若手人材の成長実感を、「質的負荷」の観点で考える
5月2日の日経新聞で「若手伸ばす「育て方改革」 「俺についてこい」→「自ら育つ」環境整備へ 社内外から刺激、成長促す」というタイトルの記事が掲載されました。
5月病という言葉もありますが、5月、8月、1月は、人事担当の方が新入社員に対して特に気を揉むタイミングだと聞きます。理由は、大きな連休が明けた後、職場に戻ってくるかどうかが気がかりだからです。今週は、まさにそのタイミングでもあります。
同記事の一部を抜粋してみます。
上記では、関係負荷の上昇が成長実感の低下につながるようになったと指摘しています。さらに、ハラスメントに敏感になったこと、キャリアの自律性から上司らと距離感をとるようになったことが、その要因として挙げられています。背景には、雇用を取り巻く環境の変化が想定できそうです。
以前は、長い期間をかけて会社組織の中でキャリアを積み、そのキャリアを組織内にて発揮し続けていくことを前提とした仕事の考え方も多く見られました。それによってキャリアや処遇面で将来的に得られることへの期待も大きかったわけです。
しかし、環境変化もより早くなり、事業の存続やM&Aなども含めた組織の改廃、人材流動化の促進などによって、以前ほど安定した期待を見出しにくくなったのは周知のとおりです。そうした環境変化の中では、従業員としては無条件に関係負荷に耐えようという意志が保ちにくくなるのは自然な流れです。
指導する側にそのつもりがなくても、指導を受ける若手社員が指導者による叱咤などに身の危険を感じてしまった場合は、その場に居続けたいと思えなくなります。早く別の環境に移ってキャリアを再構築する行動をとろうと思いますし、そう思いやすくなる環境になっているというわけです。
特に21年卒以降の人材は、コロナ禍によって学校やその他での対面活動も大きく制約を受けた人たちです。組織内での関係負荷に対して、従来以上にコミュニケーション対応に不慣れな一面をもちあわせているかもしれないと想定するのが、妥当ではないかと考えられます。
では、このテーマにどのように向き合うべきなのか。ここでは2点考えてみます。ひとつは、上記記事が指摘する「質的負荷」を関係負荷と関連付けてとらえることです。
上記記事は、若手世代が一様に負荷を回避しようとするわけでもないことを示唆しています。新しく覚えることが多い、自分の業務が難しいといった「質的負荷」の高さは、成長実感に変えることができているとあります。「この上司や先輩からは学ぶべき点が多く発見が多い」、あるいは、「自分の難しい業務を支援してくれる存在」のように認識されれば、厳しい指導や叱咤も的確に受けとめることができるかもしれません。(もちろん、だからと言ってハラスメントが許されるわけではありませんが)
逆に、「この上司や先輩からは学ぶべきものが見当たらない」、「自分の難しい業務を支援してくれない」のような存在で、上から目線の厳しい指示命令だけ、のようだと、若手人材にとってはそれを成長実感に変えていける環境的な根拠が何もない、ということだと思います。
もうひとつは、関係負荷の分散の視点です。
同記事からさらに一部抜粋してみます。
上司や先輩が若手人材の育成を放棄するのは論外ですが、一方で、所属部署の上司や先輩が若手人材の育成すべてを担うのも無理があります。所属部署の上司や先輩がすべてを抱え込んでうまくいくのは、環境変化が緩やかでビジネスモデルが長期にわたって安定し、組織内外での人材入れ替わりがあまりない状況下においてでしょう。そのような状況が当てはまる組織は、少数派のはずです。
また、いろいろな方面での関係性をもつ経験ができれば、上司や先輩との関係負荷についても多角的な視点から再評価する余地も広がるはずです。「あのときのあの指導は、こういうことだったのか」と、当事者だけとの関係性の中では気づかない視点ももてるようになるかもしれません。
視野を広げることで、所属している会社組織や今担当している業務、これから担当する可能性のありそうな業務などへの意義を認識し続けることができれば、それらの中から「質的負荷」を積極的に見出すことにもつながるのではないでしょうか。
同記事では、次のような説明もされています。若手人材への向き合い方で、認識しておきたい視点だと思います。
<まとめ>
新しく覚えることが多い、自分の業務が難しいといった「質的負荷」が若手人材の成長実感の高まりにつながるという点は、変わっていない。