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なぜジャスミン茶が2つ、麦茶が1つなのか

11月29日の日経新聞で、「手ぶらで歩く女性ついに発見 「酒瓶が入る服」需要発掘」というタイトルの記事が掲載されました。女性の方が手ぶらで外出できる服を発売し、好評を得ているという話です。

同記事の抜粋です。

女性から不意に「男性はいつも手ぶらでいいよね」と言われることがあった。確かに手ぶらで街を歩く女性を見かけたことがない。注意深く探してみたが、手ぶらの女性は見つからなかった。

化粧品や財布など必需品を持ち歩く必要があるほか、バッグそのものがファッションアイテムでもある。そう納得して手ぶらの女性探しをやめると、「そんな服を作っている」との話を今夏、ようやく聞いた。ネットを中心に衣料品を製造・販売する「Alyo(アルヨ)」(東京・港)だ。

社長の大橋茉莉花氏は一風変わった経歴の持ち主。大学の英語学科を卒業すると、「地下アイドル」やイベントコンパニオンになる一方、プロレス関係のライターもこなしていた。他人に自らを見せる仕事をしていたためか、美容やファッションへの関心も高く、SNS(交流サイト)でそうした分野の発信も始める。

すると美容記事の依頼が舞い込み、自らも使うファッション用コルセットについて執筆した。もっともコルセットは海外製が多く、日本人の体形に合いづらい。そこで「自分で日本人にフィットするファッション用コルセットを作ろう」と決心し、工場探しを始めた。

コルセット作りには時間と費用がかかる。資金集めの狙いもあって女性用衣料のネット販売も始めた。当初はセレクトショップを展開していたが、独自商品を提供することを決め、SNSなどでニーズを探り始める。すると気になる投稿が目に飛び込んできた。「男性のジーンズには長財布が入るが、女性のポケットは小さく、フェイクだ」

確かにニーズがないからなのか、ファッション業界の常識なのか、女性向け衣料品メーカーはポケットへの関心は薄い。そこで色々なものが入るスカートを企画し、酒瓶を出し入れする動画を発信したところ、大きな反響を呼ぶ。約200着が完売し、同じようなポケットを備えたパンツも投入すると、500着があっという間に売り切れた。

「大事なものはかばんに入れる。航空事故が起きるとたくさんのものを諦めないといけない。大きなポケットはこうした問題を解消できる」と大橋社長は話す。そして「ファッション性だけなら他のブランドでいい。アルヨは悩みのソリューションを前面に出し、ニッチとワオ(驚き)のスモールビジネスを進めていく」(大橋社長)。

最近では「女性のジャケットには(社章などを取り付ける)フラワーホールがない」とのSNSの投稿を見つけると、すぐに商品化。やはり完売だったという。ちなみに起業のきっかけとなった着用しやすい国産コルセットも投入済みだ。

ファッションはデザイン性を軸に成長してきた産業だが、ファーストリテイリングのユニクロが登場し、2000年代以降は機能性志向が強まった。11年の東日本大震災の後には避難意識が芽生え、女性もハイヒールからローファー、スニーカーと動きやすさを求めるようになる。

アルヨのように畑違いの業界から参入し、成功を収めたのは部屋着ブランドの「ジェラートピケ」を手掛けるマッシュグループだ。業界志向にとらわれない異端の視点から新市場が生まれるのは世の常。モノではなく、悩みや不満の「あるある」を探すコトが消費者を動かす。

たしかに、同記事中の記者が言うように、手ぶらで外出する女性の方を見かけません。バッグを持ち歩いています。しかし、そうした縛りから解放されたいというニーズもあるということを、同記事は示唆しています。そして、固定観念の中に埋もれていたニーズ、それが当事者すら気づいていなかったニーズであればあるほど、商機は広がると言えます。

同記者が指摘するように、「女性の方の外出は、必ずバッグを持ち歩くものだ」という固定観念で見ていると、相手が本当に思っていることやこうしたニーズには気が付かないということなのだと思います。往々にして、固定観念はさまざまな物事の妨げになります

先日、ある研修講師の方(女性)が次のように話しました。

先日3人でチームになって研修を行った。自分含めた2人が女性、1人が男性。事務局の人が昼食時に飲み物のペットボトルを持ってきてくれた。ジャスミン茶が2つ、麦茶が1つ。私はどちらかというと麦茶が飲みたかったが、男性の講師が麦茶をとったため飲めなかった。

なぜジャスミン茶2、麦茶1の組み合わせにしたのか、事務局の人に聞いたら、「なんとなく女性はジャスミン茶、男性は麦茶が合っているだろうと思った」という回答。気を効かせてくれたのだと思うが、ジャスミン茶を飲みたい男性も麦茶を飲みたい女性もいるはず。

しかも、当日はアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)の話も出てくる研修。その事務局でも、このような固定観念が発動した言動がある。こういった、不用意な前提に基づいたちょっとした行動の積み重ねが固定観念を助長する。そして、「女性はこうするもの」「男性はこうするもの」という固着化につながる。

「女性の方の外出は、必ずバッグを持ち歩くものであり、避けられない」という固定観念を物事の前提にしてしまっていたことと、同じだと思います。

相手とのやり取りの中であれば、自分の言動によって相手の表情が曇るのを見たり、苦言を受けたり、相手からフィードバックをもらうなどがあれば、自分の固定観念へのとらわれに気がつく機会にもなります。こうした固定観念があることに、自分ひとりだとなかなか気づきにくいものですが、気づけるよう工夫してみたいところです。

同記事から3つのことを考えてみました。ひとつは、「よいと思うものを見つけたら乗っかってみる」ということの意義です。

同記事の起業家の方のように、固定観念にとらわれない新しい発想が自分にもできるとよいのですが、誰もが思いつくものでもないのだろうと思います。創造性を強みにもつ人ならではで気がつくこともたくさんあります。また、1人の人の中でも、気がつきやすい領域、気がつきにくい領域というのもあります。

そのうえで、いろいろなものを見て考えようとすることはだれにでもできます。同記事の例のように、その領域の先駆者が開発した新たな視点の商品があるということなどを知り、「自分は○○という固定観念にとらわれていたんだ」というのに気づくことで、あるテーマに対してひとつ柔軟になることができ、一歩前に進めると思います。

幅広いことに関心を持つようにし、いろいろなものを見聞きして、自分以外の人が考えたいろいろなものに触れるというのは、やはり大切なことだと感じます。

続きは、次回考えてみます。

<まとめ>
固定観念を覆した、自分にはない発想が形になったものに、乗っかってみる。

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