見出し画像

抽象化と具体化

先日、ある企業様であったやりとりです。同社様が展開する店舗で、売り上げが伸び悩んでいることについて会議で話題になりました。

Aさん「既存客の流出が問題だと言われるが、うちの場合、新規顧客が獲得できていないことのほうが問題として大きい」

Bさん「いや、来店客数よりも、一人当たりの客単価が低いままであることのほうが、悪影響が大きい」

このやりとりは、一見すると建設的な議論になっているように感じられますが、実際は両者の論点がずれています。論点がずれたまま議論を続けても、かみ合わないままとなります。

「なぜ自店の売上が伸び悩んでいるのか?」というテーマに対して、構成する要素としては例えば以下のように展開できます。

<第一階層>
・「なぜ自店の売上が伸び悩んでいるのか?」⇒「来店客数が少ない(もしくは減っている)」か「1人当たりの客単価が低い(あるいは上がらない)」のいずれか

<第二階層>
・「来店客数が少ない(もしくは減っている)」⇒「既存客が他店に流れた」か、「新規の来店客が獲得できていない」のいずれか(この店の属する業界へのニーズが減り、他店含め来店数が減ったという可能性もあるが、同業界は該当しないと想定し、省略)

・「1人当たりの客単価が低い(あるいは上がらない)」⇒「1人当たりの購入品数が少ない」か「1品当たりの販売金額が低い」のいずれか

<第三階層>
・「既存客が他店に流れた」⇒「他店に比べ自店の商品の魅力がない(もしくは下がった)」か「商品の内容以外の価格・サービスの魅力がない(もしくは下がった)」のいずれか・・・

上位の階層を論点とした時の考えが意見になります。Aさんは、「来店客数が少ない(もしくは減っている)」を論点とし、その論点に対する意見として「新規顧客獲得ができないのが問題」と言っています。

それに対して、Bさんはより上位の「なぜ自店の売上が伸び悩んでいるのか?」を論点とし、その論点に対する意見として「1人当たりの客単価が低いのが問題」と発言しています。論点がずれている以上、このまま議論しても結論は出にくいでしょう。よって、何をテーマに議論するのか、まず論点を合わせる必要があります。

上記のやり取りで、最も抽象度が高いのが「自店の売り上げが伸び悩んでいる」です。第三階層からさらに第四階層以降に展開していくことで、事象がさらに個別具体化され、具体度が高まっていきます。

部下に対する業務マネジメントや人材育成では、適切な具体化度合いが大切になってきます。

例えば、別の企業様で経営幹部の方から、次のような話を先日聞きました。

・来年予定する会社の記念式典を、企画プロジェクトチームをつくって行うことにした。プロジェクトチームは立候補制で、参加を希望するメンバー数人でチームが編成された。自主性を発揮し、創造性を生かして自由な発想で社内外の人を巻き込むことで、メンバーにとってよい経験になると考えた。

・そして、チームのキックオフにて、「これまでにない記念式典を企画してほしい」とメンバーに依頼した。何の前提や制約条件なしに、自由な発想で企画案をつくってよいこと、役員の中間報告会の場まで報告は不要、中間報告の場で企画案への正式な承認を行うこと、を伝えた。

・しかし、集まったメンバーからは、「そんなふわっとした指示では動けません。もっと具体的にやるべきことをリストアップしてください。そしたら、速攻動きますので」と言われた。自由な発想を期待したいプロジェクトだからと説得してしばらく企画を考えてもらうようにしたが、やはり進まなかった。

・3か月ほど経っても何も進まず、このままでは式典ができなくなるという状況になってしまい、結局、自分でアイデアを考えて、具体的な指示に置き換えて動いてもらうようにした。その結果、もともとこの取り組みで趣旨としていたことがひとつ失われてしまった。出だしが遅れたので準備がひっ迫してしまい、その分余計な調整の手間も発生して、実に非効率な動きになってしまっている。

この例は、部下への仕事の依頼において具体化度合いがうまくいかなかった結果を表していると言えます。

「これまでにない記念式典を企画する」というのは、抽象度がMAXの依頼の仕方です。一方で、記念式典に必要な要素を冒頭の階層のイメージで次々に細分化していき、「食事の手配についてはいくらの予算で何時の配膳で立食で料理の内容は○○で・・・」と依頼すれば、個別具体的になります。

抽象度が高い依頼であればあるほど、依頼される側は面白さを感じ、知識や経験を活用しながら能力を高める機会になります。一方で、知識や経験がなければ途方に暮れてしまう可能性もあります。依頼する側は、指示の手間がかからず、期待を大きく上回る予想もしていない結果を得られるかもしれない反面、期待を大きく下回るかもしれないリスクを負います。

具体度が高い依頼であればあるほど、依頼される側は面白さを感じにくく、能力を高める機会にはなりにくくなります。一方で、何をすべきか明確なため困ることはありません。依頼する側は、指示の準備がたいへんとなる分、期待に対する結果のぶれ幅はなくなります。

上記式典の例は、抽象度の高い依頼で得られることを期待していたものの、下方リスクが最大で現実化してしまった、というわけです。

2つの例を取り上げてみましたが、これに近いやりとりは、私たちの日常で多く見かけられます。論点のずれは、抽象度のずれと言うこともできます。仕事の依頼=受け渡しがうまくいかない場合は、依頼する側とされる側が期待している抽象(具体化)度合いが合っていないと言うこともできます。

お互いの考える抽象度(具体化度)の目線合わせは大切だと思います。

<まとめ>
仕事の受け渡しでは、期待する抽象度(具体化度)を合わせる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?