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追加の有給休暇制度は続くのでしょうか?(2)

前回の投稿では、経営の立場からは的を外していると思われる、従業員の要望について取り上げた、FINANCIAL TIMESの記事をテーマにしました。同記事に関連し、1.何かを提供する時には、それが当たり前にならないよう注意する必要があること、2.この手の問題は簡単に解決できるものでもないこと、を考えました。

3つ目は、視点をお客さま(自分の関わる相手や社会)に向けることです。

同記事には、「コロナ禍でメタが導入した追加の有給休暇制度を2023年も続けてほしい」という従業員の要望を筆頭に、各社で30代後半~40代のマネジャーから聞かれる20代の部下に関する以下のような不平不満が紹介されていました。

顧客が来社する時であっても在宅勤務を続ける。本社から離れて長時間の撮影をする時には勤務時間を短縮してほしいと言われる。顧客との会議や打ち合わせのための海外出張はやめてオンラインですべて済ませたいと言ってくる。オンライン会議へ終始カメラオフ・無言で参加する。

こうした事例からは、お客さまに対する視点が抜け落ちているように感じられます。

終始在宅から対応することや、撮影時間の短縮、終始カメラオフ・無言での対応で、自分が価値を提供すべき相手に対して、期待されている通りあるいは期待以上の機能や役割を提供できているのであれば、問題はないでしょう。期待値同等の価値をより効率的に提供できるのであれば、むしろ評価されるべき対応と言えます。

しかし、上記の事例では、相手に期待されていることが提供できているとは思えません。(もしかしたら問題なく付加価値を提供できていて、記事には事の顛末まで詳細な紹介がないだけのかもしれませんが、記事の様子からはおそらくそうではないでしょう)

そもそも私たちは何のために組織に集まって仕事をするのかということです。その組織が関わる相手に対して最大限できることを通して、社会に貢献するためです。継続的な貢献を可能にするために、相応の対価もいただきます。効率化や働きやすい環境の追求はけっこうですが、それによって相手に必要なことを届けられなくなるのであれば、意味がありません

従業員の要望や行動が、まずはこの原理原則を外していないかどうかだと思います。外している要望や行動は、組織として当然許容できないということになります。(もちろん、それをすることによってかかる手間とのバランスも必要で、物理的に成り立つかの程度問題の観点もあります)

自身のしようとしていることが、お客さま(相手が社内の場合は社内顧客)を通しての社会貢献、社会性の観点で成立しているのかどうかを、問いかけてみる必要があると考えます。今の若手世代は、環境保全のテーマなどをはじめ、社会性や社会貢献に敏感だと言われます。であれば、こうした問いが腑に落ちれば、各場面で望ましい対応となるよう行動変容することも期待できるかもしれません。

なお、それでも相手への貢献になんら関心が持てない、どんな場面でも効率的な働き方のほうが期待に応えるより優先だというのであれば、その組織に所属するのに適していない人材だということになると思います。個人として独立し、その個人が許容できる仕事のみを選んで対応すればよいと思います。

4つ目は、ミドル層以上の人材が本当にお手本になっているのかということです。お手本になっているかどうかというのは、自らの仕事の仕方が若手にとってモデルのように映っているかということと、その会社で働く意味や展望について若手に伝える行動ができているのか、の2つです。

同記事では、「最近、若者に対する不満があまりにも多く、かつその不満には共通点があることから、何か新たな要因が浮上しているのではないか」と問いかけています。記事の一部を抜粋してみます。

世代についての研究者で、20代の若者の採用の仕方や管理の方法を企業に助言しているエリザ・フィルビー博士は、コロナ禍によって20代と30代や40代との考え方やものの見方の違いが一段と顕著になったと指摘した。特に働き過ぎだったり、働き過ぎて燃え尽き症候群みたいになっていたりする30代、40代を見て彼らは違和感を感じている、と。

そうした状況をみれば、若い世代が上司に対し「なぜそんなに一生懸命働くのか。それだけ働いて、一体何を手に入れることができたのか」という疑問を持っても不思議ではないともフィルビー氏は指摘した。

また、若い社員はソーシャルメディア上に様々な投稿が尽きることなく上がるおかげで、自分の仕事やその報酬が他の人と比べてどうなのか、世間ではどんな募集が出ているのかを常に把握している。

彼らは、いざとなれば英ディポップのようなフリマアプリを使ってお金を稼げばいいという考え方で育ってきた世代だ。10代だった頃は学校での競争がその前の時代よりも厳しくなっていたこともあり、上司の世代がその年齢だった頃にやっていたアルバイトの経験も少ない。

こうして過保護に育てられてきた若者の多くは、正規の仕事に就けることが(アルバイトでするような)ビールを運ぶ仕事よりどれだけましかをほぼ知らずに最初に就職した職場にやって来る。そしてその仕事を続けていれば人生に必要な資金をすべて稼げるとも信じていない。

では、若者にどう対応すべきなのか。フィルビー氏はこう助言する。まず20代の若者の言い分をよく聞いて、質の高い訓練を与えよ。しかし、いかなる状況でも彼らの気まぐれな要求をいちいち聞き入れてはならない。なぜなら「彼らの生活まで支援するのが会社の役割ではないからだ」。

筆者も同感だ。一方、今は若くて野心のある勤勉な従業員にとっては、かつてない絶好の時代ともいえる。大いに満足できる仕事を見つけるのは容易なことではない。だが、もし見つけることができれば、周りはやる気のない同世代ばかりという可能性が高いだけに成功をつかめるチャンスは大きいからだ。

経営やマネジメントの原理原則が腑に落ちたとしても、周りにいるミドル以上の層がそれを実行しても報われていない、疲弊しているように見えてしまうと、若手世代としては当然そのようになりたいとは思わなくなります。

また、若手世代が身を置いてきた環境、その中で生み出されてきた価値観は、そうでない世代の想像以上に自分たちとは異なるという認識を持つべきなのでしょう。上記英国の例は日本とは背景が少し違いますが、それでも共通していることはあると感じられます。こうした状況の中で活路を見出そうとする層は、その層なりの事情や言い分もあるということです。

それを踏まえた上で、記事にもあるように「知っておいたほうがよいのに知らないこと」については、伝えてその価値を知ってもらう視点も必要だと思います。

以上、前回から4点について考えてみました。これら4つによってすぐに解決するような簡単なテーマではありませんが、できることに少しでも取り組むしかないと思います。

<まとめ>
物議を引き起こす要望や行動については、お客さまに対する視点からそれらが妥当かを考えてみる。

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