高さは、イコールとは限らない
Aさんの年収が最も高かった時は、充実度が最低レベルで低い状態となっていました。金銭的報酬から得る満足感は一時的な効果しかない、給与は働きがいにはならない、というのはよく言われていますが、まさにそれが当てはまっている自分史グラフでした。

給与が極端に低く、外部公平性と内部公平性の観点から疑問を感じたままだと、仕事に没頭できるエネルギーを削がれてしまいます。しかし、中長期的な仕事への満足度を考えるなら、給与ありきで仕事を選ぶのはやはり注意が必要、という事例のひとつだと感じました。

3.やりきってから職場を変える
Aさんは転職回数が多い人です。自称ジョブホッパーですが、何かをやりきって形にしてから職場を変えるということを徹底している印象です。例えば、今の職場をやめて転職する前に、自身と同じ仕事を担当している全国の支店メンバーの中で営業成績トップ3に入る、赤字事業の再建をやりきって黒字化する、などです。

「自分に合わない」「自分の目指すキャリアにプラスになると思えない」会社や仕事の場合、我慢し続ければよいのか、早期に見切って転職したほうがよいのかは、なかなか難しいテーマです。どう見ても社会的にブラックな企業や、自分を再建不可能な状態に追い込んでしまう職場であれば、すぐに逃げ出すべきです。我慢し続ければよいとは限りません。そのうえで、思わぬ経験を蓄積することが自分の強みを伸ばしてくれたり、自分でも予想しなかった能力を引き出してくれたりすることもあります。

Aさんも、社会人初期のころに思い描いていたキャリアとはまったく違うキャリアを歩んで今に至っているようですが、今ではその中で得た強み資産を活かしてキャリア開発を爆走中です。まさに「キャリアの8割は偶発的な要素によって決まる」という計画的偶発性理論の体現者だと感じます。

このAさんの計画的偶発性は、一見不本意な仕事でありながらも何かの活路を見出して、成果を上げるところまでやりきっているからこそだと思います。成果が出るまでの途中で投げ出していたら、次のよい偶然は起こらなかったでしょう。目の前のことに集中することの大切さを教えてもらった気がします。

以上、被験者1の考察ですが、上記の3点は多くの人にも同様に当てはまることではないかと思います。キャリア開発の視点として、参考にできる内容ではないでしょうか。

<まとめ>
近視眼的な充実度や心地よさで、職場や仕事の是非を判断しない。


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