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ベトナム渡航で感じたこと(2)

前回は、年末年始のベトナム渡航をテーマにしました。以前の渡航時と印象が変わった点として、配車タクシーの普及の例を取り上げました。

他に変化を感じる点として、例えば、街がきれいになっている気がすることです。「以前に比べて街のゴミが減っているように感じるが?」と現地の人に聞いてみたところ、「そうかもしれない。観光ビジネス強化で美観には気をつかうようになった」という反応でした。インバウンド引きつけは、どこの国にとっても課題なのだと思います。

他にも、車の比重が高まったことが挙げられます。

多くの人にとって、依然としてバイクが主な移動手段ですが、道を往来する乗り物のうち4輪の乗用車が占める割合が年々高くなっています。経済成長によって、乗用車の所有者が増えていることによるものでしょう。以前は見かけることのなかった、ベトナムのビングループによる国産車メーカービンファストの車(と思われる)も見かけます。

「ストラテ」サイトを参照すると、ビンファストについて次のように紹介されています(一部抜粋)。

・ビングループの莫大な資金力を背景としたスタートダッシュを成功させ、創業してから5年しかたっていないにもかかわらずベトナム国内での販売台数とシェアを急速に伸ばし、早くも東南アジアトップの自動車メーカーに上り詰めている。

・2018年にはイタリア最大のカロッツェリア(自動車の車体デザイン業者)である「ピニンファリーナ」とモデル生産契約を締結し、BMWから獲得した知的財産権をベースに車体開発を開始。拠点となるハイフォン市に355ヘクタールに及ぶ生産ラインを確保。

・2021年のベトナム国内の販売台数は35,723台で、前年比21%増(2020年は29,485台)。シェアは8.7%で、前年度の7.5%から1.2%の増加。2025年までに年間生産台数50万台という目標。現在でもすでに自動車で25万台、電動スクーターで50万台の年間生産力を有する。

・新たなターゲットとしているのがアメリカ市場。2021年に行われたロサンゼルスオートショーに出展し注目を集めたかと思うと、翌年には2400億円を投資してノースカロライナ州に電気自動車(EV)を生産する工場を建設することを表明。年間15万台の生産を見込む規模で、2024年7月からの稼働を目標。車体デザインはヨーロッパの有名デザイナーを起用し、エンジンはヨーロッパやアメリカの一流どころからOEMを受けるビンファストの車は欧米人にも受け入れやすく、今後は東南アジアだけでなく欧米でも存在感を増していくことが予想される。

・安全性も高く、2019年に行われた「ASEAN NCAP(東南アジア新車評価プログラム)」の衝突実験では、正面衝撃側面衝撃など様々な項目で高得点を獲得し、最高評価である5つ星評価を受けている。

前回、既存インフラが脆弱だったために、スマホという新たなインフラが急速に普及した例を考えました。公共交通機関が脆弱、4輪車が普及していない状況下であるがゆえに、「ガソリン車」のフェーズを飛び越して、4輪車の普及と合わせて「国産車・EV」(あるいは空飛ぶ車)に一足飛びに遷移する可能性もありえるかもしれません。

ビンファストは安全性も高いようで、私たちがイメージしがちな、以前のアジアメーカーによる自動車と異なる存在であることが想像できます。自動車市場が、絶対王者の大手メーカーによる閉じられた市場でないことは、テスラが既に証明済みですが、アジアからも有力プレイヤーが今後出てくる流れが続きそうです。

変化を感じる点として、やはり印象的なのは物価の上昇です。

例えば、以下のような感じでした。(もちろん、物の値段は店の形態によっても異なるわけですが、一例として)

・フォー(ベトナムのうどんのような食べ物):300~500円程度
・コーヒー(店での飲食):100~200円
・ビール:200~300円
・やや高級なレストランで10人の会食:40,000円
・スティックコーヒー1箱18本入り(家庭用):250円
・タクシー:10分程度の移動で300~500円程度
・全身マッサージ:90分で約3,000円

6年前の渡航時に比べて、ざっくり物価が1.5~2倍になっている印象です。
6年前は日本の物価の1/5~1/3程度の印象でしたが、今では日本の1/3~1/2程度の印象です。今回、地元民にも評判の、味自慢で数十年の歴史を誇る老舗店舗で食べたフォーは1食で約500円。日本で牛丼を食べるより高い価格です。欧米のリゾート地は言うまでもなく、アジア全域も「日本人にとって安く行ける海外旅行」は、過去の思い出話となりつつあるのを実感します。

ちなみに、家の中から出てきた「地球の歩き方2006-07」では、コーヒーは3,000ドン~6,000ドン、1ドン=0.007円とありました。当時で20~40円です。いかに物価が上がっているかがわかります。

ホーチミンで賃金について周囲の人に聞いてみました。職種や会社によって賃金相場は日本以上に多様ですので、もちろん一概には言えませんが、人々の平均どころとしては月給400~500USドル程度(52,000円~65,000円)ではないかという回答でした。これも、以前聞いていた300ドル程度という水準から上がっています。

トレーディングエコノミーズのサイトを参照すると、ベトナムの月給賃金は6,700千ドン、製造業で7,660千ドン(いずれも2022年9月時点)とあります。1ドン=約0.0055円で換算すると、それぞれ36,850円、42,130円となります。これはベトナム全域の数値ですので、これにホーチミン=最大都市の場合だと、上記がおおよその相場感としてはうなずけます。

この賃金水準に対する上記の物価水準を考えると、まだ可処分所得は限定的だと想定されます。上記レストランで言うと、1人の月収をほぼすべて使い切る食べ方となりますので、気軽に利用できるものではありません。そのうえで、可処分所得をさらに増やしたいという欲求、そして年々それが実現していっているという状況が、社会全体の動力源のひとつになっているのだと思います。

ある経営者様は、昨年600ドルだった社員の月給を700ドルに賃上げしたと言っていました。(詳細を尋ねる前に次の話題に移ってしまって聞きそびれ、600ドルというのが社員の平均給与なのか何なのか分からないのですが)10%を超えるような賃上げも珍しくないということでしょう。

これらのことを鑑みると、現行水準での日本への出稼ぎも割に合わなくなっていることがよくわかります。手数料の支払いや家族と離れるストレスなども考慮すると、例えば、日本人で応募がないような仕事の働き手を外国人に低賃金で求めて、その結果手元に残るのは月1~2万円程度、などの条件では、話にならないわけです。そのような条件なら、ベトナム国内で就労して、賃上げを待ちながら節約して生活したほうがよほどお金が貯まる、ということになります。

不便な面もあるインフラや、物価上昇、恒常的な賃上げの話を聞くと、日本で日常的となっている、あまり頭を悩まさなくてもいろいろなことができてしまうインフラ(これはこれですごくありがたいのですが)、物価や賃金の据え置き(最近多少変わってきていますが)が、世界的にはいかに例外かということを改めて実感します。時には国外の空気に触れてみるのが、やはり大切なことだと感じる次第です。

続きは、次回以降取り上げてみます。

<まとめ>
物価上昇・賃金上昇は、やはり国外では日常的。

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