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週休3日を考える

4月12日の日経新聞で、「日立、週休3日で給与維持 生産性向上へ働き方改革」というタイトルの記事が掲載されました。週休3日制は以前から話題になっていましたが、大手企業の本格導入ということで注目されそうです。

同記事の一部を抜粋してみます。

~~日立製作所は給与を減らさずに週休3日にできる新しい勤務制度を導入する。働き方を柔軟に選択できるようにして多様な人材を取り込み、従業員の意欲などを高めて生産性を引き上げる。成果さえ上がれば働く日数や時間にこだわらない経営が日本で広がる可能性がある。

日立は本体の1万5000人を対象に、月間の所定労働時間を勤務日ごとに柔軟に割り振ることができる新制度を2022年度中に導入する。1日3.75時間としていた勤務時間の下限をなくし、働く日を従業員が選びやすくする。例えば、月~木曜日の労働時間を9~10時間と所定の7時間45分より長くし金曜日を休めば週休3日にできる。月前半の労働時間を長くして月末に大型連休をとることもできる。子供の学校行事などの合間に1時間だけ働くことも可能だ。

米フューチャー・フォーラムが21年11月に日米英などの約1万人を対象に実施した調査では、95%が勤務時間を柔軟に変えられる働き方を希望すると答えた。

NECは22年度中の週休3日制導入を目指している。まず本体の社員2万人が週休3日を選べるようにし、グループ会社に順次広げる。給与は勤務日数が減った分だけ減額を検討する。パナソニックHDも22年度中に試験的に採用する。

海外でも週休3日制が広がり始めている。英レディング大学が週休3日を導入した英国の経営者約500人を対象にした21年11月の調査によると、68%が優れた人材の獲得につながると答えた。~~

実際に、週休3日制の企業のほうがそうでない企業より人材の獲得につながるとなると、人材戦略上検討課題にはなりそうです。

ここでは、同記事に関して4つのポイントで考えてみます。1つ目は、生産性向上の期待につながるという点です。

同記事内容によると、これまで一律だった所定の労働時間を、今後は一律ではなく各労働者の意思によって時間帯を再編できるということです。つまりは、所定の労働時間が減るわけではなく、だから給与も変わらないという構図です。

個人が考える、自分にとっての生産性が高い労働時間のあり方を個人の意思で選ばせることで、生産性が高まることが期待されます。ただし、チームとしての協業体制の変化によってチーム全体ではかえって非生産的になっていないかどうかを、見ておく必要があります。

2つ目は、日立製作所の例も広い意味では給与減額になるのではないかという点です。(同制度詳細を存じませんので、ひとつの可能性として、ですが)

週休3日制にすること自体では給与減額になりませんが、勤務しない日が設定可能になることで、時間外労働(残業)で対応できる日が減ることになると思われます。その結果、その分時間外手当(残業代)の支給が減る効果が予想されます。(既に残業時間によらない成果物ベースの給与制度になっていたら、当てはまりませんが)

仮に生産性が上がり、時間外手当も減らすことができれば、労使ともにWin-Winの取り組みと言うことができます。

3つ目は、何を労働の対価と考えるべきかの視点です。NECでは、週休3日を選んだ場合、給与が勤務日数が減った分だけ減額にするルールで検討とあります。同記事を参照すると、日本企業でこれまで週休3日制が導入されている企業では、勤務日の減少=総労働時間の減少=賃金減少が一般的でした。このことは、貢献の度合いが労働時間に比例するとみなして、それを対価の対象にしていると考えることができます。

日立製作所のような場合、勤務日数に関わらず労働時間自体を維持するとしても、週休2日の労働者と負担が同じとは限りません。

勤務していれば、なんだかんだで計画外の突発的な業務にも対応することになります。経営・マネジメントによる急ぎの依頼、お客さまからのクレームへの対応、業務プロセスの急な不具合などです。必要に応じて時間外対応が発生するかもしれない緊張感もあります。休日扱いにしていれば、こうした負担からは解放されることができます。月間の総労働時間が同じでも、こうした負担を受け入れる日数が多いか少ないかで対価を分けるべきだ、という考え方もありだと思います。

月間の総労働時間が同じであれば勤務日数の違いは給与に影響しない、あるいは差をつける、どちらが正解というわけではありません。いずれにしても、自社が何に対して給与を支払うか、あるいはそれ以上に、自分が何に対して給与をもらっているかを、より明確にする必要があると言えます。そもそも完全成果物ベースによる給与制度であるならば、給与決定に当たって労働時間の長さ自体は論点になりません。

4つ目は、労働時間の短さではなく自由度を求めている人も多いのではないか、という視点です。記事のような働き方を選んだ人が、余裕の出た時間で何をするのかは人それぞれですが、介護・子育て・自己研鑽・副業など、いわゆる単純な消費活動ではない時間の使い方をする人も多いと思います。こうした人たちが求めているのは、空き時間の増加ではなく、より有効な時間の使い方と言えるのかもしれません。

「働き方改革」は、労働時間を減らすことと一体で語られることが多いスローガンです。しかし、日立製作所の例のように、労働時間自体は変わらずとも労働者の自由度を高めるという取り組みも、働き方改革になります。このことは、他社や個人にとって今後より参考にしていくとよい視点だと考えます。

<まとめ>

労働時間については、総量の観点と自由度の観点で考えることができる。

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