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仕事にはエンゲージメントしない仕事人

前回の記事で、個人の職業人生におけるミッションやビジョンの意義について考えました。先日Aさんという方にコーチングを行う機会があったのですが、その時聞いたお話の中で、ミッションやビジョンに関連する興味深い内容がありました。

Aさんは私が定期的なコーチングを行っている相手の方です。Aさんは、社長にヘッドハントされて今の会社に勤めています。社長の信頼も厚く、社内変革を任されていて、聡明で優秀な人物です。今は業務プロセスの変革を担っていて、生産性改善の成果を上げています。

先日下記のお話を聞きました。
「私は仕事に対してエンゲージメントしない。エンゲージメントは、人と組織に対してしかしない。」

「エンゲージメント」という言葉は、組織・人材育成領域でよく聞かれるようになった言葉です。状況によっても様々な意味に解釈されますが、「愛着心」や「思い入れ」といった意味合いで捉えてよいでしょう。会社経営においては、従業員の会社に対する愛社精神や絆の意味合いで使われることが多いようです。

Aさんのお話は、上記だけだと唐突でよくわからない印象を受けますが、そこには以下の背景があるようです。

・どの業界・事業領域の会社でもよくて、そこにはこだわりない。
・自分の担当する職種や仕事内容も何でもよい。
・ただし、自分が好きになれる社員と一緒に仕事ができることが重要。特にミドル層以上のトップが自分の強みに対して理解があること、よい関係性が築ける組織であることが重要。
・経営陣が社員の幸せ、人の幸せを重要だと思っている人でないとだめ。言ったことをやらない人、言ったこととやっていることが違う人、自分だけよければいいという人の下では働けない。
・会社のためになるなら、自分が担当する仕事であってもいつでも壊せる。
・自分のモチベーションの基盤は、恩返し。自分を評価してくれる相手に対して成果を出すのが楽しい。今は、貢献したい相手が目の前の会社・社長だということ。
・自分が何が好きなのか、ある程度わかっている。なので、自分のキャリアに関するだいだいの方向性は、外さないと思う。

まだ社会人数年目ですが、上記を聞くと自己理解(特に価値観)はとても明確に進んでいる印象を受けます。確かに、仕事に対しての愛着はあまり見受けられない一方、人と組織に対しての愛着は大いに見受けられます。そして、10年後、20年後に自分がどういう状態になっていたいのか等の目標もとても明確なのですが、それも「仕事」という切り口がなく、「人」「組織」「社会」に対してが切り口になっている内容ばかりです。

前回までのコラムで、「仕事への思い」をテーマに、「ミッション」「ビジョン」について考えました。この「仕事への思い」は、自分が担当する具体的な職種や業務領域に限らなくてもよいというのを、Aさんからは感じます。つまりは、自分にとっての思いの矢印が職種や業務領域に向いてなくても、例えば人や組織に向いていることでもいいだろうということです。

「キャリアづくり」「キャリアビジョン」などと言うと、「自分の専門領域を定義して、その領域でどうなっていたいのか具体化させないといけない」のような切迫感に囚われがちになります。しかし、キャリアとはそもそも生き方の一部だと思います。つまりは、「自分にとっての幸せ」です。

どういう生き方が自分にとって幸せか、という観点で考えると、Aさんなりの的を射た自己理解が見てとれます。自分にとってのミッションやビジョンの明確化も、こうした観点で少し肩の力を抜いて向き合ってもよいでしょう。

<まとめ>
エンゲージメントの対象も、人それぞれ。

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