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開廃業の増加を考える

6月30日の日経新聞で「日本企業、新陳代謝の兆し 開廃業ともに昨年1割増、競争で経済再浮揚」というタイトルの記事が掲載されました。ここ数年の開廃業数の増加を取り上げた内容です。

同記事の一部を抜粋してみます。

国税庁の法人番号サイトのデータを分析すると新規登記数は21年からの伸びが鮮明。23年は14万2659件と前年比で8.9%増え、比較可能な16年以降で最多となった。

コロナ後の経済の回復に政策の後押しが加わったのが大きい。政府は22年、スタートアップ10万社の創出を掲げて支援を強化した。例えば新興企業への投資を促す税優遇措置を23年度から拡大した。日本政策金融公庫は24年度から創業支援の無担保・無保証融資の限度額を増やした。

デジタル化の進展など環境の変化もある。中小企業の動向に詳しい一橋大学の植杉威一郎教授は「オンライン会議の普及などによって地方で開業するハードルが下がったのではないか」とみる。23年に秋田県や岩手県の前年比の増加率は東京都や大阪府と並んで2桁に達した。

社会保障を整える動きも進む。1日にはスタートアップで働く人を対象とする初の健康保険組合が発足した。従来の中小向けより保険料率が低く、企業の負担も軽くなる。

起業が活発になるのと同時に、市場から退出する企業も多くなってきた。法人の登記閉鎖は23年に4万3187件と前年比14.5%増えた。倒産は21年度に57年ぶりに6千件を下回っていたのが、23年度は9千件を超えた。危機対応の命綱だった無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」の返済が本格的に始まったためだ。ぬるま湯の環境は変わりつつある。東京商工リサーチの坂田芳博氏は「物価高や人手不足などで閉業や倒産は今後さらに増える」と予測する。

全体として新陳代謝が盛んになることが経済の追い風になるのは確かだ。主要7カ国(G7)を比べると、開業が活発な国は実質成長率も高い傾向が浮かぶ。過去5年の開業率が10%近い米国は平均成長率が2%に達する。日本は開業率が4.4%で平均0.1%のマイナス成長だった。

インフレは賃上げ圧力となり、金利上昇も呼ぶ。「金利ある世界」では企業の地力がより問われる。技術やアイデアを持つ企業が生き残りを競うことで市場に活力が生まれる。新陳代謝の動向は日本経済の再浮揚のバロメーターになる。

同記事では、企業の新設・閉鎖の推移を紹介したグラフも掲載されていました。2016年12月を100として数値化すると、新設は23年後半から120を超えています。一方の閉鎖は、コロナ禍対策で20年以降100を切っていましたが、23年後半に100を超えてきました。

特に23年から新設・閉鎖共に増加の勢いが高まっています。同記事の示唆に沿うと、スタートアップに対する政策の支援、場所を問わない事業運営のノウハウが発達したなどの環境要因を挙げられることができそうです。

一方で、閉鎖の増加は、「ゼロゼロ融資」の返済が本格化したなど、コロナ禍の緊急対策の終了が逆風となっている企業もあることが要因のひとつと言えそうです。

また、注目したいのは、新設数は17年以降常に100を上回り続け、閉鎖数をも上回り続けていることです。

同記事では、日本と米国に加えて、ドイツ、英国、フランス、カナダ、イタリアの開業率も図表で紹介されていますが、いずれも日本を大幅に上回っています。そして、経済成長率と開業率の伸びを縦・横の軸としグラフ化すると、おおむね右肩上がりの形になります。開業率のみが経済成長の要因ではないはずですが、正の相関があるように見受けられます。

日本の現状が十分かどうかはともかくとして、市場メカニズム全体の視点としては望ましい方向に向かっていると言えるのかもしれません。

これらのことから考えるべきことを2つ挙げてみたいと思います。ひとつは、企業各社にさらなる生産性の向上が求められそうだということです。

事業を取り巻くマクロの外部環境が、政策やオンラインインフラの発達など、企業の是々非々・新陳代謝を促すものとなっています。この流れは、今後も加速しそうです。新設された企業が新たな競合になるなども、今後増えていきそうです。

既存の各社としては、生き残りをかけて新陳代謝の流れに乗っていくうえで、組織の再編や事業の構造転換なども含めて、生産性を高める取り組みを一層加速させることが必要だと考えられます。

もうひとつは、人材の引き寄せです。

閉鎖の企業が増えているということは、元いたところから新たな活躍の場を目指す人も増えるということです。労働力人口が減っていくことによる採用難は、既に各所で言われているところですが、他方で既存の労働力人口による移動が増えていくということも想定されます。

このような人材の中には、新設のスタートアップ企業よりも、老舗の歴史ある企業のほうが向いている人も多いと想像できます。

先日訪問した、その地域で歴史のある中小企業様も、「なぜか昨年あたりから自社の求人への応募が好調。確かに採用活動は以前から注力して取り組んでいるが、特筆するような手法やメディアを追加したわけでもない。いろいろ分析しているのだが、実は好調の要因がよくわかっていない」と話していました。自社の良さや実情、求める人材を適切に打ち出し続けることで、同社様のような例も増えていくのかもしれません。

さらに一歩進んで、今後の見通しが立ちにくそうな他社の中から、合併を検討できる候補先も能動的に探すのも、環境の動向には合っていると考えられます。

一方で、企業の新陳代謝が進むということは、自社から他社へ人材が流出する機会が増えるということも想定されます。自社にとって適切な人材が自社に勤続することの意義を、これまで以上に伝えていくことも大切になりそうです。

<まとめ>
開廃業が増え、人材がより流動化する。

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