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家庭の事情を気づかったつもりが(2)

前回は、ある管理職の方から聞いたお話をテーマにしました。子育て中の女性社員Aさんに対して、現状以上の業務負荷をかけられないのではないかと勝手に思い込んでしまっていた、改めて本人に聞いてみたところ新たな業務をお願いできた、というお話でした。

このエピソードから感じたことの2つ目は、相手の特徴を理解することの大切さです。

同管理職の方は、ソーシャルスタイルという行動科学の理論(デイビッド・メリル博士によって構築)を手がかりに、Aさんに対する理解を深めようとしたそうです。

ソーシャルスタイルとは、他者から観察できるような、人が習慣的にとる行動の傾向のことです。人の行動傾向について、「自己主張度」と「感情表現度」の2つの尺度の組み合わせによって、4つのソーシャルスタイルがあると捉えるアプローチです。

「自己主張度」:自分の意見を主張する傾向があるか、それとも他者の意見を聞く傾向があるかを測る尺度

「感情表現度」:感情を率直に表現する傾向があるか、感情を抑える傾向があるかを測る尺度

各スタイルには、特徴的な行動傾向が認められます。「自己主張度」と「感情表現度」とは、「どのレベルがいい」というものはなく、4つのスタイルにも優劣はありません。各スタイルの特徴による組織への貢献の仕方は、ざっと以下のイメージです。

・思考派 (アナリティカル):自己主張度低×感情表現度低
すべてを検討する
情報収集する
原則や規律を守る
客観的、公平である

・協調派(エミアブル):自己主張度低×感情表現度高
チームの人間関係を構築する
人を支援する
1対1の人間関係を大事にする
責任を共有する

・行動派(ドライビング):自己主張度高×感情表現度低
実行する、結果を出す
自律的、自分から動く
費用対効果を考える
困難を引き受ける

・感覚派(エクスプレッシブ)::自己主張度高×感情表現度高
ゴールに向かってまわりを動機づける
自ら強い人間関係を築く
新しくユニークなものを生み出す
困難な状況でもエネルギッシュに問題解決する

同管理職の方は、Aさんに協力してもらい、簡単なチェックリストに答えてもらった結果を見て、Aさんが協調派(エミアブル)だと把握したそうです。

その結果も踏まえながら、Aさんに新たな業務をお願いするにあたって、「いつもとても助けてもらっている」「私を助けてほしい」といったイメージで、「自分を助けてくれると助かる、だからお願いしたい」というニュアンスを強調して伝えたそうです。

この背景には、同管理職の方も同様に、ご自身のスタイルも協調派(エミアブル)だということが影響していたそうです。つまりは、「自分だったらどう言われると動きたくなるか」と想像し、それを相手にも応用したというわけです。

上記のような頼み方をしたからうまくいったとは限りませんし、また次もうまくいくとは限りません。また、突き詰めると人は一人ひとり異なるものです。人を4つだけの分類に当てはめて、4種類のアプローチ「だけ」でうまくいく方法を考えようというのも、本質的ではありません。

そのうえで、同じことを尋ねるにもどうせなら相手の特徴を踏まえたうえで有効な尋ね方をする、特徴を捉える上でタイプ分類はある程度有効な面もある、ということは確かなのではないでしょうか。

この手のタイプ分け診断は様々なものがあり、全部やっていくときりがありません。その中でも、自分が使いやすいと思うものについて理解を深めておき、自分なり参考にできる状態にしておくとよいと思います。

とはいえ、そうした診断やタイプ分けに、過度に依存しすぎないことも大切です。例えば、「キャリア・アンカー」という、個人がキャリアを選択する際の価値観・自分の軸を8つにタイプ分けするものがあります。Aさんに協力してもらい、キャリア・アンカーのタイプ分けも行ったそうですが、その結果当てはまったのは「生活様式(LS)」だったそうです。以下、8つのタイプ分けの参考です。

専門・職能別コンピタンス(TF):自分の専門性や職能が高まること:特定の分野で能力を発揮し、自分の専門性や職能が高まることに幸せを感じる。

全般管理コンピタンス(GM):組織で責任ある役割を担うこと:集団を統率し、権限を行使して、組織の中で責任ある役割を担うことに幸せを感じる。

自律・独立(AU):自分で独立すること:規則に縛られず、自分の納得する仕事の標準、ペース、やり方で仕事を進めていくことを望む。

保障・安定(SE):将来の出来事を予測できること:所属する組織に忠誠を尽くし、社会的・経済的な安定を得ることを望む。

起業家的創造性(EC):創造的な事業を試せること:夢に貪欲で、リスクを恐れず、クリエイティブに新しいものを創り出すことを望む。

奉仕・社会貢献(SV):大義のために身を捧げること:なんらかの形で世の中をもっと良くしたいと思い、社会的に意義のあること望む。

純粋な挑戦(CH):解決困難な問題に挑戦すること:解決困難に見える問題の解決や手ごわいライバルとの競争にやりがいを感じる。

生活様式(LS):生き方全般のバランスと調和:個人的な欲求や家族の願望、自分の仕事などのバランスや調整に力をいれる。

この結果を見て、「Aさんは生活様式タイプだから・・・」と、過度に意識した対応や、タイプの定義を鵜呑みにした極端な解釈をしてしまうと、そもそもの発端となった「勝手な思い込みによる制約」を助長する結果となるかもしれません

あくまでも、見るべきは目の前にいる、一人ひとり、各人、なのだと思います。

<本日の一言>
タイプ分類などの方法を手がかりにしながら相手への理解を深めつつも、一人ひとりをよく見る。


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