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有意注意と無意注意

外を歩いていたら、建物が解体され更地になっているところがあるのを見かけました。また、更地だった区画が駐車場になっているのも見かけました。

いずれの更地も、以前何の建物があったのか、店だったか家だったか、まったく思い出せませんでした。見慣れたいつもの景色ですので、何が建っていたのかこれまでに何度も見ているはずですが、思い出せないものです。定期的に通い続けたクリニックなど、自分にとって大事な建物であれば話は別だと思いますが。

更地になった景色を見たことは今までにもたくさんありますが、以前の建物を思い出せたためしがありません。皆さんはいかがでしょうか。(建物があまり密集していない地域では、事情がまた違うのかもしれませんが)

これは、「有意注意」になっておらず、「無意注意」になってしまっている事象の典型でしょう。

「有意注意」「無意注意」とは、中村天風氏や稲盛和夫氏がよく使う言葉のようです。京セラ 稲盛和夫 OFFICIAL SITEでは、次のように説明されています。

~~目的をもって真剣に意識を集中させることを有意注意といいます。
私たちはどんなときでも、どんな環境でも、どんなささいなことであっても気を込めて取り組まなければなりません。最初は非常に難しいことのように見えますが、日頃、意識的にこれを続けていると、この有意注意が習慣になってきます。そうなれば、あらゆる状況下で気を込めて現象を見つめるという基本ができていますから、何か問題が起きても、すぐにその核心をつかみ、解決ができるようになります。

ものごとをただ漫然とやるのではなく、私たちは、日常どんなささいなことにでも真剣に注意を向ける習慣を身につけなければなりません。~~

まさに、見慣れた景色に対して、真剣に注意を向けることをしていないために、何が存在しているのかが見えないわけです。「見ているが見えていない」、つまりは無意注意の状態になってしまっている、と言っていいでしょう。

見慣れた景色の中の正確な建物配置を無意注意で見逃してしまうだけなら、別に問題はありません。しかし、これが例えば会社の中の景色であれば問題でしょう。

オフィスや工場内のモノの配置・状態、上司や従業員の表情・言動、かかってくる電話の回数や内容、ヒヤリハットの数や業務プロセスの遅延など、事業活動の状況が表れているちょっとした変化に重要な兆候が見て取れそうなことは、たくさんあるはずです。無意注意ではこれらを見逃してしまい、重大クレームなど取り返しがつかない問題が発生してからやっと気が付いて、「今にして思えば、最近なんとなくオフィスの中が、、、」ということになりかねません。

無意注意を有意注意に変える有力な方法が2つあると考えます。
ひとつは、注意するべき対象を選び、「何にどう注意するのか」を決め、決めたことに対して全集中し続けることです。例えば車の運転も、初心者の頃は「あそこから子供が飛び出してかもしれない」「この角度でバックして駐車スペースに収まるだろうか?ギアはちゃんとバックになっているか?」など、実に細やかな神経を使いながら運転するはずです。ところが、ある程度運転が慣れてくると、そこまで神経を使わずとも運転できるようになります。

それだけならまだしも、傲慢にも「少しスピードを出しても大丈夫だろう」などと考え、自分の運転に慢心するようになります。そして、突然曲がり角から人が出てきて、「危ない!」と急ブレーキを踏み危機一髪、ということになります。初心忘るべからずとは飽きるほど聞かされている言葉ですが、まさに何事も初心忘れずの精神で、見るべきものに対しては注意をはらい続けるべきでしょう。

もうひとつは、新鮮な視点を持った人の意見を大切にすることです。初心者運転の精神をもって運転という物事を見ることができている人の意見です。その代表格は、新入社員(中途入社を含めた)です。

彼らの感覚や意見は、会社経営・事業活動の全体像、その会社の実情を理解していないがために、的外れなことももちろんあります。その一方で、前からいる社員が無意注意になってしまっていることが有意注意で見えるがための、本質的に的を射た意見であることもしばしばあります。

あるいは、思ったことを遠慮なく言ってくれる社外のお客様や協業者などです。組織内部の人にとっては空気のように当たり前のことになってしまい、「見ているが見えていない」ことについて、指摘をもらえるのは有意義です。苦言も含めて貴重な声だと思って、無意から有意注意に切り替えるきっかけとしたいものです。

今月も、多くの企業で新卒の新入社員が入社されたことと思います。素朴な疑問の声を(採否は二の次として)素直に受け止めること、そして素朴な疑問の声をあげてもらえる風土を維持することが、とても大切だと思います。

<まとめ>
自分が無意注意になっているかもしれないと振り返ってみる。


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