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理念浸透には対話の量が必要

10月19日の日経新聞で、「オムロン、理念が成長の礎 「より良い社会作る」仕事を評価 社長と社員、膝詰め対話」というタイトルの記事が掲載されました。理念実践の成果を表彰する世界大会を開催するなど、企業理念の浸透・実践に力を入れていることを紹介しています。

同記事の一部を抜粋してみます。

「よりよい社会をつくる」という創業者の理念を、社員が個々の持ち場で実践できる仕組みづくりに注力するオムロン。理念実践の成果を表彰する世界大会を開催し、経営トップは国内外の現場を足しげく訪ねて社員と膝詰めで対話する。理念への共感が組織を強くすると知っているからだ。ベクトルを合わせる努力は、営業利益で過去最高を更新する成長力の礎となっている。

「創業90周年の記念すべき年にTOGAが開催できて本当にうれしい」。9月下旬、オムロンが京都市内で開催した「The OMRON Global Awards」、略称「TOGA」の世界大会で、辻永順太社長はこう挨拶した。TOGAは理念実践の好事例を国内外チームの代表が京都に集って発表するイベント。オンライン含め社員のほぼ半数にあたる1万4000人が参加した。

オムロンにとってTOGAは「投資」の一環だ。早稲田大学の教授が過去のイベントの費用対効果を試算したところ「10億8千万円の支出に対して業績に与えたインパクトは少なく見積もっても17億5千万円」と推計された。多様な発想を生むきっかけとなり、イノベーション創出数の増加につながったからだ。

11回目となる今回は、オムロンヘルスケアの松島美帆さん(40)が先陣を切った。製品包装の脱プラスチック化を実現した仕組みを説明。所属する包装設計チームに加えて営業や製造、開発部門、中国やベトナム拠点など関わった約40人分の熱意を伝えた。中途入社組の松島さんは「TOGAを通じてオムロンが今まで以上に好きになった」とほほ笑む。

最高人事責任者(CHRO)の冨田雅彦執行役員専務は「TOGAは単なる表彰制度ではない」と力説する。評価は売り上げや利益の大きさではなく、企業理念の実現度合いです。よい取り組みを全社で共有するベクトル合わせが目的だ。最終選考に残っても順位は付けない。「社員にとってはこのプレゼン自体が働きがいの一つになっている」(冨田氏)

創業者の立石一真氏が社憲を制定したのは1959年だ。「われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう」との言葉は、90年に制定された企業理念に引き継がれた。オムロンは23年6月に取締役を刷新、設立後初めて創業家の取締役が不在となった。6月に取締役を退任した立石文雄名誉顧問は「経営の求心力を企業理念に置きかえてきた」と話す。

冨田氏も「今の社員は創業者を直接知らない世代が大半。仕事で意思決定に迷ったときは、企業理念に立ち返る」と説明する。重要な判断の軸になるからこそ、理念浸透には手間を惜しまない。

例えば、経営トップは国内外の社員と面談する「車座対話」を実施。辻永社長は23年4月の就任から頻繁に現場を訪ね、半年で20回以上の職場対話を続けてきた。企業理念と現場業務に乖離(かいり)がないか、自ら確かめるためだ。

オムロンは働きがいなどを調べる「VOICE」というエンゲージメント調査を実施している。理念の実践に何が必要か、生の声を集めているのだ。22年度の調査では4万件近くコメントが集まった。辻永社長と冨田氏は移動時間などを使って全ての声に目を通す。

経営トップをはじめとして、理念浸透のために並々ならぬ取り組みをしている様子がうかがえます。

これまでに見聞きした会社の中で、成果を上げていると言えそうな会社に共通しているのが、理念を共有する機会を意図的、計画的に多くつくっていることです。

トップが社員と関わる普段の仕事での場面で理念について都度話題にすることに加えて、タウンミーティングと言われる経営陣と従業員の対話集会を定期的に開いている会社もあります。

ファーストリテイリング代表の柳井 正 氏は、著書「経営者になるためのノート」で、GE社(ゼネラルエレクトリック社)の元CEOのジャック・ウェルチ氏の言葉を引用しながら、次のように説明しています。ここでは、「目標」という表現になっていますが、目標の先にある「目的」や「理念」なども同様だと思います。

「「1日のうちにあまりにも何回も会社がめざす方向性について話して、自分自身でいやになったことがある」名経営者とうたわれたジャック・ウェルチさんでさえ、日標の共有にはこれほどの努力をしたのです。これから経営者を目指す人が、その何倍も何十倍もの努力が必要なことは明白です。

目指すことを語るのに使う時間とエネルギーの、量の視点が強調されています。

先日、2つの会社で「会社が目指していることが分からない」と社員が話しているのを聞くことがありました。社員の方の話からは、どちらの会社にも足らないのが、目的や目標についてリーダーが語る量だと感じます。

一方でリーダーは「普段から何度も説明しているのに、なぜ伝わらないんだ」と言うのですが、基準が「自分」ではなく「相手」でなければなりません。相手が「分からない」「聞いていない」と言うなら、それは量が足らないということ。シンプルではありますが、大切なことは100回でも言う。そのことの大切さを、改めて認識しました。

「理念が浸透しない」とぼやく前に、オムロンほどの取り組みをしているのか。理念浸透をテーマに記事になる会社の取り組みからは、学ぶべきものが多いと思います。

関連記事の「必要性増す「パーパス」 日本企業、浸透度低く」では、次のように紹介されていました。(一部抜粋)

転職志向の高まりや価値観の多様化、テレワークなど、組織から離れようという遠心力の増大を背景に「社員の求心力を高めるため、企業には理念やパーパスという軸が必要になっている」とパーソル総合研究所の小林祐児・上席主任研究員は指摘する。

小林氏は、社員が十分に関与できず、経営や管理部門のみで策定する「暗室―伝達型」の施策では「理念の浸透度が低くなる」と説く。日々の業務を通じて社員が理念の実践を意識できる仕組みの整備が重要だという。その実現にはあらゆる機会や手法で社員との対話を深める経営サイドの努力が欠かせない。

調査では理念浸透が「社員のパフォーマンス」「就業継続意向」「ワーク・エンゲージメント(仕事への貢献意欲)」のいずれにもプラスに働くと分かった。企業の業績別でみると、業績の悪い企業は理念の浸透度も低かった。理念は業績や事業成長に直結すると認識し、浸透手法をどう工夫するかが問われる。

理念浸透と会社の組織が目指す成果創出との間に関係性が認められること、理念浸透には対話の量が大切であること。改めて認識したいポイントだと思います。

<まとめ>
会社がめざす方向性について、自分自身でいやになるほど話す。


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