開廃業の増加を考える
6月30日の日経新聞で「日本企業、新陳代謝の兆し 開廃業ともに昨年1割増、競争で経済再浮揚」というタイトルの記事が掲載されました。ここ数年の開廃業数の増加を取り上げた内容です。
同記事の一部を抜粋してみます。
同記事では、企業の新設・閉鎖の推移を紹介したグラフも掲載されていました。2016年12月を100として数値化すると、新設は23年後半から120を超えています。一方の閉鎖は、コロナ禍対策で20年以降100を切っていましたが、23年後半に100を超えてきました。
特に23年から新設・閉鎖共に増加の勢いが高まっています。同記事の示唆に沿うと、スタートアップに対する政策の支援、場所を問わない事業運営のノウハウが発達したなどの環境要因を挙げられることができそうです。
一方で、閉鎖の増加は、「ゼロゼロ融資」の返済が本格化したなど、コロナ禍の緊急対策の終了が逆風となっている企業もあることが要因のひとつと言えそうです。
また、注目したいのは、新設数は17年以降常に100を上回り続け、閉鎖数をも上回り続けていることです。
同記事では、日本と米国に加えて、ドイツ、英国、フランス、カナダ、イタリアの開業率も図表で紹介されていますが、いずれも日本を大幅に上回っています。そして、経済成長率と開業率の伸びを縦・横の軸としグラフ化すると、おおむね右肩上がりの形になります。開業率のみが経済成長の要因ではないはずですが、正の相関があるように見受けられます。
日本の現状が十分かどうかはともかくとして、市場メカニズム全体の視点としては望ましい方向に向かっていると言えるのかもしれません。
これらのことから考えるべきことを2つ挙げてみたいと思います。ひとつは、企業各社にさらなる生産性の向上が求められそうだということです。
事業を取り巻くマクロの外部環境が、政策やオンラインインフラの発達など、企業の是々非々・新陳代謝を促すものとなっています。この流れは、今後も加速しそうです。新設された企業が新たな競合になるなども、今後増えていきそうです。
既存の各社としては、生き残りをかけて新陳代謝の流れに乗っていくうえで、組織の再編や事業の構造転換なども含めて、生産性を高める取り組みを一層加速させることが必要だと考えられます。
もうひとつは、人材の引き寄せです。
閉鎖の企業が増えているということは、元いたところから新たな活躍の場を目指す人も増えるということです。労働力人口が減っていくことによる採用難は、既に各所で言われているところですが、他方で既存の労働力人口による移動が増えていくということも想定されます。
このような人材の中には、新設のスタートアップ企業よりも、老舗の歴史ある企業のほうが向いている人も多いと想像できます。
先日訪問した、その地域で歴史のある中小企業様も、「なぜか昨年あたりから自社の求人への応募が好調。確かに採用活動は以前から注力して取り組んでいるが、特筆するような手法やメディアを追加したわけでもない。いろいろ分析しているのだが、実は好調の要因がよくわかっていない」と話していました。自社の良さや実情、求める人材を適切に打ち出し続けることで、同社様のような例も増えていくのかもしれません。
さらに一歩進んで、今後の見通しが立ちにくそうな他社の中から、合併を検討できる候補先も能動的に探すのも、環境の動向には合っていると考えられます。
一方で、企業の新陳代謝が進むということは、自社から他社へ人材が流出する機会が増えるということも想定されます。自社にとって適切な人材が自社に勤続することの意義を、これまで以上に伝えていくことも大切になりそうです。
<まとめ>
開廃業が増え、人材がより流動化する。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?